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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
大陸の章~邪神の右腕編
73/122

智将と猛将

サウロン家とニフル家は親戚筋であり、砦の連結に至るも互いの家の協力と協調がなくては成り立たなかった。

結論として、領主二人の間柄はとても良好だった。

サウロン家は、自分が生きられた事はニフル家の事績が影響していると理解しており、感謝と共にその風上に立とうとはせず。

ニフル家は、サウロン家の分家であるとして本家筋としてのサウロン家を立てた。

互いが互いを上に置こうとして譲らず。これは初代から続く気風であるのだという。


「久しいな、サウロン将軍、ニフル将軍」

「は。殿下に於かれましては、ご機嫌麗しく」

「ご無沙汰しております、殿下。して、この度はどういった御用向きで」


連合城砦には元々、それぞれに皇族来訪用の謁見の間が存在した。

しかし、連合城砦となった折にそれぞれの謁見の間は破棄され、砦中央奥に新たに謁見の間が用意されたのである。

かつての謁見の間は改装され、およそ二つから三つの執務室として活用されているそうだ。

とまれ、その謁見の間では現在ダインが座している。皇帝の座に座る訳にはいかないので、その脇に誂えられたものの方だが、跪く領主二人に対しての威厳は流石と言うべきものだろう。


「邪神の右腕の活性化が始まっている」

「何ですと!?」

「予測された時期より少々早いですね。…殿下がこちらにお見えになったという事は、停戦交渉は不調に終わったという事ですか」

「ああ。こちらの策略だろうと断ぜられた。今回は我々だけで対処せねばならんという事だ」

「殿下が交渉に向かわれる訳ではないので?」


疑問符を浮かべたのはサウロン将軍と呼ばれた偉丈夫の方だ。

ランブルス・サウロン。鋼の猛将と呼ばれ、一人ひとりが亜人と互角の勝負が出来ると噂の黒鋼兵団を指揮する。

当人もまたその指揮官として、常に最前線で戦う為将兵の信頼も篤いと言う。

そして亜人からの憎悪を一身に受けるサウロン家の当主として、敵軍から目の敵にされている人物でもある。


「私が向かった程度で状況が変わるとも思えん。そして停戦交渉を終えたとて、アズードの神性どもが手を貸してくれるまでにどれだけかかるか」


先だっての火群の言を信じるならば、邪神の右腕への対応にアズードが手を貸してくれる確証は持てない訳だ。

だが、そのような事をこの二人に告げても益はない。

ダインの言に、今度はニフル将軍と呼ばれた方が首を傾げた。


「では、殿下はこちらには物資の補給で寄られたという事なのですね」

「そうだ。だが御者を少し休ませねばならんのでな、暫し滞在する予定だ」

「左様ですか。では客間を用意しなくてはなりませんね」

「必要ない。商人向けの宿で構わんから、余計な気を遣うな」

「いや、しかし」


食い下がるニフル将軍は、ランブルスの半分程の筋肉量しかない優男であった。

レライ=ニフル。砦の智将と呼ばれ、射撃に特化した術士と弓兵で構成された黄嘴兵団を率いる。

砦からの精密無比な射撃が、ランブルスの黒鋼兵団を効率的に援護する事で、サウロン=ニフル連合城砦は難攻不落と謳われている。

余談ではあるが、顔立ちは親戚筋であるランブルスとは似ていない。年月の影響は大きいという事か。


「ダイン。こちらの御二人の顔を立てる必要もあるだろう」

「しかしなショウ…」

「俺と弟子達の事は気にしなくて構わないが、ミューリ殿達の泊まる場所は気を遣って遣い過ぎる事はないと思うのだが、どうか」

「そうか…そうだな」


ショウの発言に、ランブルスとレライが目を丸くする。

主筋であるダインと対等に会話をするこの東国人は何者か、と。


「済まぬ、ニフル将軍。客間を二つ、用立ててくれるか」

「二つ、ですか。それは構いませんが…」

「御無礼を承知で伺います、殿下。そちらの御仁は一体」


レライが頷くと同時に、ランブルスが疑問を叩きつけてくる。成程、見た目通りの直情径行であるらしい。


「紹介が遅れたな。この男はショウ=シグレ。我が友であると同時に、此度の件で闘神ホムラ様から遣わされた御名代の御一人である」

「闘神様の御名代!?」

「そもそも闘神様が実在している事に驚きますね…」

「もう御一柱は女性の神性であらせられる。身の回りのお世話の方と合わせて、ミューリに対応させる」

「はい。男女で一室ずつという事でございますね」

「そうだ。任せる」

「は」


頷くレライ。

視線を動かしてランブルスを見ると、確りと目が合った。

何となく言いたい事が分かったので、釘を刺しておく。


「…手合せは受けませんよ」

「うっ!?」

「…ランブルス。黒鋼兵団の指揮官ともあろう者が、陛下の賓客に挑むのはよくない」

「しかしだなレライ。闘神様の名代とはどれ程の御力を持つものであるか、知りたくはないかね」

「…サウロン将軍。我が国の将軍位に在る者は皆国家の至宝だ。その一人が大恩ある闘神様の名代に挑む事、その意味を理解しているか」

「…!?も、申し訳ございませぬっ!」


困らせたい訳ではなかったのだが、蒼白になったランブルスが頭を下げてくる。ダインは小さく溜息をついてみせた。


「良い。ところで帝都で起きた事件については情報が入っているか?」

「事件!?何かありましたか」

「伝令はありませんでしたが…まさか獣の絶地が何か?」

「ふむ…いや、試すような真似をして済まない。邪神崇拝者が城に入り込んだのだ」


その言葉には、今度こそ将軍二人を絶句させるだけの力があった。


「ま、まさか皇族の方に怪我などは…?」

「それは未然に防いだ。とは言え次兄エザニィが生皮を剥ぎ取られてな。今は治療中だ」

「なんと…。では、この砦に来られた理由とは」

「人材の汚染がないかを調べなくてはならん。獣の絶地との最前線はここだからな」


城砦の陥落は今までになかった事ではない。この連合城砦以外は何度か陥落した事もあるし、都度それを取り返したのは周辺の城砦や帝都からの援軍である。

城砦の陥落は、無論戦争を不利にする材料ではある。しかし、取り返しがつかなくなる城砦の存在は少ない。

サウロン家が常駐するこの城砦は必ず獣の絶地の最優先目標とされている。

邪神崇拝者が馬鹿でもない限り、毒を仕込むならばここだ。


「我々は―」

「ああ、御二人が汚染されていないのは分かる。瘴気の臭いがしないからな」


釈明しようとする二人に掌を示して止めると、ショウはダインの方を振り返った。


「ダイン。馬車に積んだ聖石では間違いなく足りないのは分かった。まずは汚染の状況から調べる事になるが、良いか」

「ああ。聖石は後程チッポ族が運んでくれる算段になっている。中の汚染を駆逐したら次は彼らの護衛だ。ここは最前線だからな、問題は邪神崇拝者だけではないのだ。頼む」

「了解した。御二方、突然軍の誰かを斬り捨てる事になるかもしれないが、その場合は邪神崇拝者だけとなる。後始末はこちらでするから、その辺りの配慮を頼む」

「斬り捨て…いや、しかしですな」


そのような様子が街中で行われれば、流石に問題を隠す事は出来ないだろう。

二人の焦る理由は理解できる。


「何、触れを出してくれれば良いのさ」

「触れ、ですか」

「邪神崇拝者は緑がかった血を流す、と。俺も流石に瘴気の臭いのしない奴を問答無用で斬り捨てる心算はないからな」

「緑色、ですか。確かに魔獣の中には緑色の血を流すものが在りますが、人もそうなると」


顔色を悪くするレライに、ダインが返す。


「ショウは見境のない殺人鬼ではない。我が友の言、信じてやってくれないか」


頭を下げるダインに、将軍二人は互いに顔を見合わせた後、頷いてくれたのだった。

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