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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
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誇りで飯は食えぬ

ディフィの案内で現在の宿から彼らの根城へ向かう途中。

ショウはディフィの隣に寄ると、小声で問いかけた。


「そちらのお仲間はこれで全員か?」

「…いや、集められる中で精鋭を集めた。構成員だけなら三倍はいる」

「ふむ。…ではその全員が我々を受け入れる事は出来そうか」


先程と同じことを問う。しかし、彼だけに聞くところに意味合いの違いを感じたのか、済まなそうな目を向けてきた。


「…無理そうだな」

「我々にも派閥があってな」

「成程」


小さく溜息をつく。セシウス達の話によれば、合流した時には既に手配が済んでいたことになる。

万が一逃げた場合を考えてディフィ達の手配りを済ませていたのだとすれば、立つ推論は一つ。


「その派閥は伯と結びついているのか」

「うむ。我々の矜持には反するのだが、何せ金払いが良い」


どうにもショウの頭の中で、『頭が弱い』とされた伯の評判と、現実が噛み合わない。

金を惜しまず私兵を抱え、事に際し失敗の可能性を踏まえて実行に移す。


「金払いが良い、か。大事な要素ではあるが」


余程信頼できる腹心が居るか、それとも頭が弱いのは演技の類か。


「…代価は金である必要はないのだ。分かりやすくはあるがね」

「王子は結構な傑物の素養がある。代価としては十分だと思っている」

「私個人は感謝している」


ここで、ショウは到着した後の事を整理する事にした。

まずは伯の私兵と化した組織員をどうするかが重要になってくる。


「排除は俺がすればよいか」

「頼めるか」

「構わないが、手配は上手くしてくれ。一人でも取り逃がせばわざわざ交渉した甲斐がない」

「分かった」


ディフィが近くを歩いていた数人に何事か告げると、あちらこちらへと散っていく。

ショウもディフィから離れ、セシウスの傍に戻る。


「どういったお話を?」

「王子の下で生きていく為に、組織内の伯の配下を粛清しゅくせいするそうだ」

「フォンクォードの配下?…雇われではなかったのか」


疑問符を突き付けてきたのは、ザフィオの方だった。


「金という対価を気前よく払い続ければ、私兵化する者も出てくるということのようだ」

「誇りは金貨では買えんものだがなぁ」


慨嘆する老騎士に、


「全ての人に御老のような高潔さがある訳ではないさ」


そこで、ショウも素直な疑問を向けてみる事にした。


「その辺りの段取りを考えると、本当に伯の頭が弱いのかが疑問に思えてくるんだが、どうか」

「と、おっしゃると?」

「暗殺はまあ、いい。しかし、王子が逃げた場合を見越して私兵を配置する。そしてそれ以前に、私兵を準備する周到しゅうとうさが、『豪勇で鳴らし頭の弱い』評判と結びつかない」


と、二人ともが考え込む。


「伯父の配下は、そういう考えをした時にすぐに伯父を誅殺ちゅうさつ出来るよう、特に先王に対して忠誠の篤い者を選別しています。伯父を傀儡かいらいにして実権を握ろうとする人物が居るとは思えませんが…」

「あるいは、そういう知恵の回る者を拾ったか、という事になりますかのう。ですが、そのような者が近づけば、誰かが先王に間違いなく報告していると言い切れますぞ」


何があったのか、というのは実際に結論を出せる話でもない。

ともあれ、二人は『伯が今まで頭が弱い演技をしていた』とは微塵も思っていないようだ。

会っていない人物の評価だから、自分が過大評価をしているだけなのかもしれないが。

ショウはどうにも晴れない疑念に首をひねりながらも、取り敢えず二人への質問を打ち切ったのだった。




「ディ、ディフィ!お前、俺を!」

「済まんな。我々はセシウス王子につく。簒奪者さんだつしゃの私兵として蔑まれる心算はないのだ」

「馬鹿な!あの男を見ただろう!王子では、フォンクォード陛下には―ぐぶっ!?」

「あの男よりも恐ろしいものに遭ったから、こちらを選んだのさ」



ショウは隣室から聞こえてきた声に溜息をつくと、目の前の十数人の方に向き直った。


「誇りで飯は食えない。だから銭金を多く払ってくれた伯の側についた貴様達は確かに正しいだろう」


だが、組織は彼らと報じる相手を違えてしまった。後に待つ結論は、残酷なものしかない。


「どれだけ言を尽くしても、貴様達が変節するという事実を信用する事は出来ない。この中の一人でもフォンクォード伯の下に走れば、この組織ごと全員が潰されるだろう」


行き着く先は、組織を含めた皆殺しだ。


「ここで貴様達には死んでもらわなくてはならない。奉じるべき相手を間違えた事を不運として、潔く首を垂れれば良し。一縷の望みを賭けて俺に挑むも良し。一切の区別なく、痛みもなく刎ねてやることを約束しよう」


ショウは寄りかかっていた壁から背を離すと、


「さあ、示せ」


既に抜き放っていた業剣の切っ先を彼らに向けた。

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