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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~蒼媛国編
40/122

蒼媛国、排斥派の襲来に備える

その通信が届いた時、丁度ショウは城でロクショウと昼間から酒盛りをしていた。


「…随分と早いな」

「ふむ?湘、一体大導国で何があった?」

「ああ、大栃殿が先代豪公殿のな…」


一通り話し終えると、ロクショウは頭を抱えた。


「…これで先代豪公殿が狂れたという話はなかったことになるのかもしれないが、それはそれで厄介だな」

「一応豪公国も業剣士を出していたからな。俺が先代を討った事を責めたりはしないだろ」

「そっちは大丈夫か。しかし今度は槐主国がその立場になるだけだが」

「あとは緋師国だな。後見の鬼神は緋師様のご兄弟だそうだ」

「そっちもか…」


ううむ、と唸りながら続きを促してくる。


「それで湘よ。連中はどう動くだろうな」

「まず一番手っ取り早いのが、このまま槐主国を牽引し、槐主様を害する事だろうな。排斥派を招き入れて反旗を翻す者を粛清すれば、守神だけを挿げ替えた新たな国が出来上がるって寸法だ」

「そうなると手は出しにくくなるな…」

「まあ、その辺りが一番危ないからな、槐主様には大導国に滞在しておられる。ご家族の方達もその日の内に槐主様の下へ向かわれている筈だから、その辺りの手は使えない」


だが、ロクショウの表情は晴れなかった。

槐主国が標的になり得ない場合に、次の手がどうなるかに思い当たってしまったからだ。


「そうすると次の標的は…」

「十中八九、ここか駆天国だろうな」

「狙われるのは媛様の加護か、駆天国の風舞船ということか」


駆天国には、風を操る駆天の加護で空中を自在に駆ける風舞船という技術がある。

一隻に乗れる人数は少ないが、駆天国では一般的な乗り物だ。

この船が全面的に配備されている駆天国の軍勢は、列島国家群最強と名高い。


「とは言え、こちらにはお前が居るからな。狙われるならば距離も近い駆天国か」

「…どうかな」


実際のところ、ショウの見通しは逆だ。

ショウが居るからこそ、万全な戦力を注ぎ込める初手で、こちらに全力でぶつけてくる。

なまじ駆天国を先に攻めてしまえば、応援に向かったこちらとの挟撃の危険性もある。


「この国は鬼神様の数が他より少ない。向こうの戦力がどの程度かがよく分からないから断定は出来ないが、俺を殺す心算ならば全員が全力で来られる最初だと思う」

「舐められたものだな、お前も…俺達も」


凄味を利かせた笑みを浮かべるロクショウに苦笑しながら、ショウは席を立った。


「どこが拠点か分からんが、五日程は猶予があろうよ。まずは軍議だろ?何か決まったら教えてくれ」

「おう。…お前は?」

「媛様の所だ。少しでも不安になられていては申し訳ないからな」

「…お熱い事で」


ショウ自身は社殿の所属であり、ロクショウの家臣ではない。

請われない限りは軍議に出る義務はないし、付き合いの長いこの親友はこちらが不利になるような決め事は絶対にしないと信頼している。

だが、ショウもロクショウもこの時点では予測もしていなかった事が起きていたのである。




「旦那様、義兄上様が」

「おや?」


ショウが汀に強請られて膝枕での耳かきを受けていると、息せき切ったセンが石段を登って来た。

こんなに焦った顔の彼も、何より石段を登って息を切らせるほど急いでいるのも珍しい。


「どうしたんだ、兄者。そんなに慌てて」

「…ぜぇ、ぜえ。ああ、湘。先程から城では軍議が始まっているのだが」

「ああ、そうだろうな」


軍議で何か厄介ごとでも決まったか。

だがそれではセンは急いで来ない。ショウも汀も怒らせずにどう話をつけるかの算段をしてから現れるから、しっかり時間をかけてここまで来るのだ。

何故今日ばかりは違うのか。


「ご、御本家の…渓殿が数日前から行方不明らしい」

「…何だって?」

「時期を考えると、排斥派の拠点に向かったのではないかと思われる」

「馬鹿な。三男とは言え氷雨家だろう?あいつの立場で排斥派に与する理由が分からない」

「私もそう思う。だが居なくなったその日に、氷雨家の大船が無断で何処かに出航したらしい」


氷雨家が所有するのは、何代か前の蒼媛が加護を与えた大船のうちの一つだ。

方位的には真逆になる槐主国からでも三日もあれば辿り着くような速さで海を奔る。

それがケイによって悪用されているとしたら。


「成程、奴が排斥派であるならここを目指すのに大船を使うという訳か」


そうなると、五日という見通しは大きく修正しなくてはならなくなる。


「一両日中には来る事になるな。緑青も兄者も居ればその辺りの軍議も準備もすぐに終わるだろう?」

「うむ、それでだな。連中が上陸してきた際の戦場なんだが―」


ここにきてようやく、ショウはセンやロクショウが何に頭を悩ませているかを理解した。


「本島は狭いからな…」

「離島に呼び込むにしても、目的が媛様とお前と大殿だろう?だとしたらここを離れてもらう訳にもいかない」

「ではここをお使い下さい」


と、器用にショウの耳を掃除していた汀がふいに口を開いた。

ショウも内容が内容だけに驚いて起き上がろうとするが、やんわりと押さえられて頭を上げる事ができない。


「いや、しかしですね」

「ここでしたら旦那様が本気を出しても簡単には壊れませんし」


この社殿のある場所は最後の砦なのだ。最初からここが使えるなら、そうするに決まっているのだが。

悩むセンの様子に、だがショウは汀の言を肯定した。


「兄者、ここは汀どのの言う通りだと思うぞ」

「何故だ?」

「向こうの手勢は分からないが、分かっているのは灼彪という鬼神が来る事だ。緋師様のご兄弟だと言うから、守神に近い実力は持っている筈だぜ」

「それ程の相手か。となると、やはり場所が」

「それにだ。どこに陣を敷いたにしても、緑青は大将としてそこに居なくてはならない。緑青自身の腕を疑う心算はないが、そういう鬼神を相手にするには厳しいのではないか」

「ぬ…」


センが黙り込む。ショウの言い分を頭の中で吟味しているようだ。


「連中がどこに船を停めるかが予め分かっていれば、俺もそこに詰めるのは構わないけどな。下りる場所を読み違えたが最後、気付いた時には間に合わなかったなんて事にもなりかねないぜ」

「それは…そうだな」


敷ける陣の数は限られている。元より陣の大将をやれる人材が少ないのだ。

仮に陣を増やせても、陣一つ当たりの兵力が分散すれば致命的だ。

どちらにしろ、人の兵士では鬼神相手には役にも立たない。


「とにかく大殿には社殿での布陣を上申してみよう。それでだな…イセリウス王国の客人の事だが」

「この件であの二人に戦わせる心算はないさ。だが先に帰れと言っても断られるだろうな…うーん」

「…まあいいさ。その件は師匠として、精々頭を捻って良い言い訳を考えておいてくれ」

「ああ。こんなくだらない事で誰かが傷つくことのないようにしないとな」

「まったくだ」



ショウと汀が出した社殿の敷地に陣を敷くという案は、即日採用された。

そして翌々日の早朝。

本島南東の岬に、氷雨家の大船が乗りつけられたのである。


「やっぱり来たな」

「ああ。期待しているぞ。湘」


二人が見下ろす先では、乗りつけられた大船の中から大量の人影が降り始めていた。

戦が、始まる。


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