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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
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神性・鬼神と鬼神討ち

勢いがついていた窓からの侵入者の首筋を払い、返す刀で扉から現れた方の胸を薙ぐ。


「おっと、魔術師か」


扉に隠れるようにして詠唱を始めていた一人の喉を踏み込んで突き通し、ショウはセシウス達の方に向き直った。


「さて、偽りない話をしていただいた以上、俺もしっかりと出自を説明しておかないとなりませんな」


ザフィオの背後に忍び寄っていた一人の首を横から突いて、そのまま後ろへ払う。鮮血が壁に撒き散らされるが、ザフィオは血を浴びていないからまあ良いだろう。


「し、しかしシグレ殿。ここを出なくて良いのですかな」

「下にはまだ結構な数が居ます。最終的には火でもかけてきそうですが、それまでは気構えだけで十分ですよ」

「火ですと!?」

「火ですな。山道で下手を打った以上、ここで仕留める為には手段は選んで来ないでしょう」


とは言え、街中の事であるから目立つ真似は避けたい筈だ。火は最後の手段と言えるだろう。

更に飛び込んできた二人を斬り捨てる。焦るザフィオとは裏腹に、ショウには焦りも気負いもない。


「ではお任せしますね、シグレ様」

「うむ、任された」


万が一山で逃がしてしまった場合を鑑みて、討手が港とこちらにも人を配置しているだろう事は予測していた。

今思えば港の方に妙な気配の連中が居たような気がする。とても今更だが。


「っと、俺の出自の話でした」


少しむくろが邪魔になってきたかな、と思った辺りで、壁の向こうに殺気を感じる。


「海を渡った東に、列島国家群れっとうこっかぐんがあるのはご存じでしょう。少ないなりにも交易もしています。ご覧のとおり、俺はあちらの出です」


狙い定めて壁を一閃。向こうは予想していなかったのか、呻きと倒れ掛かってくる音。


「島は大小合わせて二百くらいはあるのですが、国としてまとまっている数はそこまで多くありません。それぞれの国には鬼神と呼ばれる神性が居住しているのですが、そちらはご存じですかな」

「鬼神、ですか」

「ええ。人と共に住み暮らし、崇められ畏れられ、或いは共に祭を楽しんだりする。人との間に子を為す事も出来ますし、非常に友好的な方々なのですが、生まれ持つ力は比べ物になりません」

「では、シグレ殿もその」

「いや、俺は普通の人ですよ」

「そ、そうなのか?それにしては…」


話をしている間に更にいくつか、余計な骸が増えている。

流石にあちらも正攻法では勝てないと悟ったらしく、上がってくる気配が消えた。


「国の守神もりがみとなっている鬼神は現在七柱。曰く、『槐主かいしゅ』『撃君うつきみ』『蒼媛あおひめ』『緋師ひし』『大導だいどう』『駆天くてん』『豪公ごうこう』。その名前自体が国号になっています。東方列島国家群はこの七国で成り立つ…おっと」


窓から数本の矢が飛んでくる。近寄れないなら遠くから、というのは理屈だが。


「火矢じゃなくて毒矢か。まだ余裕があるかな」


一本だけつかみ取って、後は避ける。二人に当たる軌道ではなかったので、わざわざ払う必要もなかった。



「さて、俺は普通の人ですが、鬼神の血は流れています。我々の国の民は皆、濃い薄いの違いはあれど鬼神の始祖の血を引いていますから」


これが証拠です、と自身の黒髪を摘まんで見せる。


「鬼神として目覚めると、髪と瞳の色が変わる訳です。二十までに目覚めなければ目覚めないと言われておりましてな。大体平均して、目覚めるのは七つ辺りまでのようです」

「それにしては本当に神の如き強さです。シグレ様は本当に鬼神ではないのですか?」

「ええ、残念ながら。ですが、鬼神の弟子ではありますよ」

「鬼神の弟子?」


このような中でも動じない王子である。


「鬼神に目覚めるのは、鬼神の血が流れていれば誰にでもあり得ること。つまりまあ、うちの国民は全員がそうだという事です」

「それではシグレ様のお国にはその鬼神様が沢山?」

「五年に一人くらい、そういう例はあるってところです。だいぶ血も薄まっていますしね。例外は初代の直系に当たる守神の七柱くらいで」


反応がなかった所為か、飛んでくる矢の本数が増えた。どのような毒かは分からないが、飛沫ひまつで失明してしまっても困る。


「で、鬼神の中にはまあ、褒められないような性格に歪む方も時々居られましてな」


矢の射線をさえぎるようにベッドを立てる。取り敢えず二人を隠せればいいので、楽なものだ。


「鬼神が鬼神と争うと、地が割れ、山が火を噴き、海が暴れるという言い伝えがありましてね。鬼神は鬼神を取り締まる事が許されていないのですよ」

「それはまた…凄まじい言い伝えですな」

「本当に。ですがまあ、『我が国の辺りが島々なのは、初代が乱行を働く七代後の子孫を懲らしめるために取っ組み合った結果、割れて砕けて沈んでこうなった』などという事を言われてはね」


信じざるを得ないのだ、と。


「そんな言い伝えが残された結果、守神の皆様は目覚めなかった者の中から弟子を取り、そういう鬼神を倒せる武者を育てる事にした訳です」



取り敢えず、立てたベッドに刺さる矢はそのままに、こちらに向かってくる方だけ切り払う。


「ではシグレ殿はその弟子の一人という事か」

「俺の師は先代『蒼媛』。代々女性の鬼神が世襲する守神です」

「ほほう、だからその腕前と」

「そういう事ですな。こちらの国に渡ってきたのも、いくつか理由がありましてね。まあ、それはまた少し落ち着いた時にでも」


と、向こうの矢が尽きたか、塗る毒が尽きたか、矢が飛んで来なくなった。


「そろそろ降りましょうか。相手もいい加減痺れを切らせてきそうですしね」


この階からも上からも人の気配はしない。そろそろ大がかりな仕掛けをしそうな頃合いではある。

さて、と前置きして。ショウは二人に真剣な視線を向けた。


「このような状況で言うことでもないが、俺はお二人の事が気に入った。この出会いが良縁であったと思いたい」


まだ出会って一日と経っていないが、そういった理屈を越えて、手伝ってやりたいと思ったのだ。


「なので、先程の発言を撤回したい。セシウス王子、ザフィオ殿。お二人の身は仇討を遂げる時まで俺が護ろう。今この場で、それだけは信じておいてくれないか」


二人は一瞬だけ視線を交わすと、こちらに向かってしっかり頷き合った。


「はい、私の命はシグレ様にお預けします」

「巻き込んでしまってシグレ殿には詫びる言葉もない。…が、此度は甘えさせていただく」


期待した通りの返答である。

潔くも美しいその覚悟に、ショウは莞爾かんじとした笑みを浮かべ。


「承った。ではこれより事が成るまでの間、お二人には傷一つ負わせない事を誓う」


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