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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
3/122

亡国の王子と簒奪者

王が死に、その遺児が追手から逃げているという事は、


「成程、簒奪さんだつされたと」

「まだ即位式は開かれておりませんから、暗殺止まりといったところです。私の死を確認して、漸く正式に喪を発して即位という事になるでしょう」


溜息をつくセシウス。


「暗殺の根拠はあるので?」

「まあ、暗殺と言うには派手に過ぎましたが…」


父の死にも意外と冷静だ。大物なのか、現実が見えていないのか、果たして暗愚なだけか。


「白昼堂々玉座の間に飛び込んできて、あっという間に」

「それはまた、剛毅な刺客も居たもので」

「ええ、演劇を見ているようでした。現実感がなかったというか、なんというか」


それはそうだろう。講談本でもあるまいし。


「父が斬られた後、近衛が討手に殺到しましたが、軽々と蹴散らされておりました。勝てないと判断したのでしょう、私は数人に城から逃がされ、ザフィオの元へ」

「その晩には追手がかかりましてな。王子を連れて参った孫のヴィントが囮となり、その間に山中を二晩ほど逃げ回っておりましたが」

「包囲されて街道に追い立てられたところに、俺が居た訳ですか」


頷く二人。


「囮となったヴィント氏とやらの安否は?」

「ヴィントは騎馬でございましたし、槍の腕には些かの名声も得ております。城下町から西は平地ですから、逃げ延びる事が出来たでしょう」

「ふむ…」


話の真偽を確認するには、ショウ自身がこの辺りの地勢に明るくなかった。

南東の山沿いが王城と首都で、言葉の通り西が平地だとすると、騎馬のヴィントと共に馬で何故逃げなかったのかが気にかかる。

二人が馬を選ばず敢えて山中に入ったのは、追手が騎馬の可能性もあり得ると判断したということか。


「ヴィント氏と共に馬で逃げなかったということは、馬で追われるおそれがあった、という事ですか。そしてお二人には討手うってつかわした相手に心当たりがある」


二人はやはり素直に頷いてみせた。


「王兄で在らせられる、フォンクォード・ノスレモス卿が首謀者だと思われます」

「王兄?王弟ではなく」


ということは、セシウスの父は次男かそれより下だったという事になる。弟が王として即位していて兄が健在だというのは珍しい。


「ええ。何と言いますか、その」

「豪勇が過ぎたというか、頭が弱かったというか。人を悪く言わない父が珍しくそう言っておりましたので、それはもうひどかったようで」

「その分、先王が優秀な配下に領政を任せたお蔭か、治安自体は悪くはないのですが」

「その、ノスレモスというのは」

「国の中央からやや北寄りの領地です。領地がほぼ平地でしてな。近くを流れるルンカラ大河流域の農業が盛んな土地ではあります」

「成程、安易に挙兵出来るような土地柄ではなさそうですな」


ともあれ、王兄は行動に移しており、セシウスは追われる立場だ。


「それでは、この後はどうされるお心算で?」


山中を逃げていたということは、ショウが向かってきた港に向かう予定だった筈だ。

話によれば、セントモレスは首都から北に位置する事になる。

北に逃げれば逃げただけ、当のノスレモスとやらに近くなるだけだ。現実的な手段としては、港で船を用立てる予定だったのではないか。


「船でいずこかへ落ち延びるのも一手ですからな。誰も追手のかからない異国にでも逃げて、穏やかな暮らしをするのも悪くないかもしれない」

「ああ、それも良いですね」

「若!」


にこやかに応じるセシウスに、愕然とするザフィオ。


「ザフィオ殿。セシウス王子が王子として生きるならば、国内の支持者と迎合して簒奪者の伯父上と殺し合う事になりましょう」

「無論です。悪意を以て先王を殺した簒奪者を王にする訳には参りませぬ」

「ですが、それで流される血は同じ国の兵のもの。そうまでせねばならん程のものですかな」

「で、ではこのまま泣き寝入れと仰るか!それでは民は!」

「民は貴族程に王が誰であるかには拘らんでしょう。沙汰なく五年も逃げれば、向こうも諦めて追手を出すこともなくなるでしょうから、静かに生きていくだけなら問題はないかと存ずるが」

「ぐ…」


押し黙るザフィオ。思い当たる部分はあるのだろうが、納得は出来ないだろう。


「シグレ様」


と、セシウスが口を開いた。


「お話には一々納得致しました。ですがやはり、私は伯父を討たねばなりません」

「ふむ…それは何故?」

「伯父は、民に不要な血を流させる王となるでしょう」


そう述べてこちらをまっすぐに見据える視線には、先程のぼんやりした所は微塵もない。


「祖父が伯父を王に選ばなかったのもそれが理由であると聞いております」


だから討たねばならないと。兵の血を必要以上に流させぬ為に、最低限の血で済ませたいと願っているのだと言う。


「その覚悟がおありか…既に王の威徳を持っていると見える」


やおら腰を上げて、ショウはセシウスの肩に手を置いた。


「では、お二人が目的とされている場所まではご同行しよう」


当所もなく逃げている訳ではないなら、頼るべき仁の心当たりがあるという事だ。セシウスのまっすぐな視線に、ショウもそこまでは付き合おうという気持ちになっていた。


「…良いのですか?」

「うむ。最初にお二人を助けた時から俺も仲間と目されている様子。それにほら」


そして壁から刀を取ると、鞘から抜いて、扉と窓をそれぞれ一瞥する。


「既に囲まれているからな」


言い放った刹那、窓と扉から人影が飛び込んで来た。

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