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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
28/122

鬼気の使い方講座

業剣士養成合宿(命名)、四日目。

漸くディフィもヴィントもショウの鬼気をそれなりに受け止められるようになってきた。

とは言え、まだまだセシウス、テリウスの二人と比べるべくもない。

当面はこの修行を続けるしかないだろう。

これは今回のように、強大な鬼神相手に業剣士が少なくなった時などによく用いられた修行方法だ。

鬼神が死なない程度の鬼気による圧力をかけ、業剣士見習いの魂と鬼気に刺激を与え続ける事で、通常の修業よりも短時間で高い効率を出す、緊急避難的な措置だ。

無論、問題点は多い。

それなりに強い鬼気を放出するので、近くに鬼気に耐性のない普通の人が居れば、一発で心を粉砕されてしまう。なので人が居ない場所に行く、あるいはそういう環境を予め作っておかなくてはならない。

また、慣れない鬼神がやれば、業剣士であっても少なくない人数が精神に異常を来す危険性もある。

その分効果は絶大で、一月程度で並より下程度の業剣使いが出来る。

ショウは鬼神よりも鬼気の加減が上手い。あと半月もすれば、鋼の鎧程度なら苦も無く貫ける業剣になる事だろう。



さて、この修行はショウにとっては効率的だが、流石に毎日これでは心を病んでしまう恐れがある。なので、今日は趣を変えて表で修行をする事にした。


「今日は鬼気を上手く使いこなす方法の説明をするぞ」


いい加減面倒になったので、口調は普段のままで。

業剣蒼媛を抜き放ち、地面に突き立てる。


「基本は業剣を形作ることと、全身に循環させて運動能力や肉体の強度を高めること。これが出来ていなければ、そもそもの目的が達せないからな」


鬼神の動きについていける程度に、運動能力を鬼神並に。鬼神の凄まじい攻撃を受けても一撃では死なないように、肉体の強度も高める。そして鬼神の鋼よりも硬い肉体を傷つける為には業剣自体の強化も欠かせない。

人が鬼神を討つのに必要な全てを手に入れる為の技術だ。これが出来て初めてその先に進める。


「と言う訳で。俺の奥義の事を三人は知っていたよな」

「はい」

「ディフィだけはまだ見ていなかったな。一度だけ見せてやる。しっかり見ておくように」


すい、と構えて、視線はディフィの頭上。


「萬里鬼笑閃」


振り抜いた業剣蒼媛から放たれた蒼い鬼気の刃が、ディフィの頭上を吹き抜け、空の青に溶けて見えなくなった。


「…ちゃんと見えたか?」


言葉にならないらしく、慌てて頷くディフィに満足して、業剣を収める。


「業剣士は、鬼神を討つに当たり、最低でも一人一つは奥義を編み出す。鬼神を苦しめぬように討つ為の切り札だな。幾つもの奥義を創始しては使いこなすという者も居るが、多くの業剣士は一人一つの奥義を極めていく方法を選ぶ」

「師匠の奥義が今のですか?」

「ああ。萬里鬼笑閃と名付けた。この奥義自体は豪公を討つ折に開眼したものだが」

「では他にも?」

「一応な。豪公には通じなかったから最早使う事もないだろうが」


その時は自分の見通しの甘さに焦ったものだった。


「さて、という訳で講義を続けるぞ」




四人を座らせて―珍しく車座ではなく―、ショウは右手を示してみせた。


「鬼気の使い方はおおまかに分類すれば四つ」


指を一つ折る。


「一つは今のように打ち出す方法。どのような形の業剣でも、業剣士にとっては最も使い勝手が良いとされている技術だ」


最も重要な間合いを無視出来るのは大きい。

二つ目の指を折る。


「次に、鬼気を使って肉体を更に強化する方法。この場合の強化は全体の底上げではなくて、一部を強烈に強化する」


ハンジが使ったのもこの方法の応用だった。


「これについては人それぞれに特徴があってな。速さの強化が得意な者も居れば、腕力の強化や動きをより精緻にする者も居る」


ハンジの場合は、速さと巧さの両方を強化して見せた訳だ。


「勿論二つ以上を同時に強化出来る者も居るが、そういうのは稀だ」


長所を一時的に伸ばすか、短所を一時的に補うか。適性とそれに合った戦術も問われる事になる。


「さて、三つ目。鬼気によって何かに特異な干渉を行う方法。これはこちらの大陸の魔術に似ているな」


竜巻を起こしたり、空間を跳躍したり、自分の存在を希薄にしたり。


「山霞が使っていたのがこの技術だ。どちらかというと、業剣士は苦手な部類に入る」


業剣を抜く、という手段自体が既に自分の魂に特異な干渉を行っているからだ、という学者らの見解がある。と言っても、この技術を得意とする業剣士も居るから、その辺りの検証はよく分からないというのが実情だ。

大多数の業剣士が苦手としているのは確かなのだが。


「最後に、鬼気そのものを何かに変える方法だ。俺たちは既に業剣という形で鬼気を作り替えている。この原理を応用して、鬼気を巨岩に変化させたり、鬼気で分身を作ったりするという訳だ」


豪公の百身程とは言わないが、業剣士の中には分身を作り出せる者も居た。

彼もまた豪公に挑んだが、敢え無く返り討ちにされてしまった。


「これはあくまで敢えて分類しただけだ。程度の大小はあれ、基本的には大体全部出来るようになる」


その中で、自分と自分の業剣に適した形を模索していく。

「こればかりは人それぞれだ。出来ないからってやらなくて良い訳じゃあないが、出来る事をまず伸ばすべきなのは確かだしな」

四人を見回し、告げる。


「俺がお前達にこの技術を教えたのは、自分の手で護るべきものが非常に大きいからだ。使い方までは面倒見てやるが、使いどころは間違えるなよ」

「はい!」


良い返事を返してくる四人の弟子。


「とにかく、当面の目標は業剣に銘を刻む所までだ。それが出来たら業剣は安定して鋼よりも強くなるから、実戦に使っても構わない。日々の瞑想は忘れるなよ」



その夜。

窓から差す月光が冷たくも全身を照らす中、自分自身の日課としての瞑想を続けていたショウは小さく息を吐いた。


「…荒事になるか」


確信に近い予感があった。

国からの召喚命令は、程なく出るだろう。

先日のサンカの来訪が既に一種の伝令であったのだ。

彼の愛する当代蒼媛が、ショウを必要としているという意思表示だ。

守神付の女官であるサンカは、国の指令では動かない。あくまで守神である蒼媛の願いを受けて動く。


「このままどさくさ紛れに武者修行と洒落込みたかったもんだけどな」


独り言ちてはみたが、流石にそう簡単にはいかないのも分かっている。

ハンジの、そしてショウの行動を蒼媛国が、そして列島国家群がどのように判断し、どのような方針を示すか。


「海の向こうの事だからと不干渉を貫く事はもう出来ないだろうなあ」


海の向こうの国との縁は出来てしまったのだから。

ショウには一切の後悔も不安もなかった。

例え史上最大の国難に繋がったとしても、自らの手と力で打ち払うことが出来ると掛け値なしに信じていたからである。


「まあ、まずは正式に呼び出されてからだ」


それまでは、新米の師匠として、まだまだ未熟な弟子達を指導するのが先決だ。

明日はどういった修行内容にするべきか、などと考えながら、ショウはこの日の瞑想を終えたのである。



更に半月の後。

競い合うように成長を続けていたセシウスとテリウスの業剣に、銘を刻む運びとなった。

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