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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
25/122

業剣士見習い四名

イセリウス王国を襲った動乱は、一応の終息を見た。

王兄フォンクォードは流れの剣士を雇って王権簒奪を目論んだ愚物として王国の歴史には残るだろう。

暗示をかけたリゼ曰く、深く自分の心で望んでいた事を浮き上がらせただけだというから、彼女がせずともいつかは反乱を起こしていたのかもしれない。

とは言え、すべては結果論だ。たとえフォンクォードがどれ程愚昧であろうと、彼我の戦力差を覆せるハンジの存在がなければ、実行に移る事はなかっただろうとも思われた。

イセリウス王国としては、ショウの意を汲んでハンジとリゼの名を敢えて伏せたのであるが、無論それだけではない。

現状停戦状態にあるムハ・サザムの皇女がイセリウスの王の暗殺に荷担した。

この事実が明るみに出れば、イセリウスは国家を挙げてムハ・サザムとの全面戦争を即座に決断しなくてはならない。

しかし、イセリウス王国には獣の絶地からの移住者が数多く住んでいる。

東と北の両面からの挟撃という形になるので一時の有利は得られるかもしれないが、同盟国というよりも宗主国と言ってもいい獣の絶地がイセリウスの戦争参加を喜ばないだろう。

彼らはイセリウスを戦地から遠ざける為にその力を貸したのだ。この地に住む亜人の数を考えれば、軽々に戦争に参加する事を表明する訳にはいかなかった。

ショウの意向もあって、セシウスは王としてフォンクォードを国賊とし、今回の件に蓋をする事に決めたのである。



さて。

イセリウス王城では、国王の死と、三年の服喪の後、セシウスが王位を継承する事が大々的に発表された。

葬儀も済み、ノスレモス内乱と名付けられた内戦は、公式には一月も経たずに鎮圧された事となっている。

そんな中。やっと時間が取れたということで、ショウは業剣の手解きを始める事にした。

当初はランドも弟子になると言っていたが、ウルケ城での鬼気に肝をつぶしてしまったらしく、領主の役目に専念するとして遠回しに撤回してきている。

代わりに、セントモレスからディフィが自分も弟子にと押しかけて来ていた。特に断る理由もなかったので、こちらも受理している。


「さて、それでは今から業剣士としての修業を始める」

「よろしくお願いします!」


床に車座になって座る四人を見下ろす形で、ショウはまず業剣蒼媛を抜き放った。


「業剣は、人の魂を武器の形に固めたものだ、と説明したのは覚えているかな。魂の強さが剣の強さに直結するので、鍛えれば鍛える程、業剣自体の強度も増す」


具体的には、鋼の鎧を軽々と両断出来る程度には。


「だが、作り立ては柔らかいし、日々の修練を重ねないと直ぐに脆くなってしまう。これは普通の武器と一緒だ。日々の手入れが何より必要で重要だと覚えていて欲しい」


ともあれまずは、とショウは蒼媛を一旦仕舞い、テリウスの背後に立った。


「では、自分の業剣を抜いてみよう」


まずは一番弟子ということで、テリウスの後頭部に掌を添える。

前でも出来ない事はないが、引き抜くときに邪魔になりやすい。


「人には、元来魂を武器に変えて引き抜く能力はない。なので天然自然に出来るようになるには前人未到の才能とひたすらの努力が必要となる」


そこからわずかに鬼気を流し込み、本人の魂に問いかける。


「なので、最初は鬼神あるいは先達の業剣士が補助する方法が一般的だな」


ある程度魂が一ヵ所に定まったところで、今度は少し多量の鬼気を流す。


「出る瞬間の感覚を忘れないようにしてほしい。…掴め!」


テリウスの左腕、二の腕の内側から出てきた柄。


「抜け!」

「おおっ!」


テリウスの手に、一振りの剣が握られていた。

薄い、緑色の刀身。長さはテリウス自身の身長ほどはあるか。

流石にショウやハンジのような片刃の刀ではなく、両刃の剣である。

刃身自体は非常に薄い。業剣の厚さは魂の格には関係ないから、これが通常の形だという事だ。

薄ければ脆いという訳でもないから、テリウス自身が魂の質を高めれば凄まじい切れ味を発揮するだろうと思われた。


「どんな形をしていても最初は本当に脆いから、何か斬ろうとかは考えるなよ。膝の上にでも置いて大人しく観察しておくと良い」

「はい」


業剣を最初に抜くのは、幼い子供の時である事が多い。

興味本位で何かを切ってみたくなり、手を出して業剣が折れてしまう。

そういった事故が少なくないので、先に警告を入れておかなくてはならなかった。


「では、次はセシウス」

「はい」




セシウス、ヴィント、ディフィの順に引き抜かれた業剣は、成程本人たちの個性に応じて分かり易いと言えた。



セシウスの業剣はテリウス同様両刃の剣。

黄色い刀身で、長さはセシウスの身長の半分ほど。その分幅広で、重厚な印象を与えていた。

何事にも動じないセシウスの器を感じさせる一振りだ。鍛え上げれば取り回しの容易さと合わせて鉄壁の防御を実現できるだろうと思えた。



ヴィントの業剣は案の定と言うか、槍である。

ハンジに圧し曲げられた槍と形はよく似ている。本人の性格を反映してか、柄から穂先に至るまで、烈火のような真紅に染まっている。

まずは沸騰しやすい性格を矯正していく必要がありそうだ。



ディフィの業剣は二刀だった。紫色の短剣が二振り。

セシウス子飼いの隠密として組織を率いる立場でもあり、組織で唯一セシウスの配下として正式に登用された戦士でもある。

セシウスを日に陰に護衛するには、この形状は役に立つだろう。




「それぞれ、まずは目の前に得物を置くといい」


槍でも手甲でも業剣と呼ぶのだが、流石にその意味を説明しづらかったので、差し当たって得物と呼ぶ事にしたショウである。


「静かに目を閉じて、意識をそこにある筈の獲物に向けて集中する」


四人が言われるままに瞳を閉じたのを確認し、ショウもまた中央にどかりと座った。

業剣蒼媛を抜き直し、同じように自分の前に置く。


「今から鬼気を放つ。得物に向けた集中はそのまま切らないこと」


ぶわり、と。物理的な圧力を持って放たれる鬼気が、四人の全身を打ち据えた。


「集中しろ。そこにある得物に意識を向け続けろ。自分と繋がっている力の流れを捉えるんだ」


静かだが、余人の侵入を決して許さない時間が過ぎる。

最初に変化があったのは、一番弟子の面目躍如と言おうか、テリウスだった。

微弱だが、鬼気を放ち始める。

まだまだ弱弱しいが、テリウス自身の鬼気がショウの放つ鬼気から自分を護り始めていた。

程なく他の三人も、己の鬼気を以てショウの鬼気を防ぎ始めた。


「…その感覚を忘れないこと。これが鬼気だ。魂の持つ、実態のない力」


自然界に存在する魔力とは違い、自らの魂の格を上げる事で洗練される自分自身の力だ。


「熟達すれば、自分の魂よりも弱い者の魔術ならば鬼気を放つだけで全て掻き消せるようになる」


ヴォルハート城やウルケ城で見せた魔術の粉砕である。

ショウは鬼気を放つのを止めた。


「鬼気の強さは魂の格と密接に関係している。そのままの姿勢で集中を続ける事で、いつか自分と得物だけしかないような錯覚を覚えたら、そこからが修行の始まりだ」


ここまでは準備なのだと。


「ではこのまま瞑想を続ける。普段から日々の修練として続けて、体と得物との繋がりを強く保ち続けるように」


さもないと、脆くなる。それはもう、簡単に。



そして、瞑想を始めた五人は、結局日が沈むまでその姿勢を取り続けたのである。

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