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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
20/122

ノスレモス反乱 始まる

翌日早朝。

ラネルの報告は芳しいものではなかった。


「そうか、分からんか…」


あるいは内通者ではなかったのかもしれないが。

伝令からの情報を受け取る、あるいは見る事が出来た人物で怪しい人物はいなかった。

ウルケ領は地位の高低にかかわらず、心の結びつきが非常に強い。

上は下を大切に遇し、下は上に精一杯の感謝と忠義を示す。

兵士は多くの魔獣を撃退して民衆の生活を護り、兵士の食や住生活を民衆が護り。

形は違えど、永い日々を共に戦っているのだ。国王に絶対の忠誠を誓うウルケ家を兵士や民衆が裏切る事など、ほぼありえない。


「取り越し苦労かもしれないな。済まない、ランド将軍。貴公の配下を疑った」

「構わない。どちらにしろ、現在の兵力は全体の半分程度だ。これでもノスレモスの兵より質・量共に充実している事は間違いない」


だが、その数で勝てるからと軽々に出る訳にはいかないという意味では、ショウとランドの意見は一致していた。


「ここから王城まで殿下を護衛し、南下するのであれば城に守備兵力を残しておかない訳にはいかない」


万が一北方から魔獣が再び襲来した時。

山中で巣を張っている魔獣と遭遇した部隊が応援を期待してきた時。

対応出来なくては拙い、というのがランドの意見だ。


「確かに挙兵するかどうかも分からない伯父の為に兵力を遊ばせておく余裕はありませんからね…」


そして、『南下の為の兵力』を与えられているからと言って、その戦力だけを遊ばせておく意味がない事はセシウスも理解していた。

そして、ショウの意見は些か異なった。


「…向こうはセシウスを殺せば勝ちだ。遮蔽しゃへい物のない戦場で半慈の襲撃に備えなくてはならない。数を出さねば足止めも出来ないだろう」

「殿下を城に残すという手もありましょう?」

「護衛に俺が残れば、セシウスは無事だろう。だが出兵した軍は恐らく全滅する」


ショウの断定に、今度はテリウスが絶句した。


「それ程ですか?」

「無論奴一人で全員斬り殺すとは言わないが。奴はそこに居る敵の有無に関わらず戦場を縦横無尽に駆けて、目についた隊長や将軍を片っ端から斬り殺す事は出来る」


業剣士は鬼神討ちほど魂が洗練されていないから、兵士や将の力でも討つ事は出来るだろう。

だが、それに味方する兵力があれば。そして、彼ら自身が自らの武のみを恃まず、戦術に従って駒に徹する事が出来れば。

厄介極まりない、一騎当千の刺客が出来上がるという訳だ。


「では王師殿が戦場に出られれば」

「…半慈が回り込んで城に忍び込まなければ良いがな」


これだけの防備だから時間はかかるだろうが、ショウが居なければ忍び込んでセシウスを暗殺する程度の事は容易いだろう。


「それにだ。フォンクォードの配下とは言えお前達の国の民だろう。俺が出れば誇張なく皆殺しにしてしまえるが、それはいいのか?」

「…いや、それは拙い。ひどく拙い」

「だろう?」

「ではどうしろって言うんだ!」


ラネルが爆発した。どうやら難しい事を考えるのには向いていないらしい。


「策はないではないが」


ただし、失敗すると現在の兵力で追撃しなくてはならなくなる、と述べると、


「…まずは詳しく聞かせていただこうか、王師殿」


冷徹な将軍の顔となったランドが、先を促してきた。



その晩。

ウルケ城から数人の伝令が三々五々に出発した。

行先は等しく南方。だがそれぞれが向かう方向は異なっていた。



三日後。

ウルケ城は、軍勢に四方を囲まれていた。

軍の旗は槍を番えた弓。ノスレモス領軍である。

その数、五千。



その日の朝、ショウはセシウスとテリウスの二人が休んでいる一室で夜を徹していた。

元々は二人とも個室が用意されていたのであるが、ショウの一存で三日前から同じ部屋に寝泊まりさせていたのである。

言わずもがな、暗殺対策だ。

と、廊下を慌ただしく走る音が響き始めた。暫く様子を窺っていると、乱暴にドアがノックされてよく知った声が聞こえてきた。


「王師殿!来ました!ノスレモス領軍です!」

「そうか。聞いたな、二人とも。行くぞ」


既に準備を終えている二人を連れて、ショウは城主の間に向かった。


「来られたか、王師殿!」


特に最初の時と変わらない恰好のランドが、三人を出迎える。

こちらは着替えたらしい、緑を基調とした鎧姿のヴィントが横に並ぶ。


「仰る通り、攻めてきましたな」


現時点では攻城は始まっていない。包囲したにしては悠長だ。

難攻不落と呼び声高いウルケ城である。兵器を出したとしても、簡単には陥ちないだろう。


「戻ってきている兵の数は?」

「八千。領軍全体の半数といったところ」


ショウが提示したのは、ジェックの下へ伝令を出す事だった。

セシウスがウルケ城に入った事と、出兵するには魔獣討伐に出していた兵を城に戻さなくてはならない事、その為出兵には時間がかかるのでジェックの方からも兵を出してほしい事などを認めた書簡を持たせたのである。

ノスレモスの伝令狩りに捕まれば良し、捕まらない者が居ても、伝令が届く頃にはこちらの準備も整っている。

そして捕まった時、フォンクォードが先に王城へ向かう事を優先するか、先にウルケ城を潰しにかかるのを優先するかは確率として半々だろうとショウは思っていた。

そして期待した通り、彼らは後者を選んだ。

こうなってくれば、対策は取りやすい。


「半慈が出てきた時には、俺が対応する。この中では時間稼ぎが出来るのはヴィントくらいだろう。テリウスとセシウスは第二城壁の上で兵士を鼓舞してもらうのが良いか」

「第一ではなくてよろしいので?」

「…矢は届かないでしょうが、魔術の的になります。殿下…」

「…あ」


ヴィントの半ば呆れたような声に、顔を赤くするセシウス。標的である自覚を持って欲しいものだ。


「師匠はどうされるのです?」

「第一城壁に詰めておく。奴が単独で城に潜入しようとすればそちらに出向く。先に将を斬ろうとするならば斬られる前に介入する」




南部の城壁の上に移動したショウは、眼下を見下ろして眉を寄せた。


「静かだな」


包囲している兵は一人ひとり別の人間だ。本人は少しのつもりでも、身動ぎの一つもすれば動いている様子は見て取れるし、一言ずつでも喋ればざわめきとなるのだが、どこにもそれがない。まるで人の形をした彫像が立っているようだ。


「ところで、ここは包囲されているんだよな?」

「ええ。こちらにおよそ二千、それ以外を千の兵に囲まれているようです」

「…静かだな」


ノスレモス領の軍は士気も練度も決して高くないと聞いていた。

余程訓練を積まないと、ここまで音がないなどという事はあり得ないのだが。


「術か?」


確認している暇はなかった。

南門が開く。


「行くぞ、討獣騎士団!陛下の温情を踏みにじった愚か者に死を!」


最も多い所に、最高の戦力をぶつける。考え方としては間違っていない。

先頭に立っているのは、ヴィント。テンペストを駆って後ろの騎士たちをみるみる引き離して行く。


「…ああ、あの馬鹿」


隣に立つランドが額を押さえた。


「…いつもこうですか」

「いつもこうなのですよ…」


小さく溜息をつく。

成程、熱くなると周りが見えなくなるのはやはり昔からだったようだ。



ヴィントの突撃とほぼ同じくして、ノスレモス軍が攻撃を開始した。

主に魔術による遠距離攻撃である。標的は城壁の上。

ウルケ城の設備を破壊するのは短期間では出来ない。まごついている間に、城の外から戻ってきた残り半数の領軍に更に包囲されては最悪だ。

相手の目的はただ一つ。セシウスの首だ。

その為には城壁の魔術障壁を壊す時間などかける必要はない。

城壁の上に立つ射撃兵を出来る限り撃ち落し、最強の手駒による単騎突入を試みる。

ハンジの侵入の為に、軍勢を使い捨てにする。

王権の為の策を練るなら、絶対に出来ない手法だ。


「喝っ!」


ランドに殺到してくる魔術の数々を、鬼気を放って散らす。


「…便利ですね、それ」

「鬼気を放射するだけですが。魔力が俺の魂の濃度を越えない限りは、こちらには届きませんよ」


弓矢も同様に、ショウの鬼気に触れると弾かれる。実際のところ、自分だけなら叫ぶ必要もないのだ。


「後で教えていただけませんか?」

「ヴィント達にも教える事になりますので、その時でよろしければ」

「お願いしましたよ、師匠」



…こんな場だが、弟子がまた一人増えた。


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