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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
2/122

蒼媛一刀流

街道に出ていた暗殺者らは、おそらく初めてであろう恐怖に耐える事ができなかったようだ。

ショウが掌から剣を抜いた瞬間。

感情を押し殺し、自らを律する事を是とした彼らの体が、目に見える形でガタガタと震え始めたのである。


「さあ、示せ」


ショウが上げた声に、びくりと反応すると。

十三人のうち五人が、言われるままに跪き、首を差し出してみせた。


「約定だ」


ショウは五人の首を静かに、だが迅速に落とす。

ごとりと音がした時には、残りの八人は完全な恐慌状態に陥っていた。


「うわ、うわあ…!」


その声自体、誰が発したものか。

ともあれひとまず。


「見えない所から潰すべきかな」


ショウは目の前の八人を一旦放置する事にした。




ショウが飛び込んだのは、街道から外れ、二人を狙っていたであろう暗殺者達の居場所であった。

五名ずつ、四ヶ所。

常人では『目に映らない』ほどの速度で五人を斬り伏せ、次の五人に移る。

この間一言もなく、倒れるのを確認もせずに。

瞬く間に、作業のように二十名を斬殺してから。ショウは二人の元へ戻った。


「さて。飛び道具は封じさせていただいた。残りは八名か」


巨刀を肩に担ぎ、睥睨する。


「先ほど笛を吹いた男は既に亡い。貴様らの頭目かしらと見たが、どうか」


ひ、と誰かが声を漏らした。


「返事はいらん。では参る」

「ま、待ってくれ!」


と、八人のうちの一人が声を上げた。


「待たん」


瞬く間に、七人が倒れた。

声を上げた一人だけが、残される。


「あ、ま、待ってくれたのか?」

「違うな」

「え?」

「…貴様が、気付いていないだけよ」


ショウは血振りをして、刀を消した。納めたのではなく、確かに消したのである。

刹那。

男の体が斜めにずれた。


蒼媛一刀流あおひめいっとうりゅうの剣は、胡乱な敵対者を生かしておくことはない」


袈裟けさに両断されて倒れ伏す男に一瞥いちべつれて、ショウはやっと鬼気を収めた。山中に人の気配は二人以外にもうない。


「さて、お待たせした」


彼らにはショウがどのようにして暗殺者達を打ち倒したかは、見切る事は出来なかった筈だ。

それはつまりそういう技術だからであるが、ともあれ、彼らの危険が打ち払われたのは間違いない。


「当座の安全は確保できたようだな、お二人」

「は、はぁ…」

「か、かたじけない…しかし、これは一体…」

「何、そういう技術だと思っていただければよろしい。さて坊、刀を返してもらえるかな」

「あ、はい」


素直に刀を返してくる少年に、軽く苦笑いする。

目の前で二十人からを斬殺した相手だ。疑いもせずに刀を返すのは危機感が欠けているというか、何と言うか。

視線を老人にやると、やはり同じような事を考えていたのだろう。似たような表情をしていた。

目線が合い、苦笑する。

―苦労しますな。

―ええ、本当に。


「では、早いこと離れましょうか。ここは些か血腥ちなまぐさい」



山から下りたところで、やっと街道が終わりを告げた。

ふもとの街は名をセントモレス。異国から来たばかりのショウに街についての知識はない。


「ここがセントモレスですか、御老」

「ええ。シグレ殿、ここが東の港から最も近い街でしてな。街道があるとは言いましても山道ですからな、港町よりもこちらが栄えたという次第」


東の港町から入国したショウは、まず港を囲む山を見て、ここは山国だと錯覚した訳だが。


「交易都市とも呼ばれています。国の南東部にある王城を含め、大都市全てに向けて街道が整備された要衝の一つです」


「ほほう。と言うことはこの先は平野部ということですか?」


港町から伸びた街道は、西、南西、北西の三つだった。南西が王城への街道であるならば、北西にも何かがあるようだ。


「その通り。大河と砦に護られ、この平野のおよそ東半分がイセリウス王国の領地になります。大河の長砦ちょうさいは異国や魔獣からの襲撃を防ぐ為に築かれ―」

「爺、爺よ。シグレ様に観光案内をしている場合では」

「む、それはそうでしたな」


熱が入りすぎた老人をたしなめる少年。その様子は普通の祖父と孫のようであったが。

ショウはさてと、と切り出した。確かに観光案内をしていただいている場合ではなかった。


「宿はどうします?取り敢えず一部屋でよろしいか」


路銀にはそれ程余裕がありませんで、と続けると少年がくすりと笑った。


「ええ。お願い致します」

「では、大きめの部屋に致しましょう」



街で最も綺麗な宿の3階、価格としては中級程度の部屋。

刀を壁に掛け、それなりに柔らかい寝台しんだいに腰を下ろしたショウは、同じく腰を落ち着けた二人に向いて、やっと口を開いた。


「ここまで来れば、一応は安心でしょうかね」

「本当にかたじけなかった、シグレ殿」

「構いませんよ。乗りかかった船というやつです。こちらも黙って斬られるつもりはなかった、それだけのこと」

「…そのことですが」


と、老人が切り出した。


「先程のお力は、一体」

「その前に、まずですな」


頭をきながら、言を遮る。


「お二人の名前、教えていただけませんか?」


爺とミハイルとしか聞いていないので、呼びにくいことこの上なかった。

あ、と二人が顔を見合わせた。状況が状況だけに忘れていたのだろうが、二人の立場からすると普段はしないようなミスであったはずだ。


「こ、これは失礼を」

「ミハイルというその名前、偽名でしょう?」


差し込んだ言に、息をのむ二人。

逃げている立場上仕方ない措置ではあったろうが。


「今後もご一緒するのであれば、正しいところを教えていただきたい」

「…分かりました」


二人が居住まいを正す。先に口を開いたのは老人の方だった。


「私は元、イセリウス王国近衛兵団団長を務めておりました、ザフィオ・ウルケ。そしてこちらが」

「セシウス・ウェイル・イセリウス。イセリウス王国王子にて、先日凶刃に倒れた国王ハウンツ・ガナー・イセリウスの後継です」


薄々そうじゃないかな、と思ってはいたのだが。

どうやら、王位継承のごたごたに巻き込まれたのは間違いないようだった。

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