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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
13/122

ジェック将軍による現状分析と作戦立案

広間から場所を移して、ジェックの私室へ向かう。

セシウスとザフィオに同行する形で、後ろを歩くのはショウとヴィントの二人である。

先程までの睨み殺さんとするような視線ではなく、どことなく憧憬を含んだような目でこちらをちらちら見てくるヴィントの様子に、先程とは異なる居心地の悪さを覚える。


「叔母上!」

「ああ、セシウス…!無事だったのね」


部屋に入ると、驚く程に美しい妙齢の女性がセシウスを抱き締める。叔母と甥と言うより、姉と弟にしか見えない辺り、女性の若々しさも美しさも際立っていた。


「こちらのシグレ様にお助けいただき、ここまで逃れ来る事が叶いました」

「そうですか…シグレ殿、セシウスをお連れいただき、誠にありがとうございます。心より御礼申しますわ」


一つひとつの所作が、セシウスに輪をかけて優雅だ。成程、これが王族の女性というものか。


「成り行きでしたが、これも縁というものでしょう。これを良い縁にしたいと思っていますよ」

「ええ、本当に」


輝くような笑顔を見せる彼女に、一瞬見惚れる。

美しい女性というのは、本当にそれだけで得なものだと思う。


「さて、まずは座って下さい」


召使に椅子を用意させたジェックが、席を促しながらそのうちの一つに座る。


「事情を伺いたいのだ、ショウ殿」

「こちらも知っておきたいところだ。隣国の暗殺者が少なからず侵入出来ていたという事は、既に向こうは動いているのか」

「いや、まだ連絡はないな。あれだけの隠形を使えるなら、川を越えてくるのも不可能ではないだろう」

「王をしいしたのが王兄であるという事は?」

「知っている。二刀を使う東国人が出入りしていたという情報は来ていた。だが、まさか一人で王城を突破するとは…」


常識的に考えれば、そのような行動をとるなどとは考えないと。

それはそうだ。


「一体我々が何者か、とでも聞きたそうだな」

「本音のところ、その通りだ。二刀の男も君も、人の強さを逸脱しすぎている」


既に出自はセシウスら二人には説明している。同じ話を何度もするのは面倒なのだが、状況を考えればそうも言っていられない。


「ああ、この二人にはもう話した事なのだが…」


ショウは、諦めて口を開いた。




鬼神討かみうちか…にわかには信じがたいことだが」

「実際のところ、鬼神が狂れることなどあまりないのでな。鬼神討ちはその世代に一人居れば多いくらいだ」

「ですがそれだと、鬼神は増えるばかりなのでは?」

「大体三百年程で、多くの鬼神が天上に昇る。天上では鬼神が溢れかえっているかもしれないが、列島国家群全体でも地上に住む鬼神の数はそれ程増えすぎずに推移しているよ」


どうやらセシウス辺りの認識では、向こうには鬼神討ちも溢れかえっているように思われているようだ。

そんなに沢山居れば、そこまで尊敬されるまいが。


「で、だ。セシウス王子を旗頭はたがしらに、そちらは軍を出すのだろうか」

「王子としてではなく、新王としてになる。大々的に生存を発表して、国内の諸侯に国賊フォンクォードを討つべしと兵を挙げさせるという動きになるだろう」


兵を僅かでも供出すれば良し、しなかったりフォンクォードに迎合すれば同じく賊として叩き潰す。


「…完全な内乱になるのう」

「既になっていますよ、団長。とは言え、ムハ・サザムに付け入る隙を与えない事が必要です」


ザフィオに対しては敬語を使うジェック。団長と呼んだという事は、ザフィオが近衛騎士団長だった時に付き合いがあったのだろうが。


「となると、やはりここを拠点にするのは難しいか」

「うむ。前後両面に敵を抱える形になる。あれだけの数の暗殺者を送り込んできたということは、あちらも本気でこの国を牛耳るつもりだと見てよいだろう」


向こうの誤算はその暗殺者が一つの仕事も出来ずに悉く死ぬか捕まるかした事だろう。


「ほぼ完全な隠形だった。あの手の人材は才能がモノを言うから、同じ数をもう一度用意する事は困難だろう。無論昼夜を問わず術師を使って巡回するがね」


だが、暗殺の恐れはもうないだろうと。


「この城の兵力はムハ・サザム戦を想定している。フォンクォードを掣肘せいちゅうする兵力の余裕は、残念だがこちらにはない。そして、フォンクォードとムハ・サザムに挟撃されてしまえば、永くは保たん」


ここが保たなければ、イセリウス王国はどちらにしろ終わりだ。


「早馬に持たせた手紙には、こちらを回ってウルケ領に向かう旨を記していたのだな?」

「はい」

「そして、こちらに到着する直前に、騎馬隊が寄せてきたか…。成程、確かに向こうは陛下のご無事と動きを知ったようだ」


溜息をつき、ジェックはショウを見た。


「うちの主君を軍略の手札にする真似は感心出来ないな」

「俺が近くに居れば、たとえ半慈が現れても無事に護り切って見せるさ」

「だろうな。君にはそれが出来るからこういう事をしたのだろうが…」

今度は苦笑いをしながら立ち上がり、壁に貼られた王国地図を示した。

「この城がここ」


と、大河の近くにある城を指す。


「ランド将軍の居城がここ」


次に、北方の城を指す。


「道はほぼない。馬をお貸しするので、川沿いから山沿いに至るよう駆け抜けていただくのが最善だろう」

「街道のようなものは?」

「あるにはあるが、難しいな」


次に示されたのは、ひどく細い道が一筋。


「建国当初、長砦を築く際に使う資材を運ぶ為に使った古道だ。流石に古すぎて整備もされていない。とはいえ道としては近道だから、兵を伏せるなら私はそこを選ぶ」


逆に、それ以外の場所には兵を伏せないだろうと。


「北の山沿いを走る場合、海と山を越えてきた北方大陸の魔獣と遭遇する危険性がある。シグレ殿が居なければ、私も王子には示さない悪路だ」


ショウならばセシウスを護りながら平然と魔獣を斬り捨ててしまいそうだ、と冗談交じりに続ける。

それが冗談ではないことを、なんとなくセシウスが言いたげだったので、話題を少し変える。


「その間に、そちらはどう動く?」

「陛下の無事と、お連れして王城に向かうという情報を流す。道すがら『体調を崩されたのでヴォルハート城に戻る』。上手く騙されてくれれば良いが」

「偽物だと確信していても、動きを取らない訳にはいかないか」

「少しは道行きの助けになると思うが」

「確かにな。感謝する」

「フォンクォードにはその辺りの機微を理解できるほどの頭はない。余程優秀な知恵袋を得たようだ」


おそらくフォンクォード自らが率先して登城を阻止しようと動きかねないとまで言い切る。

どうやら、この国では王兄は余程頭が弱かったのだと殆どから見做みなされているようだった。



「明日までには名馬を用意しておく。今日はどちらにしろもう日が暮れる、客間を用意しておくからしっかりと休んで欲しい」


とは言え、まだ暗殺者の残党が残っていないとも限らない。

今頃、城内の術師が総出で探索に回っているだろう。


結局、終わったのは翌日早朝であったらしい。


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