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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
大陸の章~獣の絶地訪問編
101/122

豪公流拳闘術の使い手

「こうなる気はしていたんだ…」


その日の晩、ユンが部屋で頭を抱えていた。

原因は言うまでもなくショウである。本人も自覚していた。


「いやあ、済まない」

「…絶対そう思っていない…ッ!」


そうでもなかったのだが、見た目の割に苦労性と見えるこの顔役には最早どう言い繕っても通じないだろうなと諦める。

話を進める事にする。


「東方で追手をかけられていた罪人なのでね。ここでの功績や名声もあるだろうから、一方的な捕縛ではなく名誉の敗死を選ばせてやりたい所なのだが、どうか」

「…相手はあの仮面だろう?今までに奴が何人殺していると思う?」

「さて、少なくとも百人を割る事はない筈だな」

「何だと?」


ショウの言葉に、ユンが眉根を寄せた。

どうやら闘技場でも相当な数の闘士を殺しているらしい。


「奴は殺した相手から生命を奪う事で自らが強くなるという教えを信奉している。七年前、東方で多くの無辜の民を殺害した為に海上にて処刑された…その筈だった」

「仮面が現れたのもそう言えば確かに六年程前だったな。…だが、七年前に追放されたのならば何故知っている?」

「俺の師匠と奴の師匠が昵懇だったからな。俺が修行を始めたのが十二年前、その頃にはもう道場で五指に入る腕前だった。まだおかしくなっていなかった頃の奴に稽古をつけてもらった事もある」

「そうなのか…。随分小さい頃から修行していたのだな」

「…まあ、色々あってな」


セシウスの方をちらりと見ると、苦笑を漏らしていた。

気を取り直し、話を続ける。


「奴の操る格闘術は『豪公流拳闘術』。あの肩から指先まで自在に動く凶器だと思って構わない」

「今日の顛末も報告を受けている。…斧の刃先は握り潰されていたそうだ。そんな真似、絶地の将軍でも出来る者は少ないぞ」


言いながらユンは慄くのだが、ショウや汀は勿論、セシウスにヴィント、ダイン辺りも無感動だ。

ショウの腕を見ている彼らにしてみれば、『東国の業剣士ならばそれくらいやる』くらいには思っているのだろう。

ある意味大きな誤解なのだが、今回に限ってはそれをしてのける相手なのだ。


「まあ、どちらにしろ仮面は少々殺し過ぎた。闘技場の中でも大分恨みを買っている。今回の相手も恨みを持っていた一人だった…届かなかったがな」

「闘技場で相手を殺した場合の法はあるのか?」

「ある。…闘っている際に相手を殺してしまっても罪にはならないし、最早治療の方法もない程の致命傷を与えた相手に止めを刺す事は慈悲として認められている。…しかし、仮面はそれを狙っている節がある。出てくる亜人もなまじっか自分の力に自信があるからか、避けずに受けようとして殺されている」


元々は鬼神を討つ為に研鑽された拳だ。如何に力自慢とは言え、普通に受けて防ぎきるのは至難だろう。

知らない事は恐ろしいと言えるかもしれない。


「六年の間に三十人の闘士が仮面の手で死んでいる。いずれも中堅どころだ」

「三十人か…」


思っていたよりは少ない。少なくともその倍は殺していると思っていた。だが、確かにそれ程殺していれば如何に闘技場の法を犯していないとは言え、他の理由で取り締まられているか、と考え直す。

考え込むショウの表情をどう見たのか、ユンは少し優しげな声で提案してきた。


「王師殿よ、流石に今回は分が悪いだろう?エゼン・レ・ボルの旦那から勝てそうな人材を呼んでおくから、協力して捕縛したらどうだ?」

「ん?…ああ、奴に勝つのは難しくないからそこまでしてもらう必要はない。ちょっと考える事があっただけさ」

「…ったく、陛下の師匠がたかが闘技場くんだりで大負けしたり勢い余って殺されたりした日には、この街はどうなると思っているんだ」

「そのような事は心配するまでもない。師匠は勝つ」


ユンの言い様が気に障ったか、後ろに控えていたヴィントが口を挟む。

見ればセシウスも不愉快そうな表情をしているし、汀に至ってはサンカが必死に押し留めている。

視線だけでサンカに頑張れと告げると、ユンの方に視線を戻した。


「要らぬ心配など必要ないから、師匠のご要望を受けるのか、受けないのか。示されよ」

「…分かった!分かりましたよ!…ただし相手は仮面だけだ。どうせ道案内が戻ればすぐに出るんだろうが、後々まで街には禍根を残したりはしないでくれよ」


精一杯の妥協なのだろう、どこからか絞り出すようなユンの声に、頷いて安心させる。


「心配しないでくれ。迷惑はかけないよ」

「…では明後日には何とか実現出来るように手配をかけておいてやる。その間は、その間だけでいいから!頼むから大人しくしていてくれよっ!」


ユンの声は最早悲鳴に近かった。

ショウはショウで、いたく彼の神経をすり減らしてしまったようだな、とやはり詫びの一つも入れておくべきだろうかと少し反省したのである。

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