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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
1/122

時雨湘という青年

初投稿と相成りました。遅筆かつ仕事の関係上、然程更新速度には自信がありませんが、よろしくお願い致します。

街道と言えど、山中では昼間も然程明るくはないものだ。


ショウ=シグレは歩きながら、周囲の気配の質の悪さに眉をひそめた。

―この国にあっては、異装の青年である。

黒髪、黒目。アルガンディア大陸に於いては少数民族ですら、そのような容姿はない。東に遠く、海を隔てた列島国家群れっとうこっかぐん特有のものである。衣服も東国のものであり、本人はそれを隠すつもりはないようだ。


ここはアルガンディア大陸東部、イセリウス王国。交易と強兵で鳴らした、大陸有数の国家である。

その領地は大陸の一割にも満たないし、まだまだ群雄割拠ぐんゆうかっきょ、人里を離れれば魔獣が跋扈する大陸内では随分と『狭い』国である。

とは言え、他国と交易を行えるだけあって、国内の治安は非常に良かったはず。野盗や山賊の類が住まうような立地でもない。

が、不快な殺気が山のあちらこちらから感じられる。どうにも獣の類が放つものではない。人だ、それもある種の訓練を課された者たち特有の。

同時に、それに追い立てられているような気配が二つ。どうやらこちらに近づいてきているようだが。

足を速めるか止めるか、一瞬迷う。が、どうやら殺気の主はこの山から人を出すつもりはないようだと判断し、足を止める。

止めたのとほぼ同時、左手から飛び出してきた人影が二つ。

こちらを見て、二人ともが一瞬警戒を浮かべるものの、次の瞬間には後悔の表情になる。


「旅の御仁ごじんと存ずる!」


そのうちの片方、老人が声を張り上げた。


「ああ、左様ですが」

「無礼は承知で申し上げる!訳は申し上げられぬが、今すぐここを離れられよ!」

「ああ、まあ。立ち止まり続けるつもりはありませんが」


どうやら巻き込んでしまった事への悔悟かいごの感情であったらしい。見つかったことが問題ではない辺りに、人の好さを感じる。

老人はこちらを戸惑っていると見たらしい。飛び出してきた草叢くさむらの方を厳しい視線で見やりながら、


「御仁、重ね重ねの無礼で申し訳ないが、願いがある」

「なにかな」

「こちらの御か―少年を、お連れいただけまいか」


と、かばうようにしていた連れの少年を、視線はそのままに、こちらに押し付けてきた。


「爺!?」

「爺様、ですぞ、ミハイル」

「ふむ」


ショウは不躾ぶしつけと思いながらも、二人を上から下まで観察する。

少年の金髪は鮮やかな色合いをしている。何日ほど手入れが為されていないのか、少し艶を失っているが、それでも十分な美しさだ。着ている服はこの国の平民のものではあるが、匂い立つ気品は明らかに一般市民のそれではなかった。

老人は着込んだ服が板についているが、気骨は十分。持っている幅広の剣も手入れが行き届いている。これに人生を賭けていたのがよく分かる。


「御仁?」

「よくわかった。引き受けよう」

「かたじけない!」

「が、もう手遅れのようだ」


と、三人を囲むように、草叢から次々と出てくる人影。


「十二…三、まだ草叢に何人か居るな。お二人はどうにも随分な身分でおられるらしい」


巧妙に隠している殺気、追われる貴人。

大体状況は飲み込めた。


「済まぬ、御仁。巻き込んでしまったな」

「構わんよ。どちらにしろ今日この場を進んでいた者を生かしておくつもりはない様子」

「何?」

「全員が全員、暗殺を生業としているようだ。人数から察するお二人のご身分を考えれば、無理もないこと」


視線を巡らすが、はやってこちらに襲い掛かってくる様子はない。三人目であるところの自分を少なからず警戒しているようだ。

包囲している者たちは徹底して無言。誰一人指令を下している様子はない。確認できる範囲に首領は居ないようだ。


「よく訓練されているな」

「御仁、私が道を開く。この子を連れて駆け抜けてくれ」


老人が剣を構える。みなぎる剣気。成程、老いたりとは言え超一流であるのがよくわかる。

確かに目的を考えれば彼らにとっては現状選べる中では最善の方法であるだろう。

だが。


「できませんな」


ショウにとって、それは最良ではない。


「な、何故!?」

「まあ待ちなさい先達せんだつよ。この状況を何とかすれば良いのでしょう」


と、ショウは腰に差した一刀を鞘ごと抜くと、少年に差し出した。


「これを」

「は、はい!」

「ま、待たれよ!御仁は、この子に戦えと申すか!」


焦る老人。護るべき相手に戦わせるなど、彼にとっては到底受け入れることはできない。その気持ちはよく分かる。


「ああ、違いますよ」


安心させるように微笑んで―むしろ向こうが顔を引き攣らせてしまったから、失敗したかもしれない。

ショウは両手を前に突き出し、述べた。


「一人ならその刀でも物の数ではないのですが、こういう手合いを相手にすると、万が一という事もあり得ますのでね」

「ならば!」


今度はショウは返答しなかった。代わりにその表情を戦場のそれへと変える。

ざわついていた空気が一瞬で静まり返った。



左掌を大きく開き、そこに握り拳を当てる。

意識を、魂すらもその先端に集中するように仕向け、掌の中心から生じたそれを掴む。

そして。


「業剣、抜刀」


いささか乱暴に、引き抜いた。


「我が名は湘。時雨湘。遠く東国、蒼媛国あおひめのくにより参った鬼神討かみうちが一つ」


ショウの右手に握られていたのは、少年に渡したものよりも二回りは大きいかという、武骨な一刀。

そして、彼自身の全身から迸る鬼気が。


外道げどう生業なりわいとする悪道あくどうの徒よ。安らかに逝きたくば首を垂れよ。痛みなく刎ねて進ぜよう。抗えば安らかには逝けぬぞ」


暗殺者達をあまねく打ち据えたのである。

…いかがでしたでしょうか。どきどき。

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