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チョコレートの日

「ケッ」って思いながら書きました。読んだら、あなたも「ケッ」ってなるかもしれません。

 後少しでチョコレートの日。つまりはバレンタインデー。昼休み。そんな話題で盛り上がっている女生徒達。そのうちの一人、佐藤さんは、最近になって彼氏ができたばかり。幸せそうに笑いながら、どんなチョコレートを彼氏に贈ろうかなどと話している。そんな彼女に別の女生徒がこんな疑問符を投げかけた。

 「でも、鬼頭君ってチョコレートとか、苦手そうじゃない?」

 そう。彼女の彼氏の鬼頭君は、目つきがきつくて強面。甘いものが好きそうには、とても思えなかったのだ。ところがそれを聞くと佐藤さんは「うふふ」と笑ってこう返した。

 「ところがどっこい、小学生の頃から同じだった人に聞いてみたら、実はチョコレートが大好きなんだって。この時期は、チョコが買い難くなるから憂鬱になるくらいだって言ってた。だからわたしは、彼にたくさん美味しいチョコをあげようと思っているの」

 

 そんな彼女たちの会話を、隣の席で聞いている別の三人組の女生徒達がいた。その内の一人、園上さんが言う。

 「おのれ、リア充。爆発しろ」

 それを聞いて、宥めるように長谷川さんが。

 「仕合せそうなんだから、そんな事を言わなくても良いじゃない」

 その時、その三人組の最後の一人、唄枝さんという子は、少し物憂げな表情で佐藤さんを見つめていた。園上さんは、その表情を敏感に察すると、「どうしたの、唄枝?」と、そう話しかけた。

 「うん。実はさ。わたし、鬼頭君が別の女の子と一緒にいるのを、偶然に見ちゃったのよね。しかも、チョコを渡されていた上に、何だか鬼頭君は“一目惚れだった”とか、そんな事を言っていて……。確か、相手の女の子は、鬼頭君の小学校からの知り合いだったと思う」

 それを聞いて園上さんは活気づく。

 「ほぉ! つまり、祭りって事ね!」

 どうやら喜んでいるよう。それに長谷川さんが「どうして祭りなのよ?」と、そうツッコミを。

 「何を言っているのよ? “修羅場”と書いて、“フェスティバル”と読むのは世間の常識じゃない」

 「常識じゃないわよ。てか、あんたはそんな事ばかり言っているから、恋人ができないのだと思うわよ?」

 そこに唄枝さんが困った顔でこう言う。

 「わたし、どうすれば良いのか分からなくて……」

 それを聞くと園上さんは言う。

 「馬鹿ね。そんなの教えてあげれば良いに決まっているじゃない」

 「だって修羅場になるのでしょう?」

 「仮にそうなったとしても、こういうのは早目に言ってやるに限るのよ。別れるにしても、無事に済むにしても」

 そして早速、席を立つ。

 それに長谷川さんは、「なんか、てきとーにそれっぽい理屈をつけているだけな気がするのだけど」とそう言ったが、彼女を止めようとはしなかった。

 それから園上さんが佐藤さんに事情を説明する。唄枝さんから聞いた話なのに、まるで自分で体験した話のように語って聞かせた。それを聞くと、佐藤さんは目に涙を浮かべてこう言った。

 「なにそれ! 酷い!」

 そして、そのまま鬼頭君の所に向かう。何を隠そう、彼は同じクラスなのだ。佐藤さんはこう言った。

 「鬼頭君! 酷いじゃない!? どうして他の女の子からチョコを受け取っているの? しかも一目惚れって。そんな子がいるのなら、どうしてわたしと付き合い始めたのよ!」

 その様子を見て、園上さんは密かに軽くガッツポーズを決めた。

 「よっしゃ! 修羅場」

 と、そう小声で言う。

 ところが、その佐藤さんの言葉を聞くと、何故か鬼頭君は顔を赤くしたのだった。修羅場にしては妙な反応。

 「馬鹿野郎! 一目惚れってのは、そいつの事じゃねぇよ! そもそも、あいつとは小学校の頃から知り合いなんだぞ? 一目惚れってどんだけ前なんだよ?」

 佐藤さんはそれを聞いて少し落ち着くと、こう訊いた。

 「違うの? じゃあ、誰の事なのよ?」

 「“誰”でもない」

 「誰でもない?」

 「人じゃないって事だよ!」

 ――人じゃない。そこまでを聞いて、園上さんは思わず口を開いてしまった。

 「あ、分かったかも」

 そう言った園上さんに、その場にいた皆が注目をする。

 「佐藤さん。確か、鬼頭君ってチョコが大好きなのでしょう? さっき聞いちゃったのだけど」

 それに佐藤さんはゆっくりと頷く。「うん」。鬼頭君はそれを聞いて、目を背ける。顔を更に赤くしている。

 「で、この時期ってほら、やっぱり美味しそうなチョコレートが店頭に並ぶじゃない? でもって、それを買う勇気は、ほとんどの男共にはない訳よ。なら、もし欲しかったら、買って来てと頼めるのは女の子くらいって事になるのじゃない? しかも、鬼頭君の場合、小学生の頃から知っている、チョコ好きだとばれている女の子に限る。何しろ、チョコ好きだってのを恥ずかしく思っているみたいだから」

 その園上さんの言葉を受けて、佐藤さんは鬼頭君を見てみた。その表情は、園上さんの推理を肯定していた。

 「つまり、“一目惚れ”っていうのは…」

 鬼頭君は応える。

 「チョコの事だよ!」

 それでそのチョコを、小学生の頃からの知り合いの女の子に、買って来てくれと鬼頭君は頼んだのだ。

 「いや、鬼頭君。なら、わたしに頼もうよ!」

 その後で佐藤さんはそう言った。鬼頭君は返す。

 「彼女に頼むってのも変だろう? この場合!」

 それを聞くと佐藤さんは、軽くため息を漏らし、少しだけ呆れた口調で、しかしそれでも愛おしげにこう言った。

 「もぅ。たくさん美味しいチョコをあげるから、これからは別の女の子に、そんな事を頼んだりしないで」

 鬼頭君はそれを聞いて、顔を更に更に赤くした。もう熱でもあるのじゃないか?ってくらいに真っ赤だ。

 その様子を見て、園上さんはこう言った。

 「おのれ、リア充。爆発しろ」

 ボソっと小声で。

「ケッ」って、なりましたかね?

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