前編
死に関する表現のある、ダークなお話です。
気分を害される方はUターンをおススメします。
ふわり、ふわり。
舞う雪は灰色に染まった重たそうな空から落ちてくる。
いつもの喧騒が嘘みたいで人は皆いなくなったかのうように静まりかえってる。
私一人だけ、なんて感傷に浸るキャラじゃないけどね。
漠然とした孤独は恐怖にも似てる。
いつもは履かないスニーカーにダウンコートをまとい、手袋とマフラーをしてわざわざ外に出て空を見上げるような物好きはきっと私ぐらいなんだろう、とぼんやり考える。
―今年はこの街でも雪が降ったよ。
あの年以来、初めて見る雪に涙腺を揺さぶられているような感覚になる。
ねぇ、この雪はあの年の私のように誰かの悲しい思い出になるのかな。
真っ黒な継ぎ接ぎだらけのアスファルトをうっすらと覆いつくした白い雪を手袋に包まれた手でそっとふれると、柔らかいのにきゅっと音がして握った手のひらの中で小さく氷のように固まった。
手の先に痺れる様に感じる冷たさになんだか切なさがこみ上げてくる。
「風邪ひくよ。」
家の前の道路にしゃがみこんで雪を見つめていた私に掛けられた声は静かなのに雪の静かさの前では大きく聞こえた。
振り向かなくても誰かなんてわかっていたはずなのに、まるで条件反射のように聞こえたほうをゆっくり見上げれば、向かいの家の2階の窓に久しぶりに見る姿があった。
白い雪に混じるような白亜の家。
記憶の中の姿よりもずっと大人っぽくなっている。
その姿を見つめるだけで返事もせずにいると、向こうは痺れを切らしたのか、また言葉を紡ごうとする。
「ねぇって、風邪…」
「廣瀬。」
さえぎって名前を呼べば、驚いた顔でこちらを見つめる目と視線が絡んだ。
返事をするなんて何年ぶりかのことだもんな、自分自身にココロの中で苦笑いをしながら視線を積もった雪に落とす。
きっと他から見ると、私は無表情なんだろう。
「雪は溶けるのに、どうして私はここにいるんだろうね。」
ココロが痛い。
何度思い返しても目の前に浮かぶのは真っ白な雪の絨毯の上に散った真っ赤と、救急車のサイレン音。
あとは、病院の不気味な静けさと真っ青な顔と足元が崩れるような絶望感。
思い返しても体が震えるような恐怖。
そして何よりも、私はあの雪を真っ赤に染める血を見たときに喜びすら感じていた。
地面に降り積もる雪を自分に見立てて、雪と血が一つに混ざり合っていく。
“あぁ、これで私とあなたは永遠に一緒…。”
ココロを病んでも何も解決しないのに、あの瞬間の私は自分の心を壊してしまった。
「私は進めないのに…時間だけは経っていくんだよ。自分の足で歩き始めなきゃいけないのはわかってるのにね。」
前にも後ろにも進めないまま、周りは進んでいく。進まなきゃいけないのもわかるのに。
ふとしゃがみこんで空を見上げる。