彼がストーカーになるきっかけ
女性を侮辱する表現、外見を嘲笑う表現など不愉快な描写を多用しています。
恋におぼれた横やり女の話。
できれば、『彼がストーカーになった理由』も合わせてお楽しみください。
奪ったはずなのに…。
あの娘に勝ったはずなのに、彼が私を見ることはなかった。
彼女が居るにもかかわらず、さまざまな女と関係を持っている彼はある意味有名だった。そこまで格好いいわけではないけれど、比較的整った顔と誰にでも優しいその性格は、大抵の人間に好かれる人柄をしていた。
もはや何故、いつまでも彼女と別れないでいるのかと疑問に思う程。それこそ綺麗系から可愛い系の女まで、さまざまな娘と彼は関係を持っていた。
面白いことに、彼は告白されて『一度だけでいい』と言われればどんな女でも体の関係を持つらしい。なにが面白いって、それこそこっちが引きそうなほどのブスやデブでもわけ隔てなく相手するのだ。その上、ヤリマンなどと呼ばれ「どんな病気を持っているか知れないと」、彼女を知っている人間なら「どんなに犯りたいときでもアレだけは願い下げだと」言われている女まで相手していた。
その上、美人だからと言って贔屓する訳でも、デブスであるから適当に済ますわけでもなく、みな同じように接するらしい。―――ただ一人、彼の彼女を除いては。
彼が唯一とろけそうな柔らかい表情をし。猫っ可愛がりともいえるほど大切にしているのは、あの娘だけだった。
普段、こちらが羨ましくなるほど傍にいて大切にしているようだったから、初めてみた時は、彼が噂の男だなんて信じられなかった。
彼を見かける時は、大抵は彼女と一緒にいるかメールか電話をしているようだった。流石にあれほど束縛されていたら鬱陶しいだろうなという思いと共に、あんなにも思われ大切にされているにも拘らず、適当に付き合っている彼女が理解できなかった。
あんなにも優しい彼であったら、彼女が一言「浮気しないでと」言いさえすれば、直ぐさま願いを聞いてくれるだろう。それになのに彼が浮気するのを許すという事は、彼女のほうは大して彼を愛していないのだろう。
…その時の私は、浮気をしている彼よりも、浮気を許している彼女に対しての憤りを抑えられなかった。
だから、言ってやったのだ。彼に抱かれるための呪文の言葉を―――。
目論見は上手くいき、彼は私のことを抱いてくれた。
軽い女が、「彼なら一度は相手してもらいたいと」言うだけあって、彼はそれなりに上手かった。さすが、色々な女を相手しているだけはあるという感じだろう。
―――しかし、それ以上に彼の行動は全てが優しかった。
自分の欲望を押し付けるのではなく、女が気持よくなるように…。女が喜ぶことを第一にした抱き方だった。
技術はさほど卓越している訳ではないけれど、その行動は『この世で一番愛され、大切にされている』ようだと、女に勘違いさせるものだ。
…どうして、こんな愛され方をしているにも拘らず、彼女は満足しないのだろう?
その時、はじめて私はあの娘に嫉妬しているのだと気付いた。
これだけ、この人に大切にされていて。独り占めしているあの女が憎くて憎くてしょうがなかった。
こんなに優しい彼を満足させられない「あんな女、早く振ってやればいいと」一度彼に言ったことがある。少し冗談めかして言ってみたのだけれど、驚く事に彼は今まで見たことがない程に怒り狂った。
穏やかで、誰にでも優しい彼が怒る姿など初めて見た…。
けれど、私は恐怖を覚えると共に、彼の滅多に見せる事のない姿を見る事が出来たのだと、震えが走るほど嬉しくなった。―――そして、そんな姿をいつも見ているであろう彼女にさらに憎悪を燃やしていく。
彼が同じ女と二度は関係を持たない事は知っていた。
だから、何度も自殺を仄めかしては無理やり関係を迫った。彼はだんだんと、私に対して冷たくなっていたけれど、体だけでも繋がっているというだけで彼女に勝っていると考えていた。
私を抱いている最中に、彼があの女の名前を呼ぶ事もあったけれど。何時からか目をつぶってしか抱いてくれなくなったけれど…。それでも、私は幸せだった。
もう少しで、きっと彼はあの女を見限って私の元に来てくれる。その日を想像するだけで、私は満足なはずなのに。何時までも彼に付きまとっているあの女はひどく目障りで…。
とうとう、私はあの女を呼び出して彼と別れるように言ってやったのだ。
「分かっていないようだから教えてあげるけど、私たち愛し合ってるの。
それなのにあなたが可哀想で、別れることができないんですって」
私がどんなに大切にされているのか、どんな優しい言葉をかけてもらっているのか。そして、どんな風に抱かれているのか。
ひたすら事実を述べている私に、目の前にいる女は何も言うことが出来ないのか黙って聞いていた。最後に口にした「分かりました」という言葉に勝利を確信し、笑みを浮かべた。
これでやっと彼は私のモノになるのだ―――。
うきうきとしながら彼に連絡を取ろうとするが、一向に連絡がつかず、彼が捕まらない。それでも、きっと忙しいのだと自分を落ち着かせていたのだけれど、四日もすると焦れて来た。
どうして、やっと幸せになれるはずなのに、彼と会えないのだろうか?
早く声を聞きたい…。あの娘が一人占めしていた優しさを、これからはすべて私に向けてもらうのだ。一週間後に、漸く彼を見つける事が出来た。
彼女と別れたことは噂で知っていたから、あとは彼の心を手に入れるだけなのだ。そう思って彼の腕に手を伸ばすが、その瞳はこちらを見ようとしない。それどころか、数メートル先にいる彼女の背中を見つめ続けるだけで、私と会話すらしてくれなかった。
終いには、私の手を振り払って彼女の後を追っていってしまった―――。
「どうして?」
結局、私は彼の心を手に入れることは……出来なかったのだ。
これが私の、醜い片思いの終末だった。
人のモノを奪ったところで、真実自分のものになる訳がないのに、他人のモノを欲しがる人っていますよね。っと言う話でした。
つい、自分の中で想像しうる嫌な女を表現してしまったので、不快に感じた方がいらっしゃたらすみません。自分がどれほど酷い事をしていたか、どれほど愚かだったかという事は、自身が傷つけられて初めて気づく皮肉ですよね。それでも気付かない人は、夜道に気をつけるべきだと私は思います。