1人の男性との出会い
カツ、カツ、カツ。
女性は急ぎ足で歩いていた。
時刻は夜。
周りは賑やかな場所から離れた普通の道。
店や家が少なく、頼りない。
ー嫌だ、嫌だ、嫌だ。
女性はヒールが壊れてもいいから、とにかく先へ進もうとした。
それというのも、駅を降りてから、ずっとついてくる足音があるからだった。
秋になったとはいえ、まだ薄着姿なので、襲われたらとどうしようかと、心配になってくる。
「はあ、はあ、はあ」
吐く息は荒く、一生懸命だった。
当然、後ろを歩く足音も速くなり、追いつかれそうだった。
まずいと思い、道を曲がると、急に小さな灯りが見えた。
「え」
声を出して見れば、煙草の火だったらしい。
側には外車があり、もたれるように煙草をふかしていた。
ー何だろう、この人。
顔は煙草の灯りで、陰影が渋く見え、年は30代くらいだろうか。
ふーとリラックスするように、煙草を吐き出す。
何者だろうと怪訝に思いつつ、横を通り過ぎようとする。
「ーおい」
急に話しかけられて、女性は最初、何なのか分からなかった。
そのまま行こうとすると、後ろの足音がたじろぐのが分かる。
ほっとしたのも束の間、男性と目が合う。
煙草の灯りで、陰影は和らぎ、整った顔だなと分かるようになってきた。
ー何で、こんな良い男が…?
不思議に思っていると、男性が急に動き出し、後ろへ向かっていく。
女性は「あ」と驚き、自分が来た方向へ走っていく男性を目で追う。
男性はちょうど曲がってきた足音の主を掴むと、首を回してしめる。
「痛ててて…!!」
追いかけてきたのは、中年の男らしく、男性が力を込めたのか、更に痛そうな声を上げる。
「く、くそ…!!」
男は来た道を走って逃げて行き、途中で転んだようだが、誰も気にする者はいなかった。
「あの…。ありがとうございました」
勇気を出して声をかけると、男性は煙草を道に捨て、足で踏みつける。ちゃんと火が消えると、小さな袋に回収する。
「1人でこんな時間に歩くな。いいな?」
「は、はい…!! すみません」
有無を言わせない迫力があり、かっこいいと素直に思ってしまった。
何故か分からないが、この人と離れたくないと思ってしまい、スマホを取り出す。
「あの…!! 連絡先を交換してもらえませんか?」
「は? 俺の連絡先を知ってどうするんだ?」
「あの、その、お礼とか…」
「いい。気にするな」
手を振って断られたが、女性はスマホをしまい、名刺を取り出す。
「良かったら、連絡をください」
「気が向いたらな」
男性はそう答えると、女性をじろじろと見てくる。
何か透けて見られていそうで、たじたじとなる。
「年、いくつだ?」
「22歳です。大学4年生で…」
「なるほど。大学生で名刺を持っているのか」
「就活用に、作ったものなんですけど」
「詳しくは聞かない。分かった、もらっておく」
「は、はい!!」
嬉しそうに言うと、男性が親指で愛車を示す。
「乗っていくか? うちまで怖いだろう?」
「え…でも」
「変なことなんかしないぜ。いいから、乗れ。送っていってやる」
「…じゃあ、お世話になります」
ここは甘えることにし、助手席を開けてもらう。
車内はエアコンをつけていたのか、ひんやりとしており、秋の風を感じさせるような室温だった。
女性は躊躇しながら、シートベルトをすると、男性が聞いてくる。
「うちの住所は…?」
「えっと…あそこの近くです。お願いします」
「分かった。安全運転で行くから安心しろ」
男性が名刺をドアポケットに入れ、エンジンをかける。
普通車よりも静かなモーター音。
いい車に乗っていると感じていると、ゆっくりと動き出す。
「俺と会えて、ラッキーだな。なかなかいないぞ、こんな上玉な男」
自分で言うだけあって、男性は明かりを受けると、まるで龍のような印象を受ける。
女性は大人しくしながら、車がうちに着くまで、男性の優しさに委ねることにした。




