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第2話:触れないぬくもり、届かない卒業式

第1話を読んでいただき、ありがとうございます!

部屋に連れて帰った、影のない小柄な少女。

彼女が誰なのか、なぜあの場所にいたのか……。

トモヤがスマホの画面越しに見つけたのは、七年前に止まってしまった「ある少女」の残酷な記録でした。

彼女の本当の名前を知った時、トモヤの心に芽生えた決意とは。

 ユウナが俺のアパートに居着いてから、一週間が経った。

トモヤは、キッチンで湯を沸かしながら、震える手でスマホを取り出した。

 あの場所。誰もいないはずの道で、一人立ち尽くしていた少女。

『高市町 通学路 事故 過去』

検索結果の最上段に、7年前のネットニュースがヒットした。

『――卒業式へ向かう女子児童、暴走車に跳ねられ死亡。』

『亡くなったのは、近所に住む佐藤ユウナちゃん(12)。卒業証書を受け取るはずだったその日、ランドセルを背負ったまま――』

スマホの画面が、トモヤの指の震えで揺れる。

 画面越しに見る「あの日」のニュースと、今、自分の部屋のソファで(数センチ浮いて)座っている少女の背中が、重なった。

「……佐藤、ユウナ……」

トモヤは、目を伏せて沈黙する。

そして、いつの間にかスマホの画面を覗き込む少女。

「……あ、お兄ちゃん。……それ、私のこと?」


「……ああ。……お前、……あの日のこと、覚えてるのか?」


(少し寂しそうに笑って)「……うん。……お母さんに『行ってきます』って言って、……それから……。

 ……お兄ちゃん、私ね。まだ卒業式、してないんだよ。……


ーーーーー

 六畳一間のむさ苦しい部屋は、150センチほどの小さな同居人のおかげで、見違えるほど賑やかになった。

「お兄ちゃん、見て見て! このゲーム、私の方が上手だよ!」

 テレビの前で、ユウナがコントローラーを握るフリをしてはしゃいでいる。

 実際には、コントローラーを動かしているのは俺だ。ユウナの指はプラスチックをすり抜けてしまうから。でも、彼女が「右! 次はジャンプ!」と楽しそうに指示を出すたび、俺はこの奇妙な「二人羽織」に、どうしようもない愛おしさを感じていた。

 夕食は、コンビニの肉まんを半分に分けるのが日課になった。

「はい、ユウナの分な。……熱いから気をつけろよ」

「わぁ、ありがとう! ……あむっ、……お兄ちゃん、これ世界で一番おいしい!」

 ユウナは、肉まんの湯気を吸い込むようにして笑う。

 実際には、肉まんは少しも減っていない。彼女の空腹が満たされることもない。

 それでも、俺と一緒に「食べている」という事実だけで、彼女はひまわりが咲いたような笑顔を見せるのだ。

 その笑顔を見るたび、俺の胸の奥は、鋭利な刃物で削り取られるような痛みに襲われた。

(……このまま、ずっと。……ずっとこうしていられたら)

 幽霊だっていい。触れなくたっていい。

 このまま、世の中のすべてから隠れるようにして、この部屋で彼女と一緒にいたい。

 そう願ってしまう自分勝手な自分が、たまらなく嫌いだった。

 ある夜。

 ユウナが俺の膝の上に(実際には数センチ浮いた状態で)頭を乗せて、スヤスヤと寝息を立てるフリをしていた。

 俺は、彼女のランドセルをそっと開けた。

 中から出てきたのは、泥と血に汚れた一通の封筒。

 『卒業式の案内状』。そして、裏側に殴り書きされた、あの日届かなかった『答辞』の原稿。

『――先生、お父さん、お母さん。……私は、……みんなと一緒に……中学生に……』

 その文字を見た瞬間、俺の視界が歪んだ。

 俺が彼女をこの部屋に留めておくことは、彼女の「未来」を、あのアホな運転手と同じように奪い続けていることなんじゃないか。

「……お兄ちゃん? どうしたの、……泣いてるの?」

 いつの間にか目を覚ましていたユウナが、不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。

 彼女が、俺の頬を拭おうと手を伸ばす。

 だが、その指先は俺の肌に触れることなく、空しく透けて通り抜けた。

「……ユウナ。……卒業式、しような。……俺と一緒に」

 俺の声は、情けないほど震えていた。

 ユウナは、一瞬だけ寂しそうに微笑み、それから、今までで一番綺麗な声で答えた。

「……うん。……お兄ちゃん」


彼女の本当の名前を知った時、トモヤの心に芽生えた決意とは。

「私ね、まだ卒業式してないんだよ」

ユウナのその一言が、トモヤの胸を締め付けます。

七年間の孤独を終わらせるために、トモヤが提案した「夜の小学校」での計画。

次回、ついに最終話。

『二人きりの卒業式』

月明かりの下で交わされる、世界で一番優しい嘘と、涙の別れ。

そして、半年後に待つ「奇跡」の瞬間まで、一気にお届けします。

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