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後編褒められて嬉しすぎる

 そして、ついに取引当日がやってきた。フユーナは緊張しながらも、ラフティの指示に従い資金の流れを管理する重要な役割を担った。取引は無事に終わり、巨額の資金が滞りなく動いた時、大きな達成感に包まれた。


「よくやったな、フユーナ。お前のおかげで、スムーズに取引を終えることができた」


 ラフティの労いの言葉は、自分にとって何よりも嬉しい褒め言葉だった。

 彼女はただ好きなゲームのキャラクターに会いたいという動機でこの世界に飛び込んだだけだったけれど、いつの間にか彼らの役に立ちたい、この組織の一員として認められたいと強く願うようになっていた。


 バーネアの夜は更けていく。


 ネオンサインの光は今日もまた、この街の裏側で生きる人々の姿を照らしている。

 フユーナは事務所の窓から夜景を見下ろしながら、自分が身を置くこの世界について、改めて考えていた。危険と隣り合わせの毎日だけれどそれ以上にかけがえのない仲間たちとの出会い、彼らとの間に育まれた絆は彼女にとって何物にも代えがたい宝物だった。


 明日もまた、彼女は経理の仕事に励むだろう。ラフティの右腕として組織の一員として夢見たゲームの世界は、少し形を変えながらも彼女の目の前で確かに息づいている。


 彼女の明るい笑顔はこの少しばかり物騒な世界に、一筋の光を灯しているのだった。ちょっと変わった動機で始まった裏社会での生活はこれからもきっと、様々なハプニングと、温かい人情に彩られていくことだろう。バーネアの夜空の下、心は希望に満ちて輝いていた。



 バーネアの朝は喧騒の中から始まる。市場の活気、行き交う人々の話し声、遠くから聞こえる汽笛。空気も爽やか。そんな賑やかな街の一角にラフティの組織の事務所は静かに佇んでいる。フユーナは今日も早朝から事務所に出勤し、経理の仕事に取り掛かっていた。


(あー、沁みるー)


 窓から差し込む朝日が彼女の明るい笑顔を照らす。電卓を叩く音、書類をめくる音。事務所には穏やかな時間が流れている。倫理観が垣間見えるのは日常のふとした瞬間だ。

 例えば、事務所の清掃を担当する年配の女性が重い荷物を運んでいるのを見かけると、フユーナは必ず声をかけ、一緒に運ぶ。


「おはようございます、おばちゃん!今日も暑いですね。その荷物重そう!少しお手伝いしますよ!」


 屈託のない笑顔でそう言い、当たり前のように手を差し出す彼女の姿。周囲の人間はいつも温かい気持ちになる。

 裏社会というどこか殺伐とした雰囲気が漂う組織の中で、彼女の明るさは一種の清涼剤のような役割を果たしている。

 また、組織の構成員たちが街の住民に対して横暴な態度を取っているのを見かけると、フユーナは決して見て見ぬふりをしない。


 ある日、若い構成員が露店のお婆さんに因縁をつけている場面に遭遇した。彼は商品の値段に不満があるらしく、大声でわめき散らしている。

 周囲の人間は恐れて誰も割って入ることができない。そんな中、フユーナは迷うことなく二人の間に割って入った。


「あの、すみません。何かありましたか?」


 小柄なフユーナが毅然とした態度でそう問いかけると若い構成員は一瞬、気圧されたように言葉を詰まらせた。


「なんだ、お前は!関係ないだろ!」


 彼はそう吐き捨てるように言ったがフユーナは臆することなく、お婆さんに優しく微笑みかけた。


「お婆さん、大丈夫ですか?何か困ったことがあれば私に話してください」


 温かい言葉にお婆さんの顔がほころんだ。フユーナは若い構成員に向き直り、諭すように言った。


「いくら不満があったとしても、大声を出したり、弱い立場の人を困らせたりするのは良くないと思います。お婆さんは、一生懸命に作られた商品を売っているだけなんです。少しでも、その気持ちを理解してあげてください」


 彼女の言葉は正論でありながらも、相手を頭ごなしに否定するような厳しさがない。彼女の真摯な眼差しに若い構成員も次第に冷静さを取り戻し、最終的にはお婆さんに謝罪してその場を立ち去った。


 ホッとなる空気。この一件は組織内で小さな波紋を呼んだ。普段は恐れられている構成員に物怖じせずに意見した彼女の勇気に、多くの者が驚き感心した。


 ラフティも、この出来事を耳にし彼女の意外な行動力と正義感に内心舌を巻いていた。経理の仕事においても、彼女の倫理観は遺憾なく発揮される。

 組織である以上、時にはグレーゾーンの資金の流れを扱うこともある。そんな時でもフユーナは決して不正を見過ごしたり、曖昧な処理をしたりしない。


「ボス、この支出についてですが領収書が見当たりません。詳細を確認させていただけますでしょうか?」


 どんな相手に対してもフユーナは毅然とした態度で疑問点を問い質す。彼女の真面目さと誠実さは組織の治安を健全に保つ上で、なくてはならないものとなっていた。


 ある日、フユーナは孤児院への寄付金が一部、不透明な形で処理されていることに気づいた。


「これは」


 寄付金はラフティの組織が社会貢献の一環として行っているものだが、その一部が何故か使途不明になっている。この件について直接ラフティに報告することを決意した。


 相手は組織のトップであり、下手をすれば自分の立場が危うくなる可能性もある。命さえも。それでも、彼女は見て見ぬふりをすることはできなかった。それに、なかったことにはされないという自信もある。


「ボス、大変申し上げにくいのですが、孤児院への寄付金について、気になる点がございます」


 緊張しながらも、フユーナは事実をありのままにラフティに伝えた。ラフティは彼女の報告を静かに聞き終えると、深く考え込むように目を閉じた。


「フユーナ、よく調べてくれた。おれも、この件については以前から懸念していた。すぐに調査を行う。お前は引き続きこの件について、詳細を調べてくれ」


 ラフティの言葉に安堵すると同時に、彼の正義感に触れた気がした。裏社会のボスというイメージとは裏腹にラフティもまた、社会の歪みや不正に対して強い憤りを感じているのかもしれない。


 それに、弱みはないに越したことはないだろう。この一件をきっかけにラフティは組織内の違反の監査を強化し、不正に関わった者を厳しく処分した。彼女の勇気ある行動が、組織の浄化につながったのだ。


「うー、緊張した〜」


 日常は決して平穏なだけではない。組織に身を置いている以上、危険な目に遭うこともある。しかし、そんな時でも彼女は持ち前の明るさと、人を信じる心を失わない。


 ある夜、フユーナは一人で帰宅途中、正体不明の数人の男たちに囲まれてしまった。


「止まれ」


 彼らは明らかにフユーナに恨みを持っている様子で、脅迫的な言葉を浴びせてくる。


「な!」


 絶体絶命のピンチ。


「こっちへ来い」


 フユーナは恐怖で足がすくんだがそれでも、彼らの目をしっかりと見据え、毅然とした態度で言った。


「私はあなたたちに何か恨まれるようなことをした覚えはありません。もし何か誤解があるなら、話し合いで解決しましょう」


 彼女の勇気ある言葉に男たちは一瞬、戸惑ったような表情を見せた。その時、背後から聞き慣れた低い声が響いた。


「おい、お前ら。フユーナに何か用か?」


 振り返るとそこに立っていたのは、ラフティだった。


「ひっ!」


 彼は彼女の帰りが遅いことを心配し、迎えに来てくれたのだ。


「な、何でもない!」


 ラフティの顔に気づいた男たちは慌ててその場から逃げ去った。


「ボス……ありがとうございます」


 フユーナは安堵と感謝の気持ちで、ラフティに深々と頭を下げた。


「お前はいつも一生懸命に仕事をしている。組織の人間である以上、お前を守るのも私の務めだ」


 ラフティの言葉は事務的だったが。その奥にはフユーナに対する信頼と温かい気持ちが、込められているように感じられた。

 この一件以来、ラフティは彼女の身辺警護を強化。杜撰ではないものにそこはいいのだと驚いた。


「そこまでせずとも」


「やると言ったらやる」


 彼女が安心して、仕事に取り組めるように配慮するようになった。組織の仲間たちも自身の身を案じ、何かと気遣ってくれるようになった。


「疲れたら言え。うちで経理は一人しか確保できてねぇんだ」


 彼女の明るさと誠実さは硬い殻に閉じこもっていた人々の心を、少しずつ溶かす。組織の中にこれまでにはなかった温かい人間関係を築き始めている。


(私が仲間として、把握され出してる?)


 彼女はただ好きなゲームのキャラクターたちに会いたいという、純粋な動機でこの世界に足を踏み入れた。


「フユーナ、何かあれば言えるな」


「は、はい」


 今日もまた、フユーナはバーネアの街で持ち前の明るさと優しさ、強い倫理観を胸に。


「お前は大切な経理だ。覚えておけ」


 それぞれの立場で生きる人々と関わり合いながら、自分らしく生きていく。


「ううー、ありがとうございますっ」


 彼女の周りにはいつも笑顔と、ほんの少しの騒動が溢れている。その中心には太陽のように明るい彼女の笑顔があるのだ。

 フユーナからすれば、彼らが生きているだけで毎日現実にログインして幸せ状態。

 バーネアの街の片隅で彼女の織りなす、温かくもちょっぴりスリリングな日々はこれからも続いていく。

推しに会いたいという方も⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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