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第6話 手がかり

アンジェロ殿下の部屋のソファーに深く座り、大きなため息をついた。先ほどの王との会見で私はショックを受け、かなり落ち込んでいた。


トントン


そこにノックの音がした。チェーザレ様の声が聞こえる。


「いるか、アンジェロ」


私はノロノロと立ち上がって扉を開けた。


「どうぞ」


チェーザレ様は私の様子を見て、何かを察したのか少し暗い顔になって、近くの椅子に座った。


「で、どうだった?」


「ダメでした」


私はどのように説明しようかと悩んだ。自分の正体を告白しようと思ったが、先ほどの王の反応を見ても、他人にはとても信じてもらえるとは思えない。それどころか、前に会った時のチェーザレ様の態度を考えると、私がティナだと言ったら、ふざけるなと激怒されそうだ。


とても言えない。


そこで、私は自分のことは伏せることにして、それ以外の経緯を話すことにした。彼はかなり冷静に私の話を聞いていたが、私がすぐに処刑されそうだ。しかも、絞首刑になりそうだと聞いて、きつく目を閉じ、そして、ため息をついた。


「そうか、もう時間がないんだな」


しばらくの間。私たちは黙ってしまった。無音の時間が過ぎていく。時間が経つたびに運命の時は近づいてくる。どうにかできないものだろうか。


私は彼の落ち込んでいる姿を見て、ちょっと疑問になったので何の気なしに質問してみた。


「どうして、わた……いやティナのことが好きになったの?」


彼はこっちを見て、不思議そうな顔をした後、こう言った。


「そんなの当たり前じゃないか。彼女はこの世界で最高の女性だからだ」


「…… 最高じゃないと思うけど」


もしかしたら、チェーザレ様は私ではない誰かのことを言っているのではなかろうか。


「いやいや、お前は女性のことを全然わかっていないな。ティナさんがどんなに素晴らしい女性なのか、俺が教えてやろう」


「結構です」


聞いて失敗したと思って慌てて止めたが、もう彼は止まらなかった。


「まあ、そういうな。俺の話を聞いてくれ。ああ、瞳を閉じればありありとその姿が思い出せる。あの流れるような美しい金髪、そして、真夏の空のような深く濃く、それでいて鮮やかな紺碧の瞳。聡明で思慮深い顔立ち。スラリとした体型はどんなドレスも似合っていて、センスが抜群で、それに仕草がとても可愛らしくて、思わず抱きしめてしまいたくなるくらいなんだ」


「そ、その辺でもういいから」


だんだんこっちが恥ずかしくなってきた。


「彼女はとても澄んだ声で話すんだ。彼女がしゃべるだけでその場がとても明るく華やいだ雰囲気になるんだ。その声を聞いただけで、俺はとても胸が締め付けられるような思いになる」


「そ、それほどでもないんじゃないかな。そ、そうだ、伯爵令嬢のロザリア・バロッチさんなんてどう。びっくりするくらい綺麗な人で、すごい人気があるみたいよ。服装のセンスも抜群だし、とっても大人っぽいし。それに比べたら私……いや、ティナはパッとしないんじゃないかなあ」


チェーザレ様は途端にムッとした顔をした。


「あんなのはゴミさ。ティナさんに比べたら、道端に生えている雑草にすぎない。たとえ目に入ったとしても次の瞬間にはもう存在を忘れているよ。そんなもんだ。そんなことよりティナさんだ。ティナさんは、綺麗なだけじゃないんだ。本当に心が純粋な人で、しかも、とてもきめ細やかな心遣いができて、話がとっても面白くて、そばで聞いているだけで心を奪われそうになる。どうしてそんなふうに魅力的な人なんだろう。まるで奇跡のような……」


もういいです。限界です。誰か助けて……


「そ、そうだ。直接彼女に会って、何か手掛かりが掴めないかな」


私は苦し紛れに話を逸らしてみたけど、良い考えのような気がしてきた。


「え、会えるのか」


チェーザレ様は驚いた顔で私を見た。


私はアンジェロ殿下がどこに捕えられているのか考えてみた。思い当たる場所が一つある。


「普通だったら会わせてくれないと思う。きっと許可は降りない。でも、彼女が捕えられている場所は分かれば…… きっと黒の塔」


黒の塔は王宮にある四つの塔のうちの一つ。平民の犯罪者ではなく、貴族などが入れられる場所で、反乱などの政治犯の監獄になっていた。そこに入れられると、処刑を待つだけという血塗られた歴史がある場所でもある。


「王宮内にあるから、もしかしたら、人の目のない深夜にこっそりいけるかもしれない。看守には良いお酒を持っていけば、少し大目にみてくれるかも。君は部外者だから入ってこれないと思うけど」


「そうか…… まあ、しょうがない」


「手掛かりがあるかもしれないから聞いてくる。たぶん何か分かると思う」


私は考えていた。


あまり人が来ない屋上、しかもあのタイミングで私を突き落とした人物。それは私がアンジェロ殿下に振られたことを知っている人間。つまり、アンジェロ殿下が言っていた真実の愛を誓った人なのではないかと。


私が落ち込んでいるところを狙って、屋上から突き落とせば、うまいこと婚約者を排除できる。そう思っていたのではないか。


「頼む。そうだ、彼女に伝えてくれないか。『君の無罪を信じている人がいる。だから、たとえ絶望の淵にいても諦めてはダメだ』と」


「うん、言っておくよ」


「それから、俺がそんなことを言ったということは、絶対にティナさんに言うんじゃないぞ」


「え、なんで」


「そんなの決まっているだろう。ティナさんに知られたら、恥ずかしいじゃないか」


顔を赤らめるチェーザレ様をみて、私は思った。


……どう返事すればいいんだろう

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