第5話 説得
ランベルト王の迫力に、押されつつも私は話を始めた。
「ティナはなぜ、死刑にならなくてはいけないのですか?」
「誰から聞いた?」
「……」
「まあ、いい。本当のことだからな。それよりもお前はなぜ、そんなことを聞く。お前は殺されそうになったのだぞ」
「彼女は本当にそんなことを言っていたのですか?」
「ティナは今……」
「あなた。もうやめましょう。あの子は、ティナはもう…… アンジェロがショックを受けてしまいます」
「教えてください。今、彼女は一体どうなっているんですか?」
すがるように私が問いかけると、ランベルト王とアンナ王妃は顔を見合わせた。そして、ランベルト王が意を決したかのように口を開いた。
「ティナはもうお前の知る彼女じゃない。自分のことを王太子アンジェロと言い張っているんだ。そして、ここから出してくれと叫び続けていたので、やむなく、大人しくなってもらうように対処した。今はもう静かなものだがな」
「それって……」
私はひどく胸が痛くなった。やっぱりアンジェロ殿下が私の体に入っているんだ。しかも想像よりひどい目にあっているみたい。
「ティナは無実です。彼女は自分から落ちて私に激突したのではなく、誰かに落とされたのです。だから、その突き落とした人物をまずは探し当てることが必要です。そして、今すぐ彼女を監獄から出してください。お願いです。今すぐ」
「それは一体誰から聞いたんだ。彼女は檻に入っていたし、お前はずっと部屋で休んでいたではないか」
ど、どうしよう。このままでは信じてもらえない。
でも、誰かが私を突き落としたことを証明できないとアンジェロ殿下は監獄から出してもらえないし、このままでは死刑になってしまう。私はとても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。婚約破棄されたことから始まっているとはいえ、無実の彼をこのまま死刑にするわけにはいかない。
私は迷った上、勇気を出して告白することにした。
「実は私はティナ・レオーニなのです。陛下。アンジェロ殿下と激突した時に、中身が入れ替わってしまったのです。シルバーノさんには言おう言おうと思っていたのですが、私が頭が打ったばかりなので、おかしなことを言っていると思われてしまって。でも、もう大丈夫です。頭ははっきりしています。私がティナ・レオーニです。すぐに、アンジェロ殿下を監獄から解放してください。もし、お疑いしているのなら、私を代わりに監獄に入れてください。ただ、私の代わりに私を突き落とした犯人を探していただければ」
しばらくの間。ランベルト王は驚いた顔をしていたが、急に笑い出した。
「ははは、傑作だ。お前がそんなにあの子を気に入っているとは思わなかった。はははは」
「アンジェロ……。優しい子。私もティナのことは気に入っていたのですが、でもどうしようもないのです」
「アンジェロ、いいか。もうお前だけの問題ではないのだ。王家に逆らう人間は厳しい刑罰を加えないと示しがつかないのだ。オスカル・レオーニ侯爵が娘のために血相を変えてやってきおったが、黙らせてやったわ。まったく、わしの力を侮りおって。それにアンジェロ、そうやって、元婚約者を庇い立てしてもお前のためにならないぞ」
ああ、元婚約者なんだ。と私は思った。でも、とにかく、まずは王太子殿下を助けないといけない。
「陛下。私はティナなんです。信じてください」
「いい加減にしろ、アンジェロ。いいか、ワシは知っているのだぞ。お前がティナに対して婚約破棄すると言っていたのを。彼女に対して罪の意識を感じているのもわかる。だが、もう終わったことだ。彼女は故意であろうがなかろうが、屋上から飛び降り、そして、国の宝である王太子を傷つけたのだ。無罪放免にしては周囲に対しての示しがつかん。あきらめるんだ」
「ですが陛下……」
「すでに婚約自体はもう無効だ。彼女はもはやお前の婚約者ではない。赤の他人だ。刑は速やかに執行する。見せしめのために斬首ではなく絞首刑とする。少しでも苦しんでいる姿を皆に見せるためにな」
「違うんです。私がティナです。本当です。信じてください」
すると王妃が立ち上がって私を抱きしめた。
「アンジェロ。なんていう優しい子。もう諦めるのです。これ以上しゃべってはダメ」
最後にランベルト王は冷たく私に言い放った。
「そのような妄言をこれ以上するなよ。さもないと、お前を王太子の座から下ろし、代わりに第二王子のサルマンを王太子にする。分かったな」
それでも、頑張って言い張ろうとした私は、強引に部屋へと連れ去られてしまった。