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第4話 チェーザレの本心

一瞬、間が空いてから、私は正気に帰った。


えええー、私のことが好きだったって本当? 


でも、そんなふうにはぜんっぜん見えなかったけど。


「ほ、本当なの?」


「さっきからなんだ。女みたいな喋り方しやがって。まあいい。ティナさんを好きなのは嘘じゃない。いまさら嘘を言ってもしょうがないからな」


ちょっと喋り方は注意しないと…… それはともかく。


「あ、でも、彼女にはいつも冷たい態度をとっていたと思っていたけど」


「そりゃあ、もちろん、お前の婚約者だったからな。でも苦しかった。俺は王太子のお前を本当は恨んでいたんだ。俺が公爵家でしかも養子の身分じゃなきゃ、こんな苦しみにあわなかったかもしれないのに」


養子? そうだ。確かにそんな話を聞いたことがある。男児に恵まれていなかった公爵家に、ソルダーノ男爵家から養子になったという話だったはず。


「ふん、俺の父はお前と一緒なのに、俺の母が愛人だからって、こんな境遇になるなんてな。だが、俺はお前が良い奴だから、そんなことは気にせず今まで仲良くやってきた。母は違うが兄弟だから。でも、今度ばかりは別だ。お前は彼女を傷つけた。そして、そのせいで彼女は危機に陥っている。お前にも協力する義務がある」


情報多すぎ!!


だんだん頭がこんがらがってきた。え、なに。チェーザレ様って王の隠し子だったの? 確かにそうでもなければ、簡単に公爵家の養子になんてなれないはずだけど。え、じゃあ、アンジェロ殿下とは兄弟ってこと…… え、え、え


「いつまでも、ぼーっとしてないでくれよ。頼むから。彼女をどうにかして助けなくてはいけないんだ」


慌てて私は殿下のふりをして、こう言った。


「そ、それはともかく、今、彼女はどうなっているんだ?」


私はとにかくいったん冷静になることにした。何しろ、部屋から出られず、そして、誰もちゃんと話をしてくれないので、情報の共有は必要だ。とにかく、アンジェロ殿下をなんとか助け出さないと。話は全てそこからだ。


「今だに監獄に閉じ込められている。怪我の様子は問題ないようだ。ただ、彼女は監獄に閉じ込められた時に、錯乱状態だったらしいので、結構騒ぎになっていたみたいだけど」


「そ、そう」


やっぱり、私の中身はアンジェロ殿下の可能性があるかもしれない。


「それで、つい先日、彼女は死刑の宣告を受けた」


え、え、えー


「いくらなんでも早すぎるんじゃない。そんな短期間で、まともに裁判をしているとも思えないし」


「そうなんだ。いくらなんでも早すぎる。裁判もしていない。王直々の命令のようだ」


「王の…… 命令ですか」


「だから、王に直接かけあわないとどうにもならないんだ。息子のお前ならなんとかできるかもしれない。しかも、お前が被害者ということになっているのだからな」


「うん、分かった。頑張ってみるよ。シルバーノさんにまずは頼んでみる」


「本当か、ありがとう」


再び、チェーザレ様は私の手を握ってきた。


「ちょ、ちょ、ちょ」


「俺は…… こんな時に無力だ。何もできない。お前に頼むことしか……」


チェーザレ様は肩を落としていた。あまり感情を出さない人だと思っていたけど、実は結構優しい人だったんだなと私は思った。



シルバーノさんに掛け合ってみると、案外簡単にランベルト王との面会が可能になった。


ランベルト王はとても気難しい王であることで知られていた。私はアンジェロ殿下の婚約者であったが、それほど多く話をしたことはない。でも、王妃のアンナ・ミネッティは慈悲深いところがあって、あれこれと私には優しく接してくれたから、もしかしたら、力添えをしてもらえるかもしれない。


自信は全くなかった。でも、このままでは私のせいで、アンジェロ殿下が処刑されてしまうかもしれない。


私は王がいる部屋の前で、深呼吸した後。扉を叩いた。



王の部屋にはすでに、ランベルト王とアンナ王妃が並んで座っていた。


私は殿下にできるだけ振る舞いを似せつつ、二人に礼をした。


「大丈夫なのかアンジェロ。もう調子はいいのか」


王は厳かな調子で話しかけてきた。


「アンジェロ…… 良かった。本当に良かった」


すでに王妃は感激して、涙を流しそうな顔をしている。


「私はもう大丈夫です。父上、母上」


「そうか」


「つきましては、今後、外出並びに王立学校への登校を許可していただきたいのですが?」


やはり、部屋から出れないのは制限がありすぎる。何をするのにも不自由だし、アンジェロ殿下だけでなく、自分の両親のことも気になっていた。


ランベルト王は思惑ありげに目を閉じ、長い顎髭をしごいていたが、やがて目を開いた。


「もういいのか、頭の方は? だいぶ混乱していたと聞いていたが。いったん外に出たら、全ての発言は王太子としての責任が伴うのだぞ」


ランベルト王は私を試すような目で見つめている。


「アンジェロはもう大丈夫よね。あなたも信じてあげてくださいな」


「そうか。だが、誰かお前のお目付け役をつけねばならんな。誰にしようか」


「チェーザレはどうでしょう?」


私はとっさの判断で彼の名前を出した。彼と一緒なら、殿下を助ける際にも邪魔はされないだろうから。


「チェーザレは今、忙しいのではないか。ラザロ公は相当体が弱っていると聞いたが……」


ランベルト王は少し難しい顔をしていた。そこに、アンナ王妃が口を挟んできた。


「彼ならば私は大賛成です。それにアンジェロも今はそれほど頻回に外出はできないでしょうし。頼んでみませんか?」


「まあ、あやつならば安心だ。分かった。では、もうお前は部屋に帰ってもよろしい」


このままでは、話が終わってしまう。私は思い切って話を切り出した。


「ティナ・レオーニのことでも、父上にお願いしたいことがあるのですが」


「何っ」


ランベルト王は突然身を乗り出して、私のことをにらみつけた。


ここで、負けるわけにはいかない。私はそう気合を入れて、ランベルト王の顔を正面からしっかりと見据えた。

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