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第18話 公爵と侯爵令嬢が毎日俺に恋愛相談をしに来るので辛い(王太子視点)

◇◇◇  アンジェロ王太子の視点になります ◇◇◇


ロザリアの処刑は終わった。


とても見苦しくて見てられなかったけど、まあ、一区切りついた。彼女が悪かったのは間違いないが、やはり、俺が簡単に浮気してしまったことも問題があるので、そのことはいつまでも俺の胸に刻んでおくつもりだ。今後、誤りを犯さないようにと。


ティナはロザリアが処刑されることには反対していたが、こればかりはどうしようもない。チェーザレのやつは、あんな女どうでもいいと言って、処刑が決まったらすぐに興味を失っていた。


衰弱していたティナはしばらく公爵の別荘で養生していたようだが、もうすっかり回復して、今は自分の家に戻っている。両親とは感動の再会だったようだ。


そして、平凡な毎日が戻り、一件落着になったと思ったのだが……



コンコン


「アンジェロ。入っていいか?」


俺が返事をする前に、チェーザレのやつが入ってきた。


「なんだ、勝手に入ってきやがって」


チェーザレは何も答えずに目の前のソファーに座り、ため息をついた。


「どうした?」


「いや、別に何も」


そう言ってはいたが、いかにも聞いて欲しそうにしている。非常に面倒くさい。こんなことが毎日なので正直、見当はついているのだが、できればあまりその話題には触れたくなかったので、違う話題に振ってみた。


「公爵になったばかりだけど、仕事の方は大丈夫か?」


彼は少し俺の方に目を向ける。


「仕事の方は問題ない。元々父の代理でやっていたからな。ますます、領地の方の景気はいいようだ」


そう言ってため息をついた。彼はこの間から、正式に公爵になっている。養父のラザロ・ネスタは彼の仕事ぶりに満足したのか、彼に爵位を譲って引退している。


それはともかく何かを聞いて欲しくてたまらなそうな感じなので、しょうがなく本題に入った。


「ティナとはうまくやっているかい?」


その途端、彼の顔の表情は一変した。


「もちろんさ。この間は俺の別荘に泊まりがけで行ったんだ。すごく喜んでいた。朝は二人で乗馬して、昼は近くの湖でボートに乗ったり、魚釣りをしたり、夜はちょっとしたパーティなんかをして、一緒に踊ったりと色々楽しんでもらった。あそこはとても空気が綺麗で、湖から魚が取れたり山の幸なんかにも恵まれて、そうそう、良いコックを見つけたので、早速色々と作ってもらったんだけど、それがなかなか絶品で、彼女もすごく喜んで……」


ものすごい勢いで言葉を並べ立てるので、うんざりして俺はこう言った。


「じゃあ、なんで、そんなにため息ばかりついているんだ」


途端に彼は暗い顔になった。


「なあ、アンジェロ。俺って嫉妬深いのかな……」


「はあ」


「ティナさんが王立学校で、他の男とちょっと話をしただけで、ムカムカするんだ。それでつい、必要もないのに話に割り込んでしまったり、彼女を別のところに連れて行こうとしたりしてしまうんだ。どうしても彼女を独り占めしたい。この世界で彼女を独占できるのは自分一人だけになりたいんだ」


「ティナの反応は?」


「ちょっと困っている顔をしていた。なあ、アンジェロ。俺、このままだと嫌われないかな。嫉妬深い男って、懐が狭いというか格好悪いというか…… でもどうしようもないんだ。ティナさんを愛してしまっているから。どうしても気持ちが止まらないんだ。こんなに俺が独占欲が高かったなんて、自分でも信じられないけど」


「うーん、まあ、あまりやりすぎるのは…… でも、そうなったら、ずっと監視しなくてはいけなくなるし、結婚しても仕事にならないんじゃないか?」


「うん、それは大丈夫、今、公爵邸は若い男を排除しているから」


「いや、お前、前には若い女性も排除していたから、使用人が老人ばかりになっちまうだろ」


「まあ、それはなんとかする。そうだ。今度、ティナさんの誕生日なんだけど、お前、昔に何か送っていたか?」


そう言われてみると、あまり記憶がなかった。


「うーん。全部任せていたな。他のやつに」


「ひどいやつだな、お前。それでも婚約者だったのか?」


「まあ、だから、こうなっているんだろう」


「お前に負けるのは癪だと思っていたが、俺の圧勝だな。ふふん。俺はだな、彼女にドレスを送ろうと思っているんだ」


「おお、いいんじゃない」


そんな圧勝ってほどかな。


「それで、王都の三大デザイナーにそれぞれ一着づつオーダーメイドで作ってもらって、気に入ったのを選んでもらおうと思ったんだが……」


「もしかして、ベルトラン、スキナー、ルーベックか? とんでもない値段になりそうだな」


「領地経営がうまく行っているので、なんの問題もない。結局、作ってもらったものが、みんな良い出来だったので、全部あげることにしたんだが、問題なのは、それに合う靴とかアクセサリーとかなんだ」


まだ、やるつもりなのか


「そこで、それぞれ王都の名店に頼んで、全部持ってきてもらうことにした。その中でベストな組み合わせを選んでもらうんだ。女性はそれぞれ好みもあるもんな。俺に勝手に選ばれても困るだろうし」


「そんなにやったら、ティナ、逆に困るんじゃないか?」


「そ、そうか、やりすぎかな。彼女は奥ゆかしいもんな」


「大切なのは心だよ。心」


「そうか、でも、その心が問題なんだよ。俺がティナさんをどんなに愛しているか、それをどうやって表現したらいいか悩んでいるんだ。どんな言葉を伝えても、どんなに彼女をもてなしてあげても、それでも俺の心はおさまらない。それが俺にはとても辛いし、もどかしいんだ」


聞いている俺の方が辛いよ。


「分かった、分かった。まあ、大丈夫、大丈夫さ。彼女には十分伝わっているんじゃないか」


「そうか、そうならいいんだけど……」


彼はまた辛そうな顔で俺の部屋を去っていった。



コンコン


「アンジェロ殿下、私です。ティナです」


今度は彼女がやってきた。だいたい何を相談したいかは分かっているが、正直もう聞きたくない心境ではあった。


彼女は体を入れ替えたことがあってから、皮肉なことに婚約していた頃よりずっと仲が良くなった。なんでも話し合えることで、色々と相談されることもあったのだが、彼女がチェーザレと付き合うようになってから、頻度が増えてきている。


彼女が部屋に入ってきた。金髪の長い髪は今日は後ろにまとめられ、銀の髪飾りが揺れていた。大きな紺碧の瞳は今日着ているドレスの色ともとてもよく似合っていて、非常に魅力的だ。


そう、彼女はチェーザレと付き合うようになってから、ますます魅力的になっていた。そのことが俺の胸を少し苦しくした。


「今日はなんのようだい?」


少しそっけなく言った。


「チェーザレ様に嫌われないかと思って、心配しているんです」


彼女は控えめな調子でそう答えた。


「どうしてだい。彼は相当君に入れあげているようだけど」


「すごくよくしてもらっています。毎日やってきては色々とプレゼントを持ってきたりして、あまり無理しないでくださいって言っても止めてくれなくて」


「まあ、迷惑だろうな」


「迷惑なんじゃないんです。本当は嬉しいんです。嬉しいんですけど、そんなにやってもらうと心苦しくて、いつもそうなんです。私が訪問すると、私の身の回りのことなんでもチェーザレ様がやろうとして、もう公爵様なので、そんなことしないでくださいって言っても、なかなかうまくいかなくて」


「そんなこと言わないで、黙ってやらせればいいんじゃないか。きっと君が大好きだからだよ。どんと構えて受け入れてあげればいいんじゃないか。それを彼も望んでいるだろう」


「私の気持ちがおさまらないんです。やってもらうばかりじゃ嫌なんです。本当は彼のために色々とやってあげたい。私でも彼に貢献できることを見せたい。そうじゃないと、捨てられてしまいそうで怖いんです」


それを聞いて、俺は心が痛んだ。そうか、俺のせいかもしれないな。あの時、あんな酷いことを言ったから、きっと、心に傷がついてしまったんだ。


「何か得意なことはないかい?」


「えっと、そうだ。料理なら。料理なら得意です」


「じゃあ、それを披露したらいいよ。きっと喜ぶよ。世界一美味しいっていうに違いない」


「そうか、そうだね。美味しいって言われたら、すごい嬉しいだろうなあ」


そんなことを言う彼女は、少し頬を染めていて、夢見るような表情をしていた。そして、それがとても愛くるしくて俺はとても切なくなった。そんな顔を俺は一度も見たことがなかったから。


「そうだ。それから、俺の方から、それとなく言ってみるよ。互いを思っていることは間違いないんだから、あとはうまく調整すればいいことさ。ゆっくりやろうよ。大丈夫、あいつはそんな男じゃないから」


俺がそういうと、彼女は少し安心したような顔をして、俺にお礼を言って部屋を出て行った。



俺は部屋で一人考えていた。


ティナはとても魅力的になっていた。それも俺の力ではなく、チェーザレの力によって。


彼女はあんなにも魅力的だった。そして、あんなにもそばにいたのに、それに気が付かなかった自分がとても愚かで悔しい。もう取り返しはつかないのに、今でもすごく後悔している。


もしかしたら、俺がもう少し大人だったら、そして、もう少しティナの方を見ていたら、違った未来があったかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうになってしまう。


俺は立ち上がると窓を開けた。満月が美しく、空はとても明るかった。今日の月はあんなにも近くに見えるのに、それでも俺の手には届かないのだ。ただ美しい月を眺めているだけしか、俺には許されていないのだ。


「これが、俺の罰なんだな。生涯負わなくてはならない」


そう呟くと俺は窓を閉めた。

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