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第17話 ロザリアの破滅(ロザリア視点)

◇◇◇  ロザリア伯爵令嬢の視点になります ◇◇◇


「うぎゃー」


私は監獄の中に入れられていた。


そもそも、あのバカのタヴァーノがペラペラと喋るからこうなったのだ。あいつがヘマをしなければこんなことにはならなかった。あいつは忠実な犬だったくせに、最後に飼い主の手をかみやがって。こんなことなら別のやつを使えばよかった。


あのチェーザレのくそ野郎に追及されたからって、簡単に私のことまでペラペラ喋らなければこんなことにはならなかった。本当に信用ならないやつだ。なんの罪もない私を巻き込みやがって。


あいつの証言だけなら、なんとかなったかもしれない。証拠がなかったから。でも、監獄でティナに言った話を、なぜか、アンジェロ殿下が立ち聞きしていた。


結局それが決め手となって、私の処刑が決まった。タヴァーノの方は私に弱みを握られて強要されたってことにされて、強制労働の刑になった。なんで、私の方が罪が重いのよ。だって、実際に突き落としたのはあいつなのに。私は何も悪いことをしていないのに。


ああ、こんなことならティナが落ちて死んでいればよかった。どうせなら、アンジェロ殿下も一緒に死ねばよかった。


だいたい、なんで、あのチェーザレが颯爽とあらわれて、あのクソ女のティナを助けにくるのよ。なんの繋がりもなかったくせに。しかも、やたらティナに対してデレデレして、あいつ本当に氷の貴公子なの。


本当にどいつもこいつも使えない奴ばかり。


もう頼りになるのは実家だけ。なんとか、死刑を覆して私を助けてくれないかしら。きっと大丈夫。お父様はやってくれるわ。ランベルト王にもたっぷり賄賂を渡していたし、絶対に大丈夫。私が死刑になるはずがないわ。


その時、足音が聞こえてきた。看守のようだった。


来たっ


足音は扉の前で止まり、看守が窓越しに顔を出した。ヒゲ面の汚らしい顔だったが、まあ、この際しょうがない。さあ、私を出して。ここから。早く自由にして。


看守は私をにらんでいたが、やがて、こういった。


「明日、死刑になるから、誰かに手紙でも書いておきたいんだったら、筆記具を渡す。だが、変な気を起こすなよ。絶対にここからは出られねえんだからな」


「え、うそ、私を出してくれるんじゃないの。私は自由なんじゃないの」


「バカなこと言うんじゃねえ。ティナ様が危うく死ぬところだったってのに、何、ほざいているんだ。何も用がねえなら、もう行くわ」


「ちょっと待って、私を置いていかないで。そうだ。私を助けてくれたら、伯爵家から大金をあげるから、本当よ。あなたが一生働いても手に入らないくらいの」


「何ばか言ってんだ。おめえ。伯爵家はもうお取り潰しだって噂だ。俺が知ってんだからもう相当噂になってるぞ。おお、そうか、ここからならわからないだろうからな。だがな、どんなに大金積んだって、おめえなんか出しゃしねえぞ。この悪女め。ティナ様が味わった苦痛を少しでも味わえばいいんだ」


え、実家はもうダメなの。助けに来てくれないの……


そう思っているうちに、さっさと看守が立ち去ってしまった。


ああ、もうダメなのかしら。実家もダメならもう終わりじゃない。


「いやよ。ここから出して。死刑なんて嫌。私は伯爵令嬢なのよ。誰もが憧れの目で見ていた。私以上の女なんていない。美しさ、気品、人間としての格、全て私以上の人はいない。それなのに、こんなところで死ぬのは嫌。どうして、私を誰も助けに来てくれないの。ティナはチェーザレが助けに来たってのに、あの女より上の私にはどうして誰も助けに来てくれないの」


すると、また、何者かの足音が聞こえてきた。


「誰?」


「ああ、俺だ」


「あ、あなたは」


鉄格子のはめ込まれた窓から顔を出したのは、アンジェロ殿下だった。


「ああ、アンジェロ、私を助けにきたのね。愛しているわアンジェロ」


「いい気味だな、ロザリア・バロッチ。お前には監獄がよく似合う」


彼は冷酷な目で私を見ている。


「そんなこと言わないで助けて、私はあなたの愛したロザリアよ。いつもいつも綺麗だって言ってくれていたじゃない」


「悪あがきも甚だしいな。不快だ。それにその姿はとても醜いな。まあ、それがお前の本性なんだろうけど。人は窮地に陥ると人間性が出るって本当なんだな。お前の言った通りだ。とっても勉強させてもらった」


「何言ってるのよ。アンジェロ」


「ピーピーうるさいな。少しは黙ってろ。耳がいたい」


その時、私に一つの疑問が湧き起こった。


「そういえばなぜ、私がティナに言ったことを全部聞いていたの。偶然にしては出来過ぎじゃない。そうか…… 嘘ね。嘘を言っていたのね。ティナと口裏を合わせて。最低よあなたは。本当に最低の男だわ」


アンジェロ殿下はニヤリと笑った。


「そうか、確かに彼女と話をしていたことは確かだが、俺がお前の話を直接聞いたのも間違いない。それは嘘ではない」


「いったい、何を言ってるの、あなた」


「なんだか全然わかっていないようだから、最後だし教えてやろうか。そうだな、あの時いたのは俺だったんだ。お前がティナだと罵倒していたのは俺だったんだ」


「え、うそ、でもティナだったわ。確かに」


「まあ、信じてくれてもくれなくても、もうどうでもいいことだけどな。あの時、俺は自分のことをアンジェロだと、何度も言っていた。でも信じてくれなかったのはお前の方だ。ロザリア」


「え、どうして、どうしてそれを」


「転落事故の時に、ティナと頭が激突した。そして、その時に中身が入れ替わったんだ。俺の心はティナの中に、そして、ティナの心は俺の中にな。そして、最後に助けられた時に再び頭をぶつけて二人は元に戻ったんだ」


その時、私は色々と思い出した。確かに監獄にいるティナは様子がおかしかったし、アンジェロ殿下も話し方がおかしかった。でも、そんなことが起きうるだろうか。


「俺は色々とお前に訴えかけたが、全く聞いてくれなかった。ティナだったら言わないようなことまで言っていたはずだが。それでもお前はティナだと決めつけて、俺を嘲笑っていた。だから、俺は最後にお前に会いに来てやったんだ。話し相手くらいにはなってやらないとな、明日死ぬんだから」


「いやよ。助けて。愛しているわ。本当に。私のことを信じて。あの時言っていたことは本当のことじゃない。ちょっと、言いすぎただけよ」


「そうだ。俺のことをバカだと言っていたな。そうそう、バカで子供っぽくて見栄っ張りって。王になったら危なっかしいから、うまく操縦してあげなくっちゃなって。俺を操って権力まで握ろうとしていたんだな。このクソ女が」


「嘘よ。信じてください。お願いします。なんでもしますから、あなたの喜ぶことならなんでも」


「まあ、負け犬なんだから、檻の中で大人しくしていろよ。明日には殺処分されるけど」


「チクショー。出せ、出せったら」


「なんだ。本当に下品な人間だな。伯爵令嬢とは思えない態度だ。まあ、結局全てお前が悪いんじゃないか。伯爵令嬢でありながら、さらに権力を握ろうとしたり、自分よりも優れた人間を貶めようとしたり、どれだけ欲が深いんだ。見かけだけ綺麗でも中身は最低だ。俺の知る限り最も人間としての価値が低い。たまたま伯爵家に生まれただけの人間でしかない」


そして、彼は去り際にはっきりとこういった。


「ざまあみろ」

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