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第13話 救出計画

その日は雨だった。


私は一人部屋で休んでいる。


あの衝撃的な出来事から一週間経った。とにかく色々ありすぎて大変だった。屋上から突き落とされ、王太子殿下と入れ替わったこと、チェーザレ様のこと、ロザリアの正体、監獄にいる王太子殿下の哀れな姿。そして、実家は窮地に陥り、アンジェロ殿下はいつ処刑されるかわからない。


頭の中がごちゃごちゃしてなかなか整理がつかない。


希望の火は消えかかっているけれど、諦めるわけにはいかない。アンジェロ殿下の命を救い実家の窮地も救う。そのために、私の無罪を証明しなければならない。


チェーザレ様はかなり動いてくれているみたいだ。そのことには本当に感謝している。そして、それに甘えてばかりいる自分がとても情けないし、とても歯痒かった。


チェーザレ様は元々の印象とかなり違って、とても優しい人だった。それに、実行力もあるし、何より頼もしい。私のことを過大評価しているところは気になったけど。


とにかく、まずは王太子殿下を救わないといけない。その後、もしかしたら、なんらかの方法で互いの体に戻れるかもしれない。そうなったら…… まるで夢のような話だけれど、きっと私は幸せになれる気がした。


そこまで考えたとき、ノックの音がした。


チェーザレ様かな


そう思って返事をすると、別の人物の声が聞こえた。シルバーノさんだった。


「殿下、入ってもよろしいですか」


彼の声は低く落ち込んでいて、私はとても悪い予感がした。



「処刑の期日が決まりました」


彼の顔は真剣でとても嘘を言っているようには見えなかった。


「いつですか?」


「明後日、正午に行われるみたいです」


「そうですか……」


まだ、無罪になるための証拠は揃っていない。明後日では早すぎる。


「なんとか、時期を伸ばすことはできないのですか?」


「無理ですね」


「父上に会うことは」


「お父上は領地の視察のため、しばらく外出中です。もちろん、処刑には間に合うように帰ってきますが…… もし帰ってきてもお会いにはなりますまい。前回のことがありますからな」


シルバーノさんは前回の謁見の時の様子を聞いているようだった。


これではたとえ無罪の証拠を手に入れたとしても、王の意向を変えることまではできないのではないか。


私は絶望に打ちひしがれて、うなだれるように椅子に座り込んだ。


「もう、私は何も申しますまい。殿下は反省してらっしゃるみたいですし。私は前にも言った通り、明日、ここを辞職します」


「シルバーノさん……」


「長い間、お世話になりました。殿下に最後一つだけ言っておきたいことがあります」


「なんでしょう」


「私たちが歴史を学ぶのは、過去を都合よく解釈するためにではなく、過去から学んで、今後に生かすためです。殿下も今回のことからよく学び、これからの人生にしっかりいかしてください。そして、彼女の犠牲が無駄にならぬよう、立派な王になってください」


「分かりました」


シルバーノさんは深々と頭を下げた後に部屋から出て行った。彼の目にはもう涙は浮かんでいなかった。



ノックの音が聞こえ、いつものようにチェーザレ様が帰ってきた。私はシルバーノさんからの話をした。


チェーザレ様は黙って難しい顔をして聞いていたが、やがて、こう切り出した。


「色々と思い当たるところにはあたってみたけれど、証拠は掴めなかった。もう最後の手段を取るしかない」


彼はすでに覚悟を決めたような顔をしていた。


「どうするの?」


「ティナさんを強引にでも助け出すのさ」


「どうやって?」


「今のままでは難しい。警備も厳重だし王宮の中で俺たちがいくら暴れてもどうにもならないからな。前々から考えていたんだが、当日、あの処刑場で彼女を攫う」


「でも、警備は厳重じゃないの?」


「ふふん。今回の処刑は見せしめのために行う。特等席には王族や貴族が座っていて、さらに、周囲には群衆が残酷なショーを目当てにひしめいている。王族や貴族が多くきているから彼らの安全が優先される、だから、警備は比較的手薄になるんだ。王の親衛隊もいるだろうが、やはり王の警備が最優先だ」


「で、どうするの?」


「火事騒ぎを起こすんだ。煙をたいてな。それくらいは協力してもらう人はいる。そして、群衆を煽ってパニックを起こし、その隙にティナさんをかっさらうんだ」


「う、うまくいくかな」


「うまくいくかなじゃない。うまくいかせるんだ」


「そうか」


彼の言うことは、なんだか説得力があった。


「俺は次期公爵の座を捨てる」


「え、じゃあ、どうするの。これからの公爵領を」


「公爵領の統治なら誰だってできるさ。でもティナさんを救えるのは俺しかいない。他に頼れる人もいないしな。俺は全世界だって敵に回してみせる。俺にはティナさん一人いればいいのだから。幸い隣国に知り合いもいる。そこに逃げ込めばなんとかなるさ」


「私…… いや僕もやるよ」


私がそういうとチェーザレは目を見開いた。そして、いきなり私に抱きついてきた。


ちょっと待って、ちょっと待って。こ、心の準備が……


「ああ、ありがとう。恩に切るよ。本当にありがとう」


私の頭はグラグラ揺れて限界を突破した。胸の鼓動が激しく鳴り響き、息ができない。もうダメかもしれない……私。


「救出計画については詳しいことは明日伝える。また来るから。そうだ、このことをティナさんにも伝えておいてくれよ」


呆然としている私を残して、彼はすごい笑顔で立ち去っていった。

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