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第1話 婚約破棄された私は屋上から転落しました

あまり人には知られていないけれど、王立学校には屋上がある。


そこの眺めはとてもよくて、私はこっそりと屋上に来ては、その景色を独り占めにしていた。


王都をぐるりと囲む山々の連なり、王の居城を中心に密集した建物がたち並ぶ王都の広がり、さらに視点を移動すると豊かな畑や、なだらかな丘まで見ることができる。


その全てをたった一人で独占することができるなんて、なんて贅沢なんだろう。


いつもはその景色を見ると、いろいろな物語を夢想してワクワクしていたのに、今は悲しくて全てが真っ暗闇に包まれているような気分になっていた。


私はティナ・レオーニ。


レオーニ家の長女、侯爵家の一人娘。レオーニ家は代々王家の右腕として力を持ち、西の方に手広く勢力を誇っている。王太子アンジェロ殿下との婚約が成立して以来、侯爵家はさらに勢いを増し、父のオスカル・レオーニは貴族内での存在感をさらに高めていた。


でも私はそんな政治状況なんてあまり頓着せずに、王立学校に通い、王妃教育を受けつつ、来るべき日に備えて日々を送っていた。


でも、私には気がかりなことが一つあった。


それは王太子アンジェロ殿下との仲だった。


元々それほど親しい間柄ではなかったけれど、婚約が決まってからはしばしばパーティに一緒に出かけたり、共通の友人と遊んだり、話をしたりするようになっていた。


彼の態度が変化したのは一年くらい前からだった。私に対してとても冷たくなったのだ。


結婚は互いの親が決めたこととはいえ、さすがにもっと仲良くしておかなきゃと思い、色々とアンジェロ殿下に話かけてみたけど、話を聞いてくれるどころか、相手にもしてくれない。それで、私はいつも悲しい気持ちをしていた。


私に魅力がないからなのだろうか。


元々社交の場は苦手だったけど、頑張って明るく振る舞ったり、友人たちと楽しげに話をすることができるようになっていた。その点はなんとか克服したつもりだった。本当は気疲れで結構しんどくなるので、家でゆっくりして、本を読んだり、楽器を弾いたり、料理を作っていたりしている方が好きだったけど。


もしかしたら、王太子殿下からはつまらない女だと思われていたのかもしれない。


『許婚なんてそんなものだよ。結婚してしまえば、あとは時間が解決するさ』


少し不安はあったけど、そんな風に親に諭されて、そういうものなのかなあと思いながら、忙しく日々を過ごしていた。なにしろ王妃教育は大変で、最近は授業のない時間のほとんどをそれに費やしていたから。


考える暇なんてないくらい忙しい毎日だったから、逆に精神的には楽だったけど、それが、問題を先延ばしにしているだけということをはっきりと思い知らされる時が来た。



「俺はお前との婚約を破棄するつもりだ」


人気のない、校舎の裏。呼び出された私の前には王太子殿下が腕組みをして立っていた。


王太子アンジェロ・ミネッティ。肩まである金髪、碧眼を持つ青年。いつも優雅な雰囲気の彼が、今は厳しい顔つきで私を睨みつけていた。


「いったい、どういうことですか?」


「それはお前の胸に聞いてみろ」


「わ、私の何が悪かったんですか?」


「全てだ。お前の全てが俺は大嫌いだったんだ」


私はショックを受けてうなだれた。やっぱり私嫌われていたんだ。きっと私が王太子殿下を喜ばせるようなことができなかったせいだ


「そんなにしおらしいふりをしても無駄だぞ。全て演技なんだろう。俺は全部わかっているんだ。あの人に聞いたから」


え、演技?


私はふいに顔を上げ王太子に問いかけてみた。


「あの人って誰? 私が何を演技していたっていうの?」


「名前は言えない。そのうち分かるさ。だが、その時にはお前らは終わりだ」


私は状況が把握できず、困惑した。


「俺はある可哀想な人に巡りあった。その人は一人で辛い思いを抱えていたんだ。俺はあの人のことを見た瞬間すぐに理解し合えた」


黙っている私の前で王太子は饒舌に語り始めた。


「あの人は苦しんでいたんだ。お前は侯爵家の威光を傘にきてあの人を散々いじめていたんだってな。侯爵家は俺との婚約を成立させていたんで、調子に乗っていた。あの人は言っていたよ。自分が我慢しないと実家が酷い目に遭うってな」


え、え、えー。


そんなこと、してない。してない。親の威光なんて傘に来たことなんて全然ないのに。


「それは嘘です。そんなことは一度もしていません」


「うるさい。黙れ。俺の話を最後まで聞け。ハハハ、王妃になれると思って調子に乗っていたなティナ。だがそうはいかん。俺はその人と結婚する。そして、侯爵家の奴らにギャフンと言わせてやるんだ」


「その人と結婚するんですか?」


「あたりまえだ。俺は真実の愛に目覚めたんだ。あの人は俺を愛していると言ってくれた。お前はなんだ。一言もそんなことを言ってくれたことがないじゃないか。お前がやっていることは全て嘘っぱちだ」


いや、それ…… 会話すら何もないのに、愛しているとかなんとかはその先にあることであって……


「え、そんな……それは……」


「とにかくお前は目障りだ。俺の前からいなくなってくれ」


そう言って王太子は私を置いて、どこかに消えていった。



私はしばらくの間。頭が混乱していたので、結局、この屋上に上がりゆっくりと考えていた。


全部自分が悪いんだろうか…… いや、だって、向こうから何か努力しているようなことは全然なかったし。でも、親が決めたからって人任せにして、王太子殿下にちゃんと愛されるよう努力しなかった私が悪かったのかな。忙しさを理由にして、逃げなきゃよかったのかな。


その時、下でアンジェロ殿下の話し声が聞こえた。私は柵から身を乗り出した。王太子殿下は同じ学校の生徒でもある取り巻きの従者と一緒に笑い合いながら歩いていた。


あ、アンジェロ殿下だ


その時、後ろから何か物音が聞こえた。


え、誰?


そう思って振り向こうとした瞬間、私は背後から突き落とされ、真っ逆さまに落ちていった。


天地が逆になって流れていく。落ちていく私の目に王太子殿下の姿がみるみる急接近する。


あ、危ない。逃げて!!


そう思った瞬間。激しい衝撃と共に私の意識は飛んで行った。

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