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1.化け物が化け物を拾った理由


 川から顔だけをひょこっと出し、真夏の空を見上げているのは12歳の少女。まだ短い赤髪が水面に揺れている。


「ミア」


あぁ、明日も暑いんだろうなぁ……。


「ミア!」


いっそ川底に引きこもりた…、


「ヴォトゥミア!」


「うえっ!?」



「うえっ!? じゃありません」


 大きな声に慌てて体を起こすと、白銀の髪を高く括った男性がこちらを見下ろして居ることに気がついた。

……彼はいつも目を閉じているため、何故見えているのかは………魔法だろうか?



「センセイ! 塾の試験、採点終わったの?」


 声の主が彼だと分かると、嬉しくてたまらない。だって、わざわざここまで呼びに来てくれたのだから。


「自作魔法レポートの提出、終わってないのは君だけなんですがねぇ? ミア」


「え、ほんと? えへへ……うわっ!?」


 センセイが手で招くような仕草をすると、たちまちヴォトゥミアの体が宙に浮き上がった。


「休みだからと浮かれない! 提出期限は守りなさい。

ね???」


「は、はい! ごめんなさい…アルフ」


「今はセンセイと呼びなさい。このあとすぐに提出できますね?」


「もちろん!…です」


 ヴォトゥミアの返答に満足したのか、センセイはすぐ草むらに優しく下ろしてくれた。






 ヴォトゥミアは、生徒の中でも特別であった。彼女は魔法塾のセンセイ……アルファードの唯一の弟子である。


魔法使いにとって弟子とは家族のようなもの。ヴォトゥミアの化け物じみた魔法の才を見出したアルファードが彼女を弟子にして育て上げた。

……というのが()()()()()である。


「せめて、ワシには真のことを言うてはくれんかのう? シウス」


「その呼び方はやめてください、クレトヨ。

アルファードと呼べと言っているでしょう」


 目の前で優雅に酒を飲む、黒髪に緋色の瞳をした男をアルファードは睨みつけた。


「というか、何故勝手に私の酒を飲んでいるのですか?」


「酒一つで小さい男じゃのう、()()()使()()()()()()の名が泣くぞ?」


「その呼び方もやめてください! アルファードだっつってんだろ!!」


 木製の机を思いっきり手で叩くと、酒瓶の酒が少しこぼれた。そんなことはお構い無しにアルファードはクレトヨに詰め寄る。


「ふざけてるんですか? 酔ってるんですか? 私をおちょくって楽しいですか?

マーリンはもう死にました、()()()()アルファードです、ご理解いただけただろうか???」


「すまぬすまぬ、つい、な」


「ったく、もう」





「話を戻すぞ、アルファードよ」


 先ほどまでの緩い空気が張り詰める。いつになく真剣な顔をしているクレトヨはすでわかっているのだろう。私がヴォトゥミアを弟子にした一番の理由を。


「お主がヴォトゥミアを引き取り、弟子にした真の理由は」


「ミアが私達と同じ、忌むべき長命種(化け物)の魔法使いだから」


 クレトヨの言わんとしたことを述べる。どうせバレているのだから構わない。


「やはり、()()か」


「ええ、私達長命種は必ず他の人間と成長がずれる」


「それ故に他の魔法使いのように、只人(ただびと)に紛れることが困難であろうな。だからこそ」


「だからこそ、私達と共に暮らすのが最善ということです」


 気がつけばアルファードも酒を飲み始めていた。このような話、酔わなければ話してられない。

……このバカ男(クレトヨ)と違って。


「うむ…お主がアヤツを拾った理由(わけ)はワシの察していたとおりじゃったよ。

だが、まっこと解せぬなぁ」


「何がですか」


「ただ長命というだけで物の怪扱いとは」


「わかってるでしょう、仕方がありませんよ。

……でも、彼女には、ヴォトゥミアには化け物と石を投げられるような人生は…歩んで欲しくないんです」


「…そうさなぁ」


 一言呟くと、クレトヨは酒をまた一口飲み込む。


――だが、アルファードよ。

我らが化け物と呼ばれる者である限り、生き続ける限り、いつまでも隠し通す事などできぬよ…、

ヴォトゥミアにも、人の子にも。



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