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強運な私、不運な侯爵に求婚されました  作者: 天瀬 澪


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13/13

最終話:幸運な出逢い


 全ての始まりは、あの日。



『―――ノエル・クレージュ嬢。どうか俺と、結婚してください』



 出逢った数時間で求婚された私は、その手を取った。

 今なら言える。あの出逢いは間違いなく、運命であったと。






「ノエル、おはよう」


「おはようございます、ルキウスさま」



 今日も美しい容貌のルキウスさまが、輝きを放ちながらやって来る。

 ルキウスさまと出逢ってから、早くも半年が過ぎた。私たちは変わらず、仲良く毎日を過ごしている。



「俺の婚約者は今日も美しいな。……もうすぐ俺の妻になるだなんて、夢みたいだ」


「夢ではないですよ?あと数日で、私はノエル・エヴラールになります」


「そうか、良かった。不運な俺が、こんな幸運を手に入れるなんて……やっぱり夢か?」



 真剣な顔をしたルキウスさまは、夢か現実かを確かめるように、私の顔をペタペタと触る。

 それが可笑しくてふふっと笑えば、安心したように笑い返してくれた。


 私とルキウスさまは、もうすぐ結婚する。

 結婚披露パーティーの準備やら何やらで、最近はとても忙しい。でも同時に、とても楽しかった。

 最初は招待客を不運に巻き込むのが心配だからと、身内だけのパーティーを希望していたルキウスさまも、今では一緒にうきうきと飾り付けを考えてくれている。



「楽しみだな。俺は君と出逢えてから、毎日が楽しくて仕方がない」



 優しく微笑んだルキウスさまが、私のおでこにキスをする。

 私は顔が熱くなるものの、前よりはこの甘い雰囲気に耐性が出来ていた。


 ルキウスさまに想いを告げたあの日から、毎日のように蕩けるようなキスをされ、どれだけ私のことが好きか伝えられているからだ。



「……私もですよ、ルキウスさま。幸せすぎて、強運を使い切った気分です」


「それを言うなら、俺の不運は無くなった気分だな。……無くなったのか?」


「何を言っているんですか。今朝も変なところで転んで皿を割ったでしょう」



 ずっと気配を消してそばにいたバーネットが、黙っていられないとばかりに口を挟む。

 ルキウスさまが「バーネット!」と言って睨んだ。



「お前、俺の不運をいちいちノエルに報告するのはやめろ。格好悪いところは知られたくないと思うのが、男というものだろう」


「大丈夫ですよルキウスさま。いくら格好悪いところを見ようが、私はルキウスさまが大好きなのは変わらないので」


「……ノエル……。……ん?ということは、やはり格好悪いと思われているってことか?」


「さぁルキウスさま!今日も頑張りましょう!」



 私が笑いながら立ち上がると、ルキウスさまは納得のいかない顔をしている。そんな顔も素敵だ。


 私がどれだけルキウスさまを格好良いと思っているか、ルキウスさまは知らない。

 どんなに不運に愛されていようとも、私の方がルキウスさまを愛していると、今は自信を持って言える。


 そして私は、早くルキウスさまの妻になりたいのだ。





***


 私が待ちに待ったその日、天気は穏やかな快晴だった。

 眩しい朝日を浴びながら、クラリスが私の身支度を手伝ってくれている。



「ノエルさま、とてもお綺麗です。ルキウスさまが卒倒してしまうかもしれませんね」


「ふふっ、ありがとう。クラリスのおかげね」



 純白の可愛すぎるドレスに、丁寧に纏めてもらった髪。体中に散りばめられたアクセサリーは全て、ルキウスさまの瞳と同じ水色だ。


 鏡の前でくるりと回っていると、扉の外でドシン!と大きな音がした。

 見ていなくてもそれが何の音だか分かり、私は苦笑しながら扉を開ける。



「……ルキウスさま、大丈夫ですか?」



 床に尻もちをついていたルキウスさまは、何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、私に向かって微笑んだ。



「……やぁノエル。信じられないくらい綺麗だよ」


「ありがとうございます。ルキウスさまも、とても素敵です。……それで、おケガは?」


「おっと、誤魔化せなかったか」



 ルキウスさまは苦笑しながら、私に向かって手を差し出す。



「準備が出来たなら、行こうか。無事に会場まで辿り着けるといいんだが」


「大丈夫ですよ。私がいますから」



 私はその手を笑顔で取り、ルキウスさまと並んでパーティー会場へ向かった。



 パーティー会場は、侯爵邸内にある。一番大きな広間に、お世話になっている人たちを中心に招待していた。

 私とルキウスさまが入場すると、ワッと歓声と拍手が響いた。その中には私の両親と、カロン兄さまの姿も見える。



「ルキウスお兄さま、ノエル。ご結婚おめでとうございます」



 一番最初に挨拶にやって来たディアナは、微笑みながらドレスの裾を持ち上げる。

 その完璧な姿に、周囲の令息の視線が釘付けになっていた。


 現在ディアナの元へは、縁談が殺到している。

 あの誘拐事件があってから、ディアナは積極的に外へ出て自分の不運と向き合っていた。

 その麗しい容貌と、逆境に立ち向かう姿が噂を呼び、護ってあげたい!と令息からの縁談が絶えないのだ。



「ありがとう、ディアナ。今日はお前の為の日でもある。運命の出逢いを見つけるんだぞ」



 ルキウスさまはそう言って悪戯に笑った。ディアナは少しだけ目を細めると、恭しく礼をして道を開ける。

 実はというと、ディアナは今バーネットのことが気になっているのだ。私は相談を受けているが、頑張って!と応援するくらいしか出来ないのが悔しいところだった。


 そしてディアナの想い人であるバーネットは、私とルキウスさまが向かう先に微笑みを浮かべて立っている。



「ご結婚おめでとうございます、ルキウスさま、ノエルさま。まだ髪は乱れていないし、お召し物も綺麗ですね」


「……おい、一言余計だぞ」



 不運をからかうようなバーネットの発言に、ルキウスさまはムッと唇を尖らせる。

 バーネットは楽しそうに笑いながら私を見た。



「ノエルさま。ルキウスさまと出逢ってくれて、見捨てないでくれてありがとうございます」


「ふふ、どういたしまして」


「今後とも“不運に愛された男”をよろしくお願いします。おっと睨まれてしまったので、先に進めましょう」



 私たちは色とりどりの花に彩られた壇上へ上がると、並んで招待客の方を向く。

 無数の視線を受けながら、ルキウスさまが凛とした声を出した。



「本日は、お忙しいところお集まりいただき感謝致します。私たちルキウス・エヴラールとノエル・クレージュは夫婦となり、共に支え合っていくことを皆さまに誓います」



 そう言うと、ルキウスさまは私に向かって柔らかく笑う。私も笑顔を返しながら、みんなの拍手に包まれる中で、そっとキスを交わした。



「……ノエル。お願いがあるんだ」



 唇が離れるとすぐに、ルキウスさまがそう言ってきた。

 私は深く考えずに頷くと、ルキウスさまの視線を受けたバーネットからスッと短剣を差し出される。思わず目を見開くと、周囲もどよめいていた。



「え!?何ですかルキウスさま!?」


「この場で、俺の髪を切り落として欲しいんだ」


「か、髪を……?」



 私はルキウスさまの綺麗な金髪に視線を移した。後頭部で結ばれた長い髪は、ルキウスさまの象徴のようなものである。



「俺はずっと、髪を伸ばすことで不運に負けないよう願掛けをしていたんだ。今まで逃げずに積み上げてきたものを、切り離さないようにと。……でも、それはもう必要ないと思ったから」



 ルキウスさまの綺麗な水色の瞳が、私を優しく見つめている。



「ノエル、俺は君がいれば不運でも何にでも打ち勝てる気がするんだ。君が強運かどうかは、もちろん関係なく、ね」


「……ルキウスさま……分かりました」



 私はルキウスさまの言葉を胸に、バーネットから短剣を受け取る。そのままルキウスさまの背後に移動すると、深呼吸をした。

 招待客の人たちも、固唾を飲んで見守ってくれている。


 ルキウスさまの不運が発動して失敗したらどうしようかと思っていたけれど、私は無事に髪を切り落とすことが出来た。

 またワッと歓声が上がり、長い金髪がきらきらと落ちる。



「ルキウスさま、無事に終わりましたよ。あとでクラリスに綺麗に揃えてもらいましょう」



 私が話し掛けると、髪の短くなったルキウスさまが振り返る。これがまた格好良くて、視界の端で多くの女性がよろめいているのが見えた。



「ありがとう、ノエル。すごく軽くなった」


「いいえ、とてもお似合いですよ。では生まれ変わったルキウスさま、皆さまにお礼の挨拶回りをしましょう」


「そうだな。行こう」



 私はルキウスさまと手を繋ぎ、未だに鳴り止まない拍手の中、壇上から下りる。

 その途中で、私は「あ」と声を漏らした。ルキウスさまが不思議そうに立ち止まる。



「ノエル?」



 私が今日という日を心待ちにしていた理由。

 それは―――……。



「―――これからもよろしくね、ルキウス」



 急な呼び捨てに目を丸くしたルキウスが足を踏み外しそうになり、私と手を繋いでいたおかげで踏みとどまることが出来ていた。

 それが可笑しくて、幸せで、私は心からの笑顔を浮かべる。




 強運な私と、不運なルキウス。


 この出逢いはきっと運命で―――これからもずっと幸運な未来が続いていくと、私は信じている。



「……ルキウス、大好き!」



 大好きな人の胸に飛び込みながら、私はありったけの力でぎゅうっと抱きしめる。



「……困ったな、心臓が止まらないかと自分で心配になる。……俺も大好きだよ、ノエル」



 同じくらいの力で、ルキウスが抱きしめ返してくれる。

 周りからの拍手が鳴り止むまでずっと、私とルキウスは抱きしめ合っていた。



 ―――お互いに出逢えた幸運を、確かめ合うように。






《完》



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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