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強運な私、不運な侯爵に求婚されました  作者: 天瀬 澪


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第11話:とっくに出ていた答え


 次に商人の青年が扉を開くまで、私とディアナは大人しくしていた。


 ここで暴れたところで体力を消耗するだけで、いざチャンスが来ても逃げられなくなるからだ。そのチャンスが現れるかどうか、今の私には分からないけれど。


 ……ルキウスさまは、今頃どうしているだろう。

 また階段から転げ落ちそうになっていたらどうしよう。バーネットはルキウスさまを護ってくれているだろうか。

 考えれば考えるほど、ルキウスさまに会いたくてたまらない。



「さあ、お待たせしました。こちらへどうぞ」



 あくまで丁寧な口調でそう言って、青年が扉を開けた。



「……ああ、立てませんでしたね。お前たち、足の縄を解いてやれ。ただし気をつけろよ」



 屈強そうな男が二人現れ、私とディアナの足の縄をナイフを使って解いた。強運のせいか、私の縄はなかなか解けず、男が苛ついていたけれど。



「強運とは、面白いですね。人質を連れておいて良かったです。では、こちらへ」



 青年のあとを、男に引っ張られるようについていく。暗くてじめじめとした道だった。

 窓がないところを見ると、どこかの地下なのかもしれない。人身売買だなんて、表立った場所で行われるとは思わなかった。



「………」



 私はちらりとディアナに視線を送る。変わらず顔色は悪いが、私の視線に気付くと力強い眼差しを返してくれた。


 今ここで、私たちに逃げ場はない。どこへ逃げればいいかも分からない。

 だから、ひたすらじっとその瞬間を待つしかなかった。一度拘束の手を逃れられたら、あとは強運でなんとかなるはずだ。



「では一度、ここで待機していてくださいね」



 そう言われ入るよう促されたのは、牢のような場所だった。

 中には既に数人の姿があり、ほとんどが女性で、一人だけまだ子どもがいた。みんな身を寄せ合って震えている。


 思わず立ち止まっていた私の背中を、男が突き飛ばすように押そうとして―――私が歩き出したため、男はバランスを崩してその場に倒れた。



「くっそ……!ふざけんなよ、この女!」


「まぁ落ち着いて。彼女は大切な商品だ。傷付けることは許さない」



 青年の黒い笑顔に、男がチッと舌打ちをする。乱暴に牢の扉を閉めると、足早に去って行った。

 青年は牢の手すりに手を掛け、私たちに向かってにこりと笑う。



「安心してください。危害は加えませんよ。……買い取られてからどうなるかは、僕にも分かりませんけどね」



 悪魔のようなセリフに、みんなが体を震わせた。

 少しして、カーテンで仕切られた向こう側から声が響いてくる。



「―――大変長らくお待たせ致しましたぁ!これより本日の商品を紹介致します!まず最初に………」



 とても耳を塞ぎたくなるような言葉が続く。今同じ牢に入っている女性や子どもは、どこか目を付けられて連れてこられたのだろう。



「……ディアナ、領地で誘拐が多発していたりした……?」


「……いいえ。でも、移動型で人身売買が行われている……という注意喚起が、他領から送られてきたことはあるわ」



 近くに見張りの男がいるため、私はディアナとひそひそと会話をする。



「……移動型……つまり、一つの所に留まると捕まりやすくなるから、商人と言って移動しながら物色してるってわけね……」



 今回、たまたまエヴラール侯爵領が開催地に選ばれ、そこで私があの青年に目を付けられたということだ。


 自分から“強運の婚約者”と噂を広めてもらったときから、いずれ狙われる時は来るだろうと思っていた。

 その“強運“は、私しか対象にならないと、ほとんどの人は知らないからだ。



 私は同じ牢に囚われている人たちを見た。

 強運によって、なんとかディアナ一人は連れて逃げ出せるとは思う。けれど、全員は無理だ。



「……どうしよう」



 私はポツリと呟く。逃げ出したあとで、ルキウスさまに助けを求めることは出来る。

 それでも、その間に誰かに買われてしまったら、もう助けることは出来ないかもしれない。



「……ノエル、一人で考え込まないで。どうにかして全員で逃げるのよ。……ルキウスお兄さまの領地で、こんな馬鹿げたことをするなんて許せない」



 ディアナが瞳の奥で闘志を燃やしていた。

 私は頷きながら、周囲に使えそうなものがないか視線を走らせる。


 足は自由になったけれど、手は後ろで縛られている。でも実は、私の縄はもう緩くて抜けそうになっているのだ。

 けれど、とりあえず今は縛られているフリを続けている。


 牢の近くには見張りの男が一人。

 腰には剣が下がっている。攻撃されれば、私以外のみんなに危険に及ぶ。

 だから、牢が開かれて、あの男を一発で気絶でもさせられれば勝機が見えるけど……そんなこと出来る?



「……すごいわね、あなたは。私はこんなにも怖くて震えてしまうのに……」



 ディアナが小さな声でそう言った。カタカタと震えるディアナに、私は微笑みかける。



「……私も、正直言うと怖いの。でも……ルキウスさまのところへ、帰りたいから」



 ルキウスさまに会いたい。あの優しく眩しい笑顔で、「おかえり」と言ってほしい。

 そしたら私は、「ただいま」と笑顔で駆け寄って、思いきり抱きつくのだ。


 ―――答えはもう、とっくに出ていた。

 私はルキウスさまのことが好き。……大好きだ。



 その瞬間は、突然訪れた。

 カーテンの向こうから声が掛かり、見張りの男が動き出す。牢の鍵を開けると、一番奥で怯えている女性の方へ足を進めた。



「ほら、立て。お前からだ」


「……い、いやっ……!誰か、助けてぇっ……!」



 腕を掴まれた女性が泣き叫ぶ。その濡れた瞳と視線が絡み、私は今だとばかりに手の縄を解いた。

 驚いて目を見開くディアナを横目に、私は素早く男の背後に近付くと、その肩をトンと叩く。



「ああ!?なんだ……よ……?」



 振り返った男は、にっこりと微笑む私を見て徐々に声を落としていく。

 男が呆気に取られているうちに、その腰の剣を引き抜いた。もちろん私は、剣なんて扱えない。


 すぐにディアナに駆け寄り、腕の縄を斬る。そのまま近くの女性の縄を斬ろうとしたところで、首の後ろを掴まれた。



「この女っ……!」



 男が声を荒げた瞬間、抵抗した私の腕がみぞおちに入ったようだ。呻くように前屈みになる。



「今よ!みんな、早く!」



 私の声に反応し、みんながバタバタと牢から出る。

 男がよろよろと追ってこようとした目前で、私はガシャンと牢の扉を閉めた。そして。



「残念ね。鍵をそのままにしていたなんて」



 さしっぱなしにされていた鍵を回せば、男は顔を真っ青にしていた。

 その鍵を抜き、私はドレスにしまい込む。ちゃんと強運は味方してくれているようだ。


 カーテンがある方とは反対側に走り出した私は、みんなの腕の縄を剣で斬る。

 そのうちの一人の女性が、ポロポロと涙を零した。



「ありがとうございます……!なんとお礼を言ったらいいか……!」


「ふふ、お礼はまだ早いですよ。転ばないよう気を付けてください」


「……ノエルあなた、出口を知っているわけじゃないわよね?」



 ディアナにそう訊かれ、私は走りながら頷く。無機質な壁が続く廊下に、カツンカツンとヒールの音が響いている。



「知らないけど、大丈夫なはずだわ。私、迷子になったことないの」


「全く、凄い自信ね。……でも、そんなあなたを見ていると不安が紛れるわ」



 呆れたようにディアナにそう言われ、私は笑う。強運だと、こういうときに無駄に自信が湧いてくるのだ。

 けれど、私が強運であると同時に、ディアナは不運でもある。



「―――いたぞ!あそこだ!」



 鋭い声が背後から響き、みんながビクッと肩を震わせる。バタバタと数人の男が追い掛けて来ていた。


 私たちは必死で足を動かす。ここまではずっと一本道だった。ここが地下なら、必ず地上へ上がる階段があるはず。

 そしてその予想は当たっていた。もう少し先に階段が見えたのだ。



「みんな!もう少しよ、頑張って!」


「……っあ、」



 私が声を掛けたその時、ディアナが転んでしまった。



「ディアナ!」



 私はすぐに引き返し、ディアナの手を引いて立ち上がらせる。他のみんなは必死に階段へ向かって行った。



「……ダメ、足を捻ったわ。私を置いて先に逃げて、ノエル」


「そんなこと、出来るわけないでしょう!」



 ディアナを支えながら、なんとか足を進める。けれど、足音は確実に迫って来ていた。

 いくら強運があるとは言え、剣を持ついかつい男たちに追い掛けられるのは、正直とても怖い。



「―――止まれぇ!上にも見張りがいるんだ!逃げられねぇぞ!!」



 飛んできた怒声に、私は唇を噛みしめる。

 先に階段を上ったみんなは、大丈夫だろうか。そういえば、声も物音も何も―――……。

 不思議に思った私の耳に、階段を駆け下りてくる足音が聞こえる。挟み撃ちにされてしまったと、そう思った。


 私は足を止める。ディアナの体も強張っていた。

 けれど、暗がりから姿を現したのは、会いたくてたまらなかった人だった。



「―――ノエル!!」


「……ルキウスさま……?」



 ルキウスさまの姿を見た瞬間、私の目から涙が零れ落ちた。



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