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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第1章:異界の目覚めと森の咳
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サマリ05:森の夜

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

エルフの里では、陽翔たちの治療が功を奏し、花粉症の症状が和らいだエルフたちが、少しずつではあるが元気を取り戻していった。薬草の調合によって鼻水やくしゃみが治まり、呼吸が楽になったことで、里の人々は再び日常を取り戻し始めていた。


その晩、陽翔とアーツ、メディクは、長老の住まいに夕食へ招かれた。彼らが到着すると、長老は静かに座り、柔らかな灯りが彼の顔を照らしていた。部屋の中にはエルフ独特の木の温もりが感じられ、灯火の揺らめきが穏やかな雰囲気を作り出していた。


長老は彼らを見て、深く一礼した。


「まずは、君たちに感謝を。君たちのおかげで、我が里の者たちは救われた。もし、君たちが来なければ、もっと多くの者が苦しんでいたことだろう」


陽翔は長老の誠実な言葉に驚いた。長老の姿勢は、民を本当に想っている者のそれだった。陽翔もまた、深く一礼し、静かに答えた。


「長老、お気遣いありがとうございます。俺たちは、医療者としてできることをしたまでですからあまり気にしないでくださいね」


長老は微笑みながら、手を振ってテーブルを指し示した。


「今夜は、私が精一杯用意した料理を振る舞おう。エルフの料理は、土地の恵みと精霊の力を感じるものだ」


テーブルには、エルフならではの食材を使った料理が並べられていた。大きな木の器に盛られた色とりどりの野菜のスープ、香り豊かなハーブで調理された肉、そして風味豊かなナッツと果物の盛り合わせ。それぞれの料理が、エルフたちの自然との共生を感じさせるもので、見た目にも美しく、食欲をそそる。


「これは、私たちの森から採れた新鮮な食材で作った料理だ。君たちに、少しでもこの森の恵みを感じてもらいたい」


陽翔はその言葉に感謝を込めて一礼し、メディクも静かに頭を下げた。


「……いただく」


食事が始まり、スープの温かさが体に染み渡る。肉は柔らかく、ハーブの香りが口の中で広がった。陽翔は、この森の豊かさを改めて実感していた。


食事の途中、長老が静かに口を開いた。


「陽翔殿、君たちの治療のおかげで、里の者たちは元気になった。しかし、これはあくまで一時的なものだな?」


陽翔は頷いた。


「ええ。症状を抑えることはできましたが、根本的な解決には至っていません。それをするには新たな薬の開発と内服が必要です。エルフの治癒魔法が一時的にしか効果を発揮しなかったのもそのためかと」


「そもそも、その……『花粉症』という病が何なのか、私たちはこれまで聞いたことがない」


メディクも頷く。


「知らない……こんな病」


陽翔は、2人の疑問に答える。前世で患者に説明していたように。医療従事者ではなくとも理解が及ぶように言葉を選で。


「花粉症とは、花からとぶ花粉かふんが体の中に入ったときに、体が「これは悪いものだ!」と()()()()思ってしまって、いろんなイヤなことが起こる病です。つまり、原因となる花粉が舞っている限りこの症状は続くため、エルフの治癒魔法では瞬間的に治癒できても、またすぐに再発して『治らない』という考えに至ったと考えます」


陽翔の答えに、眼を光らせるメディクと頷き賞賛の言葉を発する長老。


「それにしても、一目見ただけで分かるとは相当な研鑽を積まれてきたのでは?」


陽翔は、ここで少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「実は、それには理由があります。私とアーツは……この世界の生まれではありません」


長老とメディクが驚いたように目を見開く。


「……私たちは、異世界から来ました」


陽翔は自分が元々いた世界、現代の日本の医療環境について簡単に説明した。そして、過労の末に命を落とし、この世界へ転生したことも——。


「私の世界では、医療が発展しており、多くの病気が研究され、治療法が確立されています。花粉症もその一つです」


メディクは言葉を失ったまま、じっと陽翔を見つめていた。


「君たちが……異世界の人間だったとは」


長老も驚きつつ、静かに息を吐いた。


「だが、それならば納得できる。君たちの知識がこの世界の常識を超えている理由も」


陽翔は静かに頷いた。そして、ステータス画面を開く。


『【グレイス】医療の恵み』


その瞬間、陽翔の前に光が揺らめき、白いマスクと透明なゴーグルが現れた。


「……なっ……!?」


長老が驚愕の表情を浮かべ、メディクも目を見開いたまま硬直する。


「な、なに……どうやって、それを……!?」


陽翔は落ち着いた声で説明を始めた。


「これは、私が持つ【グレイス】という力によるものです。異世界の知識や医療材料を、こうして具現化することができます」


長老は神妙な面持ちでマスクを手に取り、まじまじと観察する。


「これが……異世界の力……」


メディクも、慎重にゴーグルを触りながら呟いた。


「すごい……これが、君の力」


「ですが、この力には制約があります」


陽翔は真剣な表情で言った。


「【グレイス】は、俺と契約した者にしか発現しません。そして、あまりにも異世界の知識が広まりすぎると、混乱を招く可能性があります。そのため、我々が異世界人であることと、この力の存在は、他言無用でお願いしたい」


長老はしばらく考え込んだ後、静かに頷いた。


「……分かった。陽翔殿の言う通り大混乱になるな。固く口を閉じよう」


メディクも同じように頷き、陽翔をじっと見つめた。


「……わかった。誰にも言わない」


陽翔は安堵し、再び二人の方を見た。


「これで、花粉症の対策を具体的に進めていくことができます。まずは、このマスクとゴーグルを使い、エルフの民に装着してもらうことから始めましょう」


長老とメディクは、陽翔の提案に改めて頷いた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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