サマリ03:調薬の試みと疑念
現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。
どーぞ、ごひいきに。
メディクの案内で、陽翔とアーツは森の奥深くにある彼女の住まいへと向かっていた。木々の間を進みながらも、メディクは時折くしゃみをし、鼻をすすっていた。
「……くしゅんっ!」
「やっぱり、辛そうだな……」
陽翔は眉をひそめながら、彼女の症状を観察していた。アーツの言う通り、花粉症の可能性は高い。しかし、メディクの言葉にあったように、同じ症状を訴えるエルフが増えているなら、単なる花粉症だけでは済まない問題かもしれない。
『メディクの話では、最近になって症状を訴える者が増えたと言っていました。新たなアレルゲンが関係している可能性がありますね』
アーツの声が陽翔の頭に響く。彼もまた、事態を慎重に分析していた。
「何か手がかりがつかめるといいんだがな……」
陽翔がつぶやくと、メディクが立ち止まり、小さな木造の家を指さした。
「……ここが私の家」
周囲は草木に囲まれ、壁には様々な薬草が干されている。
「すごいな……これ全部、一人で管理してるのか?」
陽翔が驚いたように聞くと、メディクは無言で小さく頷いた。
「……誰も、来ないから」
それだけ言うと、彼女は扉を開け、中へと招き入れた。
室内は木の温もりに満ちていた。壁には薬草の束がかけられ、棚には瓶詰めの薬剤や巻物が並べられている。中央には大きなテーブルがあり、そこには調合に使う道具が整然と並べられていた。
「まずは……症状を抑える薬を作る」
メディクは静かに言うと、棚から数種類の薬草を取り出した。
「……これは、炎症を抑える作用がある。これは、呼吸を楽にする……」
彼女は手際よく薬草を選び、乳鉢に入れてすり潰し始めた。その様子を見守る陽翔は、ふと疑問を口にした。
「メディク、今のやり方は昔からの伝統か?」
「……そう。だけど、効果が薄い時がある」
メディクは手を止め、陽翔を見た。
「あなたは……違う方法、知ってる?」
陽翔はアーツと目を合わせ、頷いた。
「……試したい」
メディクの瞳がわずかに輝いた。
次の瞬間、アーツの目が光りグレイスを発動したのが見て取れた。
『では、陽翔。指示を出します。この家にあるもので薬を調合するとなると薬草が多いので、今回は、漢方薬にしましょう。症状が抑えられ、即効性が期待できる漢方薬となると、小青竜湯が良いですね』
アーツは処方の指示は出してくれたが、小青竜湯という漢方薬の作り方までは知らなかった。
なので、必要な薬草は陽翔のグレイス:医療の恵みでステータス画面からネット検索することにした。
「漢方薬っていうものを作るよ。メディク、今から指示する薬草を机に並べてくれ」
メディクが頷くのを見て、陽翔はグレイスを発動する。
「グレイス!……麻黄、桂皮、乾姜、半夏、五味子、甘草、細辛、白朮」
(しかしこの現代の薬草ってこっちの世界にもあるもんなのか?俺は見てもどれがなんの薬草かわからないぞ……)
「……わかった。全部揃う」
「え?わかってくれたの。ってことはあるんだな。よかったー」
陽翔は安堵し胸をなでおろす。調合は、専門家のメディクに任せることにした。
メディクは慎重に作業を進める。そして数十分後、一つの薬が完成した。
「できた……」
彼女は小瓶に入れた薬を見つめながら、そっと呟いた。
「試してみるか?」
陽翔がそう言うと、メディクは迷わず頷いた。
「……私で、試す」
彼女は薬を口に含み、じっと様子を見る。30分が経過し、次第にくしゃみや鼻水が楽になっていくのが分かった。
「……すごい。鼻の詰まりが、楽になった」
メディクは驚きの表情を浮かべた。
『小青竜湯は即効性があり軽度の目のかゆみや鼻水やくしゃみに効果があります。免疫力を整えてアレルギー症状を抑えるなら、十味敗毒湯をお勧めします。ただし、即効性はなく2週間から1か月程度飲み続けてもらう必要があります』
(……あとでメディクに伝えておくよ)
「本当に、効いてる……」
『それにしても予想通りの効果ですね。ただし、持続時間や副作用についても注意が必要です』
アーツの冷静な分析に、陽翔は頷いた。
「でもこれで、里の人たちにも試せるな」
しかし、その言葉にメディクは少し顔を曇らせた。
「……信じて、くれるかな?」
陽翔はメディクの不安を察しながら、力強く言った。
「大丈夫だ。俺たちが一緒に説明する」
メディクはしばらく考えた後、小さく頷いた。
「……うん」
こうして、陽翔たちは森のエルフの里へと向かうことになった――。
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