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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第1章:異界の目覚めと森の咳
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サマリ02:森のエルフと未知の病

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

陽翔とアーツが転生した森は、静寂と美しさを兼ね備えた幻想的な場所だった。しかし、その森の奥では、異変が起こっていた。


2人が森の奥深くへと進んでいくと、ふと風に乗って微かなくしゃみの音が聞こえた。


「……くしゅんっ!」


陽翔が音のした方向へ目を向けると、そこには一人の女性がいた。長い銀髪が風に揺れ、透き通るような緑の瞳が陽翔たちを警戒するように見つめている。彼女の姿にはどこか孤独な雰囲気が漂っていた。


その瞬間、陽翔は思わず息をのんだ。


(まさか……あ、あれは、エルフか!?)


異世界に転生したとはいえ、どこか現実感のない夢の中のような感覚が抜けなかった。しかし、目の前の存在はまさしく、前の世界で語られていた幻想の種族――森の妖精、エルフだった。


陽翔はその美しさと気品に、ほんの一瞬だけ言葉を失った。

鋭く整った耳、風に溶け込むような佇まい。どこか儚げで、けれど芯の強さを秘めたその瞳に見つめられ、現実味が一気に増していく。


「アーツ……、俺は今、猛烈に感動している。エルフだぞ!エルフッ!ここは本当に異世界なんだ!」

『はい、私も人間以外の人族は始めて見ました。しかし、陽翔。血圧と脈が急上昇してますよ。また倒れられたら困りますので自重してください』

(エルフを見て、興奮しない男子がいるのか?そっちのほうがよっぽど危ういと思うが……)


思考が一瞬だけ止まりそうになりながらも、陽翔は深呼吸をして気持ちを整える。


「……誰?」


エルフの女性は小さな声で問いかけた。陽翔はその警戒心を和らげるよう、できるだけ穏やかな口調で答える。


「俺は涼風陽翔。こいつはアーツ。森を歩いていて、君のくしゃみが聞こえたんだ」

エルフの女性は少し眉をひそめた後、再び鼻をすすった。


「……メディク。私はこの森を住処とするエルフ……」


彼女の声は淡々としていたが、どこか話すことに慣れていないような不器用さがあった。


「……くしゅんっ!」


再びくしゃみが響く。鼻の赤みや目の充血、しきりに目をこする姿が陽翔の視界に入る。


(この症状……もしかして、花粉症か?)


しかし、陽翔は看護師であり、確定的な診断を下せる立場ではない。そこでアーツに視線を向けた。


「アーツ、どう思う?」


アーツがメディクをじっと見つめ両目を光らせる。そして小さく頷きながら答えた。


『詳細な検査ができないので確定診断には至りませんが、症状から判断するに、これは花粉症の可能性が高いです。原因はまだ特定できませんが、アレルゲンの影響を受けている可能性があります』


「やはり、花粉症か」


陽翔は小さく呟いた。彼はその症状を見て、すぐに原因を察した。アーツも同様に察していたのだろう、静かに頷いた。


「たぶんメディク、君は花粉症という病だ。簡単に言えば、花粉が体に入ることで、体が過剰に反応してしまう。マスクとかはしないのか?」


「花粉に体が反応?…… マスク?」


メディクは困惑した表情を浮かべながらも、興味深そうに陽翔を見つめた。知識欲が強い彼女にとって、見慣れぬ姿で突然目の前に現れた陽翔達と、新しい病の存在は警戒心よりも好奇心を刺激するものだった。


「最近、この森で何か変わったことはなかったか?」


陽翔が問いかけると、メディクは少し考えた後、小さく頷いた。


「……ある。戦争で森が焼かれた後、以前はなかった植物が増えた」


それを聞いた直後、アーツの声が陽翔の頭の中に響く。


『森林破壊により植生が変化し、新しいアレルゲンが増加した可能性が考えられますね』


メディクはしばらく考え込んだ後、静かに口を開いた。


「……治せる?」


『今すぐ根本的な治療は難しいですが、症状を和らげることは可能です』


アーツが淡々と答える声を陽翔がメディクに代弁する。


「どうすれば?」


「抗ヒスタミン作用のある薬を調合するか、花粉の飛散を防ぐ手段を考える必要がある」


「こうひすたみん?……薬草なら、私の家にたくさんある。私なら調合も可能」


メディクは静かに言った。その目には、使命感が宿っていた。


不思議に思った陽翔は、メディクに問う。


「俺がこんなことを言うのもおかしいが、メディク、君は出会ったばかりの僕たちの話を簡単に信じているようだが大丈夫かい?」


「今、私の里で同じ症状の人たくさんいる。みんな辛そう。私では治せなかった。原因がわかって治せるなら信じたい。だけどまずは……、私で試してほしい」


唇をきゅっと噛みしめ、目は真っ直ぐに見据えている。でもその奥には、ほんのわずかに震える恐怖と、諦めきれない希望が宿っている。顔全体に浮かぶのは、強がりと必死さが滲むような切なさ……それでも、彼女は一歩を踏み出す覚悟を決めていた。


「よしッ!それじゃあ花粉の飛散を防ぐ方法を考えつつ、治療薬の調合も試してみよう」


陽翔は、無力さへの悔しさや、目の前の人への信頼と疑念のせめぎ合いに葛藤しつつも覚悟を決めた、メディクの力になりたいと純粋に思った。


こうして、陽翔とアーツ、そしてメディクの花粉症との戦いが始まった——。

最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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