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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第3章:絶望の都と癒しの種火
22/23

サマリ21:異世界の病

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。



どーぞ、ごひいきに。

教会の扉をくぐった瞬間、重苦しい空気が陽翔たちを包み込んだ。


人々のうめき声、祈りの声、魔法陣が発する淡い光。すべてが雑然と混ざり合い、神聖さよりも混乱を印象付けていた。


教会内部はまるで臨時の診療所だった。礼拝用の長椅子は片隅に積まれ、その代わりに、毛布を敷いた簡易ベッドが並ぶ。治癒魔導士たちが魔法を施すたび、短く光が弾け、患者たちがわずかに息を整える。


「……魔法治療、か」


陽翔が小さく呟いた。彼の眼差しには、驚きよりも冷静な観察があった。


その隣で、アーツが低く囁く。


『陽翔、あれは確かに治癒魔法ですが……表層しか処置されていません。深層の病巣には届いていない可能性があります』


「まるで、痛み止めだけで済ませているような治療だな……」


「再来を前提にした対症処置。ビジネスとしては合理的だけど……」


クリラボの分析は冷徹だった。


「……そんなの、病気を見捨ててるだけだよ」


ディエットの声音が震える。彼女の目に映るのは、かつて家族と訪れた礼拝堂ではなかった。


そのとき、教会の奥から神父が現れた。銀の刺繍が施されたローブをまとい、彼らを見つめる。


「巡礼者か? 治療を望むなら、寄進を――」


「いえ、病の調査と見学が目的です。私たちは各地を巡る医術研究団で、帝都の感染拡大を危惧し調査に参りました」


陽翔は敵意を見せず、柔らかく頭を下げる。


神父はしばし沈黙したのち、ようやく口を開いた。


「見学だけならば構わぬ。ただし、治療行為は禁止する。癒しは信仰と寄進によってもたらされるものゆえに」


「ありがとうございます。迷惑はかけません」


陽翔は静かに頭を下げた。神父が去ったのを見届けると、陽翔は仲間を集め、小声で指示を出した。


「このまま見ているだけでは何もわからない。だが、診察は許されていない……」


『一人、調査の名目で話を聞いてみましょう。身体には触れず、聞き取りと観察だけであれば問題にはなりにくいはずです』


彼らが目を留めたのは、礼拝堂の隅で布にくるまり、身を縮めている中年の男性だった。治癒魔導士の列からも外され、誰にも話しかけられていない。


「こんにちは。具合はいかがですか?」


陽翔がゆっくりと腰を下ろし、低く優しい声で尋ねると、男性は片目だけをわずかに開いた。


「……治して、もらえない……。熱も……痛みもないけど、腕が……変なんだ……」


その腕を、彼は布越しに指差した。陽翔はそれを静かにめくった。


目に映ったのは、異様に腫れた前腕だった。皮膚は黒ずみ、まるで岩のように隆起している。周囲に炎症反応や潰瘍は見られない。


「……これは……浮腫とも違う。リンパ節の腫れは……ないな」


陽翔は即座にアーツと視線を交わす。


『検査を行います』


アーツは周囲の視線を避けながら、そっとグレイス(医学の恵み)を発動した。だが――


『……異常ですが、病態の分類が困難です。炎症反応や免疫反応は見られません。感染症かどうかも現時点では判断できません』


「この腫れ、硬化、色素沈着……見たことがない……」


メディクが息を呑む。


「……なら、俺が調べる」


クリラボが静かに前に出て、グレイス(生体の恵み)を展開した。


彼の視界に、魔素の流れが現れる。


「……魔素反応、強いな……。局所に異常な蓄積……しかも、外部から与えられた痕跡が見当たらない」


彼は目を伏せ、淡々と報告を続けた。


「自然な蓄積とは思えない。外因性かもしれないけど、断定はできない。……ただ、通常の魔素代謝とは違うパターンが出ている」


陽翔が息を詰めて問いかけた。


「つまり……何か意図的に仕組まれた可能性がある?」


クリラボはほんの一瞬だけ黙り込んだが、すぐに首を振った。


「異常が“人為的な介入”を示唆しているようには見える。……あとは、アーツの判断に委ねる」


アーツが静かに頷いた。


『陽翔、これは……私の見立てでも、自然発生では説明がつきません。“誰かが意図して作った”可能性があります』


「……生物兵器、か……」


陽翔が呟くと、誰もが言葉を失った。

最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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