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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第3章:絶望の都と癒しの種火
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サマリ20:壊れた帝都と歪んだ救済

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

―――翌朝、丘の頂から帝都が見えてきた。


帝都バルゴ。

遠くに見えるその姿は、かつての煌びやかな首都ではなかった。


外壁の一部は崩れ、城門は開け放たれ、衛兵の姿もない。


馬車の速度が自然と落ちる。


「……ここが……帝国の中心だった場所、なのか……?」


陽翔の呟きが、乾いた風にさらわれた。


街に足を踏み入れると、あまりに異様な光景が広がっていた。

焼け焦げた屋台、空の井戸、寝転ぶ元兵士たち、物乞いをする子どもたち。

中には、まだ包帯を巻いたまま、朽ちかけた服で地面に座る者もいる。


クリラボが目を細めて口を開く。


「生活環境も、感染管理も、栄養支援もすべてが破綻している。放置された外傷も多い。……この国の医療機能は、機能停止に近いな」


「本当に……放っておけない」

メディクも小さく拳を握った。


いつも明るいディエットも、今は何も言わず歩き始める。

幼いころ、家族と通った広場──そこは、すでに瓦礫と灰に埋もれていた。


「……ここで、たくさん笑ったの。父と、母と、弟と……。けど……飢えで、皆いなくなった」


陽翔が、そっと彼女の肩に手を置いた。


ディエットは目を伏せ、けれど確かに頷いた。そして瓦礫と灰に覆われた広場を見つめたまま、小さく呟いた。


「……この近くに、昔通っていた鍛冶屋があります。まだあるかどうか……わかりませんけど」


その言葉に、陽翔がわずかに頷いた。


「ちょうどいい。昨日の盗賊から回収した装備──換金できる場所が必要だった」


「鍛冶屋か……」


クリラボが周囲を見渡しながら呟く。


「今の帝都で、機能している工房があるとは思えないが……」


「……たとえそうでも、行ってみる価値はある。かつての繋がりが、今を支える道になることもある」

メディクの声は静かで淡々としていたが、どこか自分自身に言い聞かせるようでもあった。


ディエットは軽く頷き、先頭に立って歩き出す。

陽翔たちはそのあとに続き、荒れ果てた帝都の通りを静かに進んでいった。



―――鍛冶屋は、石造りの外壁を辛うじて保っていた。

屋根は傾き、扉の上の木製看板は煤けて文字も読めない。


「……あった!」


ディエットが嬉しそうに声を上げた。


扉を叩くと、しばらくして年配の女性が顔を出した。


「開いてるよ──って……えっ?」


女性は目を見開いたあと、すぐに笑みをこぼした。


「ディエット!? 本当に……!」


「ただいま戻りました、ミーナさんっ!」


ミーナはそのまま彼女を抱き締める。

背中越しに陽翔たちを見つけて、表情を引き締めた。


「そちらは……?」


「旅の仲間です。……今は彼らと一緒に、命を救うための旅をしています」


そのとき、奥から重い足音が響いた。

現れたのは、酒瓶を片手にした男──エンジだった。


「……ディエット。生きてたか……」


「久しぶりです、おじさん。……顔が見られてよかった」


エンジは黙って頷き、視線を陽翔たちへ移す。


「……装備の買取か?」


陽翔は頷き、盗賊から回収した武具をひとつひとつ机の上に並べていく。


それを見ていたミーナが、不意に問いかけた。


「こんな帝都まで来るなんて……何のために?」


ミーナとエンジは、仲間であるディエットの知人である。そして、帝都に帰ってきたディエットを温かく迎えてくれた彼女たちの姿を診て、陽翔は親近感にも似た、信頼感を覚えていた。


だから、これまでアーツ、メディク、クリラボ、ディエットと旅をしてきたこと。自分とアーツは、別世界から来た異世界人であること、契約のこと、グレイスのことを包み隠さずミーナとエンジに話した。


ミーナの目が、陽翔を、そして後ろに立つ仲間たちを順番に見つめる。


「……なるほどね。あんたたちの目を見れば信用できるよ。嘘はついてないね」


それだけを言うと、ミーナとエンジの表情が、少しだけ柔らかくなった。


「それにしても、面白い話もあったもんだね。今、この国には安全に寝泊りできる場所はない。ここで一晩、泊まっていきな。あんたたちのような人たちにこそ、明日が必要だって思えるから」


エンジは、道具の片付けをしながら一言だけ漏らした。


「……この国には、もう何も期待してなかった。でも……あんたたちの旅の話を聞いて、少しだけ……何か、作りたくなってきた気がする」


ディエットは、そっと嬉しそうに笑った。


 

―――翌日、陽翔たちは教会へと足を運んだ。

昨日、エンジたち夫婦から、この国で起こっている異変について知りたいなら、教会に行くように言われたからだ。 


そこは、神の祈りが捧げられるはずの場所。

だが今は、戦争と混乱の果てに、診療所のような姿へと変わっていた。

門前には、治療を求める人々が列をなしていた。


泣く赤子を抱く母親。

足を引きずる兵士。

うずくまる老人。

そして、それを遮る神父と治癒魔導士たち。


「治癒の恩恵は寄進の心にこそ届きます。信仰の証がなければ──」


「娘が熱を出してるんです! お願いします、診てください!」


懇願する者の声が、淡々とした声にかき消されていく。

陽翔は、無言で教会内部へと足を踏み入れた。


床には魔法陣。

光を纏った治癒魔法が次々と患者に施されていく。


『……確かに効果みられています。ですが──』


アーツが、低く呟いた。そしてグレイス(医学の恵み)を発動し、周囲の患者たちを診る。


『治癒魔法は一時的な対処療法です。外傷には絶大ですが、感染症や栄養失調に対しては根本的な治療にはなっていませんね。まるで高額な“治療のサブスク”です……』


「再来率が高すぎるってことか。治癒の再発性と収益化構造が合致している……」

クリラボが冷静に補足する。


「費用対効果の問題ではなく、倫理の問題だと考えるべき」

メディクが静かに言い切った。


その時、崩れた教会の天井から、光が差し込み陽翔達を照らし出した。

まるで瓦礫の隙間に咲くような、小さな希望のように。



最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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