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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第3章:絶望の都と癒しの種火
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サマリ19:微睡みの馬車と静かな水面

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

盗賊との戦闘を終えた陽翔たちは、再び帝都バルゴを目指し、馬車を走らせていた。昼を過ぎた森の道は風がほとんどなく、むっとするような熱気が馬車の中に籠もっている。


陽翔は幌の内側、木製の座面に腰掛けながら、額に浮いた汗を拭っていた。


その隣にはメディク、正面にはディエットが座っている。どちらも、戦闘の緊張から解かれた今、わずかに頬を紅潮させているように見えた。


「陽翔様。……さっきの戦闘における指揮判断、的確だった」


メディクがやや視線を逸らしながら、淡々と語った。その声は平静だが、耳の先がわずかに赤い。


「いや、俺だけじゃないよ。メディクの魔法がなかったら、たぶん無事じゃ済まなかった」


「……うん。評価されるのは……悪くない感覚」


一瞬だけメディクの手が陽翔の袖に触れ、すぐに引っ込めた。その控えめな仕草は彼女らしく、しかしどこか意識しているようでもあった。


その向かいで、ディエットが視線を落としたまま、柔らかく微笑んでいた。


「陽翔。ああやって言えるの、私もすごいと思う。私は……あの戦い、まだちょっと怖かったよ」


「そりゃあ俺だって怖いよ。でも、誰も傷つかなかった。それだけで十分さ」


「……うん。陽翔がいてくれると、ほんとに心強いから」


そう言って、ディエットはふっと目を伏せた。頬にかかる髪が揺れ、その胸元に小さな光が反射する。


「……ただの、看護師だったんだけどな、俺」


陽翔が照れくさそうに言ったとき──


「……おい、静かにしろ。馬が集中できない」


前方から、クリラボのくぐもった声が飛んでくる。彼は手綱を握りながら、振り返りもせずに言った。


「この気温は人体にも馬にも負荷が大きい。そろそろ冷却と水分補給が必要だ。ちょうど左手に湖がある。地図にはないが、湧水由来で水質も問題なさそうだ」


「OK!じゃあ、ちょっと休憩していこう」


クリラボが馬車を止め、皆が外へ降りると、そこには涼しげな湖が広がっていた。


「盗賊達。焦がされたくなければ、ここで馬を労っていろ」


「へ、へいぃぃ」



―――森に囲まれた静かな水面。空の青を映しながら、さざ波ひとつ立たない湖は、まるで鏡のように穏やかだった。


「気持ちよさそうだな……ちょっと、足くらい浸けてみるか」


陽翔が靴を脱ごうとすると、ディエットが一歩前に出る。


「じゃあ、私が先に行くね」


彼女はすっと裾をまくり、白い脚を湖に差し入れた。


「ひゃっ、冷たいっ!」


跳ねた水しぶきが陽翔の頬に飛んでくる。


「おいおい、かけすぎだって!」


「えへへ、ごめんってば」


その様子を見て、メディクが近づいてくる。感情を見せぬまま淡々と語る。


「陽翔様、皮膚表面温度が上昇傾向。対策として、水による直接冷却が有効」


「え、あ──うわっ冷たい!」


メディクが無表情のまま、手のひらで陽翔の首筋に冷たい水を押し当てたのだ。


「冷却効果を得るには、この程度の刺激が適正と判断」


「ちょ、ちょっとは加減して……!」


その光景を見ていたディエットが、ちょっとだけムッとした顔をする。


「……ねぇ、ちょっとそれやりすぎじゃない? 私にもやらせて」


「そ、そういう意味じゃないんだけどなぁ……」


(これって、俗にいうハーレム状態だよな……。1人はエルフで、もう1人は、狐の獣人。物語の主人公はこうゆう気持ちだったのか。あぁぁぁ。良いじゃないかッ!俺、この世界に来て、始めて良かったと心の底から思ったかも……)


そのとき──


「……騒がしい」


馬車から降りてきたクリラボが、頭をタオルで拭いながらぼそりと呟いた。


「水は良質。冷却効果あり。感情の高揚も生理的効果のひとつ。……好きにしろ」


その口調はあくまで淡々としていたが、湖面を見つめる彼の目元は、少しだけ和らいでいた。


アーツが陽翔の肩に乗りながら、静かに囁く。


『……このような時間も、きっと大切なのですよ。陽翔。たとえそれがハーレムでも』


(えッ!アーツ、お前って俺の心の声まで聞こえるのか!?)


『もしわたしがグレイスを使ったとしても、そこまでは聞こえません。ですが、あの鼻の下を伸ばした表情を見ていれば、心が読めなくとも推測は容易です』


(あ、そうゆうこと……。鼻の下を伸ばしてたのか俺。少し自重しよ……)



──そして、夕刻。


焚き火の前で、みんなは濡れた服を乾かしながら、穏やかな表情で火を囲んでいた。


「……楽しかったな。ちょっと騒ぎすぎたかもだけど」


ディエットが微笑む。


「今日みたいに、誰かと笑い合える時間って……忘れちゃいけない気がする」


「うん。明日からはまた、きっと厳しい日々が待ってる。だからこそ、こういうひとときが、必要なんだろうな」


陽翔はそう言いながら、火のゆらめきを見つめた。


「騒がしかったが……悪くない時間だった」


クリラボがぽつりと呟くと、メディクが静かに言った。


「感情の安定は、精神的回復の第一歩とされます。……本日の過程は、有意義でした」


『すべての命に、休息の価値は等しくあるのです』


アーツのその言葉と共に、焚き火が優しく、静かに、星明りの下で揺れていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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