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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第3章:絶望の都と癒しの種火
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サマリ18:旅立ちの光と、罪を照らす火

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

──その朝、エルナレの空は凛としていた。

深く澄んだ青の下で、柔らかな光が街を優しく照らしていた。


陽翔たちの旅立ちを前に、《たんぽぽ亭》の前には多くの住民が集まっていた。

見送りのために、老若男女が一様に手を振り、言葉を贈る。


「ディエットさん、また戻ってきてね!」


「あなたのスープ、本当に元気出たんだ!」


「次はもっとたくさんの人を救ってあげて!」


街の人々の言葉は、まるでひとつの祈りのように優しく、暖かかった。

その中で、ディエットはひとりひとりの顔をしっかりと見つめ、何度も深く頭を下げた。


最後に、女将が静かに歩み寄り、ディエットの手を取る。


「……あんたがこの街に来たときは、本当に心配したよ。目が死んでて、まるで抜け殻みたいだった。けど……今のあんたの目は、ちゃんと生きてる。希望がある」


ディエットはこらえていた涙を拭いながら、微笑んだ。


「ここに来て、人の温かさを知りました。……今度は私が、その温かさを誰かに渡したいんです」


「……そうかい。なら、もう何も言うことはないさ」


女将は、娘のようなその背をそっと抱き寄せる。


陽翔、アーツ、メディク、クリラボも、それぞれに礼を述べたあと、馬車へと乗り込む。

エルナレの人々の見送りを背に、旅立ちの車輪が静かに回り出した。


ディエットは陽翔の隣に座り、少しだけ胸に手を当てて囁いた。


「……あなたと一緒なら、もっと誰かを救える気がする……」


 

―――昼過ぎ、馬車は緑に囲まれた山道に差しかかっていた。

木々の揺れる音に包まれながら、ディエットがぽつりと語り出す。


「……私、帝都で育ったんです。小さな食堂を家族とやってました」


陽翔たちは耳を傾ける。


「でも……戦争で物流が止まって。何も手に入らなくなって……。最初は皆、少しずつ我慢してました。でも、食べ物が尽きて、飢えて……。私以外の家族は……」


静寂が包むなか、アーツがそっと言葉を紡ぐ。


『……それでも、あなたはここにいます。生きて、誰かを救おうとしています。その事実こそが、尊いのですよ』


ディエットは驚いたようにアーツを見て、そしてふっと笑った。


「……そう言ってもらえると、救われる気がします。ありがとう!」


その隣で、クリラボが手帳を見ながら言葉を挟む。


「……料理は、栄養と摂取経路と再生力の相関を制御できる技術だ。君の献立には、再現可能な理論がある。……科学的にも、価値がある」


「ありがとう、クリラボさん」


メディクが軽く息を吐いて、微笑む。


「今度、レシピを教えて。調薬と料理って、案外似てる気がする。火加減とか、分量とか」


「ふふ……わかりました。私も精霊に好かれる味を研究してみますね!」


 

―――やがて、空気が変わった。草の音が止まり、風の流れに微かな乱れが混ざる。


アーツの耳がぴくりと動いた。


『風の流れと草の揺れが不自然です。左斜面に複数の反応──おそらく、待ち伏せです』


その言葉を受けた直後、茂みから声が飛ぶ。


「よう旅人、荷物置いてけ。命が惜しけりゃ、さっさと立ち去るんだな」


三人の男たちが、汚れた鎧に刃こぼれした剣を構え、陽翔たちを囲む。


「……この装備、間違いない。以前エルナレで目撃されてた盗賊よ」


ディエットの目が鋭くなる。


陽翔たちは即座に戦闘態勢へ。

前線に出たのは、メディクだった。静かに目を閉じ、手をかざす。


「精霊たちよ。この場の秩序を、再び整えて──」


地面からうねるように蔓が伸び、盗賊たちの足元を縛る。

一人が叫びながら逃げ出すが、アーツが冷静に告げる。


『陽翔、右から回り込んでください。逃走経路を塞ぎます』


「了解。俺は冒険者とかじゃなくて、ただの看護師なんだがなぁ……」


陽翔が動き、一瞬の誘導で男を転倒させる。あっという間に、全員が無力化された。


「……終わりだな」


陽翔はため息混じりに呟いた。

その場にいたクリラボが盗賊の装備と袋をチェックし、報告する。


「農家の刻印あり。中身は干し肉と保存食。保管状態から見て、出荷途中に奪われた可能性が高い」


ディエットが、袋を手に取る。


「……この刻印、帝都近郊の農家のもの。誰かが、大切にしまっていた食料……」


陽翔は袋を丁寧に包み直した。


「さて、こいつらどうしようか?」


「このまま縛り上げて、ここに放置してもいいがまた犯罪を犯しそうだな」


クリラボの冷たい視線が盗賊たちを刺す。


「陽翔様。私、試したい精霊魔法がある」


「どんな魔法だ?」


「火の精霊魔法。この子たちは罪を許さない。悪事を働こうとすると暴れ出し体を焦がす。逆に人助けをすると穏やかに光る。罪ではなく償いを重ねることで精霊たちの許しが出る」


普段から表情も口数も少ないメディクが、さらっと言った案にその場にいた全員が寒気を覚えた。


(こ、こわーッ!無表情なところがさらに……メディクには逆らわないようにしよ)


「どお?……だめ?」


「あ、え、いや、うん!素晴らしい魔法だね!そうしようそうしよう!君たちもいいよね」


陽翔は、何とか冷静さを保ちつつ全力で盗賊たちに話を振る。


「ふ、ふざけんな!いいわけねーだろ!」


「良いんだ……。良いよな」


盗賊も全力で反論するが、なんとかメディクを怒らせないようにしようとする陽翔の気迫に惨敗した。


「OK。じゃ、火の精霊、お願い」


こうして盗賊全員の胸のあたりに、【小さな炎】が灯った。


「よ、よし。これで解決だな。お前たちは、このまま帝都まで連行して門番に引き渡す。それまでにせいぜい黒焦げにならないように、精一杯善行を行えよ」


陽翔は、半笑しながら盗賊へ判決を言い渡した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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