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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第3章:絶望の都と癒しの種火
16/23

サマリ15:進化する絆と静かな予兆

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

──王都サルファンを出発して、半日ほどが経過していた。


陽翔たちは、馬車での移動を続けながら、地平線の先に見える小さな街を目指していた。王都の賑わいと整備された街並みとは対照的に、辺りの空気はどこか乾いており、農地と思しき土地も所々が枯れかけていた。


「……乾燥してるな。草も黄色くなってる。水が足りてないのか?」


陽翔がぼそりと呟くと、アーツが肩の上で耳を動かす。


夕方、目的の街に到着した。小高い丘の上に木造の建物が並び、城壁もなければ、衛兵の姿も見当たらない。それでも人々は静かに暮らしているようだった。


「今夜は、この街で泊まろうか。陽も落ちるし、体を休めてから帝都に向かった方がいい」


陽翔たちは街の中心にある宿屋に立ち寄った。看板には可愛らしく《たんぽぽ亭》と描かれている。


扉を開けると、中は意外にも清潔で温かみのある木の香りがした。出迎えたのは、恰幅のいい初老の女性だった。


「いらっしゃいませ。旅のお方かい?回復と安寧の街エルナレへようこそ!2部屋ならすぐに用意できますよ。金貨2枚になるけど泊まっていくかい?」


「ありがとうございます。1泊、お願いします。夕食付きで」


陽翔が礼を述べると、女将は少し表情を曇らせた。


「……ええ、用意はできます。ただ、最近ちょっと事情があってね。食材が少なくて、豪勢な料理は出せないの」


「事情……ですか?」


「近頃、盗賊や魔獣が近隣で暴れててね。農民たちが畑を離れざるを得なくなってるのさ。おまけに雨が降らないもんだから、畑も枯れちまってる。水も井戸が干上がりかけてて、飲み水すら満足にない有様でさ」


「……それは深刻ですね」


陽翔の声に、アーツが肩で尾を揺らした。


『食料と水の供給が不安定では、栄養失調や感染症の危険性が高まります』


厨房の奥から、包丁の音とともに忙しそうに動く女性の影があった。


「……あの狐人族は、ディエット。今日の夕食を作ってくれています。あの子はね、元は貴族の家に仕えていた料理人なんですよ。でも、戦争の混乱で物資が届かなくなって、ご家族を……飢えで亡くしてしまったそうです。あの子、自分が栄養のあるものを食べさせてあげられなかったって、今でも責めてるんです。……それでも、彼女の料理の腕は本物ですよ。美味しいし、なんだか元気が出る」


──夕食。


出された料理は、素朴なスープと野菜の煮込み、それに干し肉のグリル。しかし、香りは良く、見た目も丁寧に盛り付けられていた。


「……うまい。素材の数は少ないはずなのに、味に奥行きがある」

「たしかに、美味」

「そうだな。これは、王都の料理よりも美味いかもしれん」


陽翔の他、メディクとクリラボも大絶賛だ。

そんな中、アーツだけは鋭く反応した。


『……この料理、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル……限られた食材で、栄養バランスが完璧に調整されています』


「えっ、ほんとに?」


『はい、間違いありません。もし、食材が十分にあったとしてもここまでの栄養管理は困難です』


陽翔は厨房の奥に視線を向け、忙しなく料理を作る女性の背を見つめた。



──その夜、宿屋の一室にて。


木製の簡素なベッドに体を預けながら、陽翔はふと目を開けた。月明かりが窓から差し込み、部屋の中はほのかに青白い光に包まれている。


アーツが、陽翔の胸元で丸くなっていたが、彼の気配に気づき、静かに顔を上げた。


『……どうかしましたか、陽翔?』


「……アーツ。なんだか、妙なんだ」


陽翔は静かに体を起こし、右手を差し出した。すると、視界の端に、見慣れた蒼い魔紋が浮かび上がる。自らのステータス画面だ──だが、その一角に、これまでに見たことのない項目が表示されていた。


《進化可能状態──"トランスヒューマン"への進化が認められました》


『……来ましたか。条件が整ったのでしょう』


「トランスヒューマン……」


陽翔は深く息を吸い、決意を込めて《進化》のボタンに触れた。


──その瞬間、まばゆい光が彼の全身を包み込んだ。


骨が鳴るような感覚。体中を駆け巡る稲妻のような魔力。体内のすべてが再構築されるような奇妙な熱が、脳と心臓を同時に打ち抜く。


叫びたい衝動を、陽翔は必死に耐えた。


そして、光が収まった時──


陽翔の姿に、大きな変化が現れていた。


その瞳は、深い碧から淡い銀へと変化し、瞳孔には淡く輝く複雑な魔紋が浮かび上がっていた。光が差し込むたび、その紋様は幾何学的に揺らぎ、まるで“視る”という行為そのものが強化されたかのようだった。


陽翔は、震える手で再びステータス画面を開いた。


【ステータス】

〇名前:涼風陽翔

〇種族:トランスヒューマン

〇職業:看護師

〇レベル:50

〇HP:8000

〇MP:10000

【グレイス】

≪医療の恵み≫ステータス画面から、現代知識や医療材料を得ることが可能。ただし医療に関したことに限られる

【魔法】

クラン・セリス:①バイタルスキャン(対象を見るだけで、脈拍・呼吸・体温などバイタルサインを可視化する能力)


「これは……すごいな!見ただけでバイタルサインがわかるとか、魔法が使えるとか、いよいよ俺もこの世界の住人に仲間入りだな」


そのとき、アーツの身体からも淡い光が立ち昇り、彼もまた変化を遂げていた。毛並みは、かつてよりも滑らかに、光を帯びている。瞳は金と緑のグラデーションへと変化し、額には小さく淡い紋章が輝いていた。


『陽翔……私も、進化しました』


【ステータス】

〇名前:アーツ

〇種族:守護猫ガーディアンキャット

〇職業:猫の医師

〇レベル:50

〇HP:5000

〇MP:20000

【グレイス】:≪医学の恵み≫専門は内科医。実際に手は出せないが、涼風陽翔とその眷属には声が届く。また指示を出し、治療効果を底上げする能力もある。

【魔法】

アルツ=ヴェルタ:①レストア(深刻な外傷、骨折、損傷した臓器さえも修復可能な再生治癒魔法)


「アーツ……君も」


『どうやら、私たち2人は、進化を通して、次なる医療の段階へ踏み込んだようです』


陽翔は、ゆっくりと頷いた。


「この力が……誰かの命を繋ぐためのものなら……俺は、使う。迷わず、何度でも」


──その夜、「たんぽぽ亭」の一室で目覚めた2つの進化。

それは、医療という名の旅路において、彼らに新たな可能性と責任を与えるものだった。


──翌朝。


「陽翔もアーツもだいぶ見た目が変わったな。陽翔は僕と同じ種族か」

「アーツ……、神獣みたいでかわいい。モフらせろ」


早速、クリラボとメディクの視線が熱い。彼らの温かい歓迎を十分に受けた後、陽翔たちは町を歩き、状況をさらに詳しく調べ始めた。町の人々から、盗賊団の出没地点、魔獣の目撃情報、水源の異常、気候の不安定さなど、あらゆる情報を収集していく。


「メディクの精霊魔法で、この土地を救える可能性があるなら……明日、実行に移そう」


陽翔はそう告げ、町の復興に向けて動き出す。



最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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