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異世界看護師と猫の医師  作者: 十二月三十日
第2章:王都疫禍と揺らぐ信仰
13/23

サマリ12:広がる光と届かぬ影

現役看護師が執筆する医療系の異世界転生ものです。


どーぞ、ごひいきに。

──翌朝、王都内の北東区にある、教会兼平民向け診療所。


陽翔たちは、昨日診察した患者の再診を行っていた。陽翔がグレイスで取り寄せた体温計を使ってひとりひとりの体温を測り、クリラボが≪診具創成≫で生成した呼気石と試薬プレートで再検査を実施。検査結果は、アーツの診断によって明確に告げられる。


『検査の結果、全員インフルエンザは陰性です。発熱も治まり、体調も安定しているようです』


「……改めてすごいな。メディクのタミフル、ここまで即効で効くなんて」


陽翔が呟くと、アーツが肩の上でうなずいた。


『グレイスの恩恵が加わっているためでしょうね。薬効が異常とも言えるほど高まっています。まさに奇跡の調合です』


「奇跡、か……これほどの薬効が無いにしても、今後これが“普通”になれば救える命がどれだけあるか……」


そんな感慨に浸っていたところ、王女セラフィーナからの使者が現れた。


「セラフィーナ殿下より、陽翔殿一行に、玉座の間へのお越しを賜りたいとの仰せです」


──王城・玉座の間。


その荘厳な空間には、王サルファン三世、王妃エリシア、王女セラフィーナ、そして弟君リアン王子の姿が整然と並んでいた。王都の危機を救った者として、陽翔・アーツ・メディク・クリラボの四名は、王命により『医聖庁』内に新設された研究部門――アルケ・メディカへの任命を受ける。


「まずは、我が息子リアンと国民の命を救ってくれたこと感謝する。ありがとう。その上で図々しい話ではあるが、この国の医聖庁に在籍していただきたい。アルケ・メディカは、魔法と科学の知識を融合させる、これまでにない新しい医療の研究と実践の場だ。ただ、君たちの歩みを止めるつもりはないし、その力を独占する気もない。欲をいえば、この国の医療の発展に貢献してほしいが、そうゆうわけにもいくまいな。我が国は、君たちの()()()としてのアルケ・メディカ在籍としたい考えだ。これをこの度の褒美と致す」


(後ろ盾って、つまりはスポンサー的な感じだよな。医療ってお金が莫大にかかるもんなんだよな……。しかも国がそれをバックアップって。断る理由皆無だろ)


「魔法と科学の融合……それは、まさに俺たちの目指している医療の形……!これ以上ないご提案に感謝致します。謹んでお受け致します」


陽翔は拳を握りしめた。王女と王子からも感謝の言葉が贈られた。


「リアンの命を救ってくださった恩、決して忘れません」


「体が楽になった……本当にありがとう、陽翔殿」


王と女王もまた、穏やかに微笑んで彼らを称える。


「君たちのような者が、今この国にいてくれることを、神に感謝する」


──その夜、王城ではささやかな祝宴が催された。


長テーブルには、王都サルファンの名物料理が豪勢に並ぶ。焼き白魚の香草包み、魔獣肉のグリル、薬草と山菜の炊き込み飯、さらには貴族も好んで飲む王都の地酒フレイル・ブルーが各席に振舞われた。


「こっちの肉、やわらかい……! でも香りはしっかりしてる。すごい……」


「この青い酒……魔力の余韻みたいな感覚がある……」


陽翔たちは、ほんの束の間だけ訪れた穏やかな時間に身を委ねていた。


「陽翔。王からの褒美どうでした?」


背部から聞こえる声の主は王女セラフィーナだった。意味深な笑みを浮かべてでこちらを見ている。


「とてもありがたい提案で大変恐縮でした。……?まさかセラフィーナ様、裏から手を回しました?」


「さぁ、なんのことでしょう?これからもよろしくお願いしますね。陽翔」


(なんか他にも色々考えているような気もするが、今日はお酒も入っていい気分だし、なによりスポンサー契約ができたわけだから良しとしよう)


──翌朝。休日。


陽翔たちは王都の視察も兼ねて、疫病の去った市街を散策していた。


通りには活気が戻り、露店では香辛料や薬草が売られ、街の人々も久々に笑顔を見せていた。メディクが初めて訪れる市場に目を輝かせる一方、クリラボは黙々と街の構造を記録していた。


陽翔は、ふと立ち止まって呟いた。


「やっぱり、こういう日常が守りたかったんだよな……」


『病に奪われる日常を取り戻すことが、看護師としての君の本分なのでしょう』


アーツの言葉に、陽翔は小さく頷いた。


「看護師はね、命だけじゃなくて生活も()()仕事なんだよ」


その瞬間、どこからともなく泣きながら走ってくる少女が陽翔たちに抱きついた。


「お願い……助けて……! お父さんが……お母さんが……!」


薄汚れた布をまとったその少女の体は、震えていた。


「落ち着いて。君の名前は?」


「シーナ……わたし、下街に住んでて……お父さんは熱で寝込んで……そのまま……。お母さんも、もう何日も動けなくて……」


「熱が出てきたって……君も?」


少女の額に手を当てた陽翔は、はっと目を見開いた。


(これは……まさかインフルエンザか……!)


「陽翔……。この子の住んでいる下街という地域は、王都の外縁部に存在する貧困層のスラムだ」


クリラボの表情が一気に強張る。


「そ、そんな場所があったなんて……」


陽翔は、思わず唇を噛んだ。


(王都での感染者の治療ばかりに気を取られていた……。スラム街の存在。この時代、こんな大都市だ。影では、そうゆう人達だっている。日本で育った俺は、ぬるま湯に浸りきっていた。前の世界にだってあっただろう。都市の貧困地域が多い国が……。肝心の、最も脆弱な人たちへの対策が……全く追いついていなかったんだ)


「ごめん……俺たちは()()()()()のに、そこまで届いてなかった……」



最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続きお楽しみください。

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