魔女と風の魔女3
「じゃあ早速孵化させよう!」
外の砂漠から戻ってきたシルフィードは惚れ惚れするような喜色満面の笑みで言う。
先程の勝手がなかったかの様に反省の色は全く感じられない。
クフェアも命の魔女の事や命の魔女が扱う魔法については知っていた。
自分を媒介に作り出す生命にまったく興味が無かったわけではない。
だがこれは余りに突然の出来事、既に卵の存在は既に許して入る。
しかしシルフィードの所業に関してはシルフィードの性格上仕方がない事ではあるが最早許す、許さない以前に軽く頭痛を覚えるレベルだ。
「ティアードが言ってたんだけど、この卵は提供した対象の一部の保持者、つまり親に成るボクらなんだけど。
そのボクらの魔理を卵に込めることによって卵に命の力が巡り卵が孵化するんだって。
あっ、ティアードって言うのは命の魔女の名前だから。
彼女卵に関してスッゴい厳しくて懇切丁寧って言うか鬼気迫ると言うか兎に角スッゴい真面目な顔して言うんだよ。
あれはもし孵化に失敗するようならボクの命を刈り取るつもりだよ、絶対」
似たような生命を産み出す魔法を扱うのでクフェアにはティアードの気持ちが理解できる。
自分が大事に産み出した生命が大事に扱われず乱雑に扱われるなんて許しがたい冒涜だ。
「……そう。
この卵に魔理を込めればいいのね」
クフェアはシルフィードの言葉にしたがい身体に巡る魔理を卵に注ぐ。
側で同じくシルフィードも身体を巡る粒子、魔理を卵に注ぐ。
魔理
魔女の身体を流れる粒子。
魔女はこの身体に流れる魔理を媒介にし人為らざる力、魔の理たる幻想具現を行い己に定まりし魔法を現実のものとする。
魔女だけに捧げられた奇跡の力。
魔女だけに流れ
魔女だけがこの世界において秩序たる定まりし現実を破棄し幻想を露にする力。魔女だけに許された魔法を行使する為の粒子。
本来ならそうであった。
しかし現在この秩序が壊れた世界においてこの粒子が流れるのは魔女だけではなくなった。
世界が崩壊した日に何者かの思惑か或いはただの偶然か粒子が世界中に散布してしまった。
広がった粒子は疫病のように広がり続け生を生きるものに感染していった。
これを
有るものは幸福と言い
有るものは奇跡と言い
有るものは侵略と言い
有るものは呪いと言う。
そんな様々な言い様で言われる粒子であるが疫病で言い顕せらる様に全てが感染するのではなく成るもの、為らざるもの即ち個体差は有った。
直ぐに魔法を手にするも。
時間を掛けて魔法を手にするもの。
親は魔法を手にせずだが産まれた子が魔法を手にするもの。
どんな結果に成ろうともこれ等はまだ良い結果だと言えよう。
心はどうあれまだ生物の外見を持っているのだから。
最悪なのは魔理が感染し魔法を手にしたが魂が堪えきれず堕ちていったものだ。
人以外の陸海空の有生物、無生物
哺乳類、魚類、鳥類、両生類、爬虫類、昆虫類等の堕ちた名称をこう呼ぶ
魔獣と。
クフェアとシルフィードが抱える卵は二人の魔理をこの世に孵る為の栄養とするかのように吸いとり卵全体に巡らせる。
数分ぐらいだろうか二人の魔理を巡らせていた卵は
カタカタカタカタかたカタカタカタカタ
揺れを起こし始めた。
手の中で揺れ動く卵にクフェアとシルフィードは落とさぬようにされど強く握りしめないように抱き締める。
ピキ…
卵に亀裂が入る。
卵の内に宿る新たな生命が外に出ようと懸命にもがく。
そのもがきに比例するように卵には幾つもの亀裂が刻まれる。
そしてその時はきた。
亀裂に耐えきれなくなった卵は割れクフェアが静かにシルフィードが興味深げに見守るなか卵の内に宿る生命がまだ見ぬ世界へと歩みだす。
バキバキバキッ
外の世界に産まれた新たな生命が初めて見るのは何も知らない世界にて自分を見守る大きな生命。
初めてだがその生命が何なのかは生命に宿る魂が理解している。
自分の親だと。
「おめでとう」
そう自分を見つめる産まれたばかりの生命にクフェアは淡々とだが慈しみが宿った言葉を掛ける。
クフェアの視界の端ではシルフィードが自分の子の誕生に喜びはしゃいでいた。
卵の殻を植物に片付けさせたクフェアは嬉しそうに自分の膝に座る生命を観察する。
「植物と言うよりは木、切り株に近い形容。
切り株の子ども、一見すると植物の魔獣に近い」
大きさは生命が入っていた卵のサイズより一回り小さくはあるが別に何かしら問題が有るようには見えず此方を嬉しそうに見る生命は健康そのものだ。
唯一問題と言うか変わっているのはその木の形容だ。
顔、目や口はあり手足もあるが頭から爪先迄皮も含め全てが木。
クフェアが形容するようにクフェアの卵から産まれたのはまさに切り株の子どもと言った形容をしていた。
切り株の生命はクフェアの膝に座りながら目的なく手足をブラブラと動かす。
「ねぇ」
クフェアは切り株の生命に声を掛ける。
産まれたばかりで言葉自体の意味を理解できているかは定かではないが自分に掛けられる声に切り株の生命は嬉しそうにしている。
反応はするが言葉と言う言葉はない。
「耳に似た器官はないけど、此方の声は聞こえている。
それとも声と言うより音か振動として聞こえているのか。
言葉の方は穴、これが口かしら。
全く何も発しないとこを見ると喋る、音を発することはできないみたいね。
目の方も似た器官は見受けられるけど目としての役割を果たしているのか分からない。
此方を視覚として認識にしているのか私の魔理を感じ認識しているのか。
分からないことだらけね」
考えるクフェアを心配したのか膝に座る切り株の生命は短い木の手精一杯伸ばしクフェアを元気付けようとしているかのように抱きつく。
「大丈夫よ」
懸命に自分を思う切り株の生命の木の肌を触りながらクフェアは言う。
そんなクフェアにまるでほんとうにと
問うように見上げる切り株の生命。
「分からないことばかりだけどあなたにちゃんと心が有ることは分かった。
良かった、あなたが私とは違う優しい子で」
「いやいやそっくりだよ。
流石はクフェアの子どもだね」
いつの間にかシルフィードが側までやってきていた。
「よく親が悪人でも子は善人。
親は親、子は子って同じ血を引いていても別々のものって言うけどさ、やっぱり同じ血、あっボクらは魔理だけど流れているものが同じなら根幹は同じなんだよ」
シルフィードはまるで学者の様にしたり顔をしながら頷きながら言う。
ついでにシルフィードの肩に座る小さなシルフィードも真似する様に頷いている。
「………その子」
クフェアも状況から察するにシルフィードの肩に座る小さなシルフィードが何なのかは察しがつくが大きさ以外全く同じ容姿に思わず何度か見比べてしまう。
クフェアの膝に座る切り株の生命もクフェアの真似をしシルフィードと小さなシルフィードに目を行き来させる。
「へぇ~スッゴい可愛いじゃん。
まっ可愛さで言えばボクのシルヴァも負けてないけど!」
シルフィードの子はシルフィードと同じ容姿なだけに自画自賛と言われてもしかたない言い様だ。
「そうね」
「でしょでしょ!」
クフェアも本来ならシルフィードを誉めることはない、と言うかクフェアからしたら普段から誉められることをしてないシルフィードだがシルフィードはシルフィード、シルフィードの子はシルフィードの子、そこは同一視せず誉める。
シルフィードも本来ならクフェアが自分の容姿を誉めたと言う現状悦びを露にクフェアに抱き付くとこだがクフェアが誉めたのは自分の子シルヴァ、子の手柄を自分のものにはせずシルヴァが誉められた事を誇らしげにする。
シルフィードのこういった所はクフェアも評価はしている。……………しているのだが
「で!ボクはボクは!ボクも可愛い!?クフェアの口から聞きたいな!」
こういったとこは余計だとも評価している。