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魔女の世界  作者: 明夢
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魔女と風の魔女2

砂漠の大地を動くものあり。

見るものあればその摩訶不思議なものに驚愕を表す。

砂漠の砂ではない。

砂なら砂漠の大地であるこの場において自然であり特質するべくもない当たり前の現象。

故にそれは生きているもの、生物である。

動きある生物であるならば砂漠の大地を動いていても不思議ではなく驚愕はない。

だが、これは生物と云えど当然だと納得出来るものではないだろう。

何せそのものは砂漠を横断する植物の家だから。


家の下に蠢く複数の植物の幹はまるで足の様に器用に動き砂漠を横断する。

その有り様は人間の足のようと言うよりはタコの足が海面を踏みしめ移動しているように思える。


植物の家は主の意思により進み行く。

主の想いのままに主の為に。

だからこそその意思()を阻むものは赦さずに処する。

横断の中砂漠に蠢き此方を害するものあらば砂漠を踏む植物の幹()とは別の植物の蔓が変種を遂げた獣達を絡めとり食し肉も骨も皮すら残さず養分とする。


「何度も思うけどやっぱりこの家すごいな~」

シルフィードは開け放たれた窓の側から外を見ながら感嘆を示す。

「そりゃあ魔獣(ジャバオック)なんてボクやクフェアからしたらとるに足らないただの生き物と変わんないけど……あっまた食べた」

「当たり前よこの子なら」

クフェアは植物が食し養分にする度に植物のテーブルから出現し花から様々な形状様々な色取り取り植物の種を手に取りながらシルフィードの思いをさも当然の事と返す。

「おお、大収穫ですな」

外からクフェアの視線を移したシルフィードは口笛を吹きその様子を見る。


翠の魔女であるクフェアの魔法は植物を扱う。

しかしそれは無から突如として植物を産まれさせるものではなく植物の種を急激に成樹に成長させ扱うものだ。

その種も自然に有るものだけを使用するのではなく現在の様に生物を養分とした植物から種を生誕させ使用する。

そして生誕した種はただの種ではなく養分とかした生物の特色、特技、能力、を備える種として産まれる。


火を生み出す生物なら火を生み出す植物に。

水を生み出す生物なら水を生み出す植物に。

光を生み出す生物なら光を生み出す植物に。

クフェアの周りは生活、戦闘全てこうした植物によりまかなっている。


「何か新しいのはあった」

「いいえ」

「そっか残念だね」

「いいえ」

「うん?」

「この子たちの産まれは私にとって嬉しいことであり残念なことなんて一つも無いもの」

「クフェアらしいね、まぁボクもクフェアの気持ちは分かるし。

そしてボクはそんなクフェアもだ~い好きだよ」

シルフィードへつつがなくアピールするがクフェアは既に魔獣(ジャバオック)を養分とし生誕し続ける種の方に意識を向けていてシルフィードのアピールを聞いてはいない。

例え目新しい種が無かろうと植物を好むクフェアからすれば全てが宝石に等しい。


そんなクフェアの気持ちはシルフィードも共感する。

クフェアが植物を好む用に風の魔女であり魔法で風を操るシルフィードは風を好む。

つむじ風だろうがそよ風だろうが霧風だろうが嵐だろうが竜巻だろうが暴風だろうが全ての風を好む。



「あっ、そうだすっかり忘れてた」

魔獣(ジャバオック)の襲撃も落ち着き種が生誕しなくなった頃シルフィードは忘れていた事を思い出した。

それは愛しきクフェアの側を離れてまでもしたかった事だ。

「え~と……」

シルフィードは腰につけたバックを開き中に手を入れ探りだす。

「あっ、あった!あった!」

シルフィードがバックから取り出したのは明らかにバックの大きさ要領を超えた卵だった。

それも模様が異なる2つの卵。


シルフィードが腰に掛けたバックはただのバックではない。

鞄の魔女の収納の魔法により作製された魔法の鞄だ。

この魔法の鞄は無限の要領ではなく有限の要領ではあるがその要領は鞄の大きさとは比例せず沢山のものを収容できる。大きさ重さを問わずに。

つまり人間の胴回りの大きさの鞄だろうと車一台収納することができる。

しかも幾ら収納しても鞄の総重量は鞄の重さだけという。

ちなみにクフェアも様式は違えど鞄の魔女作製のものを持っている。


「はい、こっちはクフェアのね」

シルフィードは風の模様が入ったスカイブルーの卵を持ちながらもう片方の全体が翠色の卵をクフェアに手渡した。

「…………」

クフェアにはこれが何の卵かは分からないが何か卵から感じるものがあった。

クフェアはシルフィードから卵を受け取ると卵を観察する。

鳥、魚、蛇、いや違う。

知識にある生物を思い浮かべるがどれもが違う。

魔獣(ジャバオック)

違う。

不可思議な卵、もしかしたら魔獣(ジャバオック)の卵とも考えたがそれとも違うように感じる。

「どう、どう、クフェア。何の卵か分かった」

シルフィードへは渡すだけ渡して何の卵か答えずクフェアを試すように悪戯顔で聞いてくる。

その顔にまた外に投げ出してやろうかと思うクフェアだがシルフィードを意識外に飛ばし卵に心を傾け精神を集中する。

集中したクフェアは自分が感じるものが分かった。

……私?

共感する様に何故かは分からないが手に持つ卵から自分を感じる。

まるでこの卵が自分を元に産まれたかのように。

「……これはなに」

「フッフッフ、クフェアこれはねボクらの卵さ」

「…………」

したり顔で既に分かっている事を宣うシルフィードにクフェアは外に投げ飛ばすべく蔓を仕向けようとする。

「ちょ!?まったまった!?違う違うから!?」

そんなクフェアの意を感じたシルフィードは慌てて弁明をする。

「なにが」

何時でも瞬時に投げ飛ばせる体勢をとるクフェアはシルフィードの弁明を聞く。

まるでその様は死を迎える罪人の最後の贖罪を聞くかのようだ。

「これはボクらの卵なんだよ!」

「……」

無駄な時間だった。

この期に及んで最後の弁明がなにも変わらないことだとは。

己の罪を改める意思はなしと処罰を実行としようとしたクフェアは次にはなたれたシルフィードの言葉に驚き処罰を止めた。

「命の魔女に頼んで産んでもらったボクらの卵なんだよ!!」

……まぁ驚きと言っても僅か、ほんの数ミリ程の僅か眼を見開いただけだが。

しかしシルフィードみたいに表情豊かではなく植物に接する以外ほぼ表情が変化がないクフェアからしたらこの僅かでも大変な変化ではある。

「………」


命の魔女。

それは己が魔法、卵産の魔法にて命を作り出す魔女。

対象の一部を身体に取り込むことで取り込んだ対象の力を備えた生物の卵を産むことができる。

クフェアが種なら命の魔女は卵。

産まれるものは違えどクフェアと類似する魔法である。


クフェアは驚いた。

よくよく見なければ分からない程であるが驚いた。

命の魔女に―――――――――――――――――ではなくシルフィードが起こした自分が全く関与していない行動にだ。

思い出してほしい。

シルフィードは自分が持つ卵は自分のクフェアに手渡した方の卵はクフェアの卵と言っている。

そして命の魔女は対象の一部を身体に取り込むことで対象の力を備えた生物の卵を産む。

つまりクフェアの持つ卵がクフェアの卵ならそれはクフェアの一部を命の魔女が取り込みんで産んだと言うこと。

しかしクフェアは自分の一部を命の魔女に渡した覚えもましてや卵を産むよう頼んだ覚えもない。

ということは今自分の目の前にいるチラチラと此方の反応を伺う奴が自分の一部を勝手に持っていき勝手に卵を産むよう頼んだと言うことだ。

このあまりの所業に流石の動じない精神のクフェアも驚きをあげるしかない。

まぁそれでも分かるか分からないぐらいの変化だか。

「なにを」

「うん?あっ!クフェアの一部のことなら大丈夫だよ!無理に取ったとかじゃないから、ほら前にクフェアの髪を整えた時に僅かに切った髪を持っていたからそれを使っただけだから」

目の前にいるシルフィードは笑顔で常人ならドン引きするようなとんでもない事を平気で宣う。

「まぁボクも大事にそりゃあ大事に保管していたクフェアの綺麗な髪を手放すのは躊躇いがなかったわけじゃないよ。

でもボクが一番大事なのはクフェアに喜んでもらうことなんだ、だから泣く泣く自分を抑え我慢して卵を産んでもらったんだ。

どうボクって偉いでしょ!」

シルフィードはそのどや顔とその言葉を最後に砂漠を横断中の家から植物の蔓によって投げ飛ばされた。

ちなみにシルフィードの卵には罪は一切ないのでシルフィードを投げ飛ばす前に安全に確保していた。

親の罪は子の罪にはならず。


クフェアは卵を見ながら思う。

命の魔女もいい迷惑だっただろう。

卵を頼んでおきながらその一部を泣きながら惜しみながら差し出してくる馬鹿には。


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