魔女と少年
世界は終わりを迎えた。
人間は有限の資源を際限なく欲望の為に使いつくした結果待っていたのは崩壊。
文明は絶え人々は荒れた世界の中死を待つしかなかった。
だがそんな世界にも一筋の希望があった。
人型兵器。
世界が崩壊することを予期し未来を紡ぐ事を考えた一人の学者が作り出した。
どんな技術を用いて創られたのかは学者以外解りはしなかった。
何故ならそれはまさに奇跡のような存在で有ったからだ。
科学を越えお伽噺な魔法を者達。
それは神にも悪魔にもなる力を持っていた。
見渡す限り砂しかない砂漠を歩いていく。
喉は枯れ体は今すぐにも倒れそうなぐらい疲労で一杯。
もう倒れて楽になってしまいた。
だけど――――――出来ない。
僕にはやるべき使命がある。
それは僕の命よりも大事で重い使命。
それを果たし終えるまでは楽になんて成るわけにはいかない。
だから歩く、歩く、歩く。
この先に有るものを信じて。
目を覚ますとそこは知らない場所。
どうやら僕は気を失っていたみたいだ。
ベッドに寝かされていたところを考えると誰かが僕を運んだのだろう。
誰かは分からないが当たりを見渡した僕は何が僕を運んだのかは分かった。
明かりを灯す植物。
水を出す植物。
家具の何から何まで全て摩訶不思議な植物?で出来た家。
こんな家を造れるのはあれしかいない。
「気がついたようだな」
その存在は植物で出来た扉を開け入ってきた。
腰まである長い翠の髪を靡かせた透き通るような白い肌と翡翠の瞳を持った女性。
「魔女」
そう人型兵器。
魔導の力を持った女性。
僕が探し続けていた命よりも大事で重い使命だ。
女性から水をもらい喉を潤した。
枯れた喉に冷たい水はまさに生命の補給に等しい。
「―――ハァア生き返る」
あまりの至福に幸福の息を洩らす。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
「そう」
お礼を言うが女性はまるでどうでもいいかのように植物で出来た椅子に座り手元の本に目を通しながら僕を一瞥することもなく淡々と言う。
「はい。ほんともう駄目かと思いました。でも貴女のお陰で命を繋ぐことが出来ました。どんなに言葉を尽くそうがこの感謝の気持ちが尽きることはありません」
「そう」
僕はいかに女性に感謝をしているか熱く言葉を尽くすがそれでも女性の態度は一切変わらない。
そんな女性との空気感に気まずさを覚えた僕は話を変えると共に僕の使命の為に本題を話そうとした。
今から女性に言うことに対し緊張が僕の体に表れる。
だけどやっと巡った幸運だ臆病をさらし引くなんて絶対に出来ない。
「貴女は魔女ですよね?」
「そう」
やった!やった!思わず感激で跳び跳ねたい想いを抑える。
「僕はずっと貴女を探していました!!翠の魔女である貴女に会いたくて!!」
全然抑えられていなかった。
思わずストーカー紛いの言葉を大声で叫んでしまった。
「そう」
淡々と返す女性。
僕は自分のしでかしたことに気付くと恥ずかしくなり顔を赤らめた。
「あっ、いやその違うんです。いえ貴女に会いたくて探していたのは本当なんですが……すいません」
初対面であらり生命の恩人の女性に対しあまりに失礼な態度に恥ずかしさと申し訳なさで縮こまる。
「別に謝ることではないわ」
女性は何でもないように言う。
女性が僕に気を遣ったのではなく本当に僕の謝罪に興味が無いのが僕にも感じ取れた。
「あ、あはははは」
僕はいたたまれない空気にから笑いする。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
無言の時間が過ぎるなか僕は聞いてみた。
「そのー聞かないんですが?」
「なにを」
「えーと、その僕が貴女を探していた訳を」
「べつに」
「…………」
き、気まずい!。
だがここで折れては今までの頑張りが無意味に成ってしまう。
それだけは絶対にあってはならない。
だから僕は強引だと思われようが構いやしないと覚悟を決め出たとこ勝負にかけることにした。
「僕の住んでいた所はとても貧しくその日を生きるのも大変で多くの人が飢えと病で死んでいきました。
僕の妹も友達も死にました。
それに対し僕は泣くことしか出来ず自分の無力さを呪ってばかりで」
「…………」
女性は僕の話を聞いているのかは分からないが僕は続けていく。
「僕に泣くこと以外出来る事はないのか必死に探していた時です噂を聞いたのは。
貴女の、翠の魔女の噂を。
冠するは翠の魔女。その魔女不思議な植物を創造し体だけじゃなく心の飢えすら満たす貴く清廉であると」
「…………」
「貴女の事ですよね」
この女性こそ噂の翠の魔女で間違いではないとは思っているが念のため聞く。
「ええ」
!
「噂は知らないけど翠の魔女を冠するのは私だけ」
間違いじゃなかった!!いや疑ってはいなかったがこれで本当は間違っていたらどうしようと気が気でなかったのも事実だ。
ああ良かった!!これで使命が果たせる!!。
……ダメだ!。
本人だと分かった以上は失敗は絶対に許されない。
僕は流行る気持ちを抑えながらベッドの上に正座する。
正座。
相手にお願いをする際に最も真摯な姿勢。
昔の世界では絶対に失敗出来ないことを
相手にお願いする際はこれが支流であったと近所に住んでいた今は亡きおじいさんが言っていた。
「お願いします。
行きなりの事で失礼なのは重々承知なんですがどうか僕と一緒に来て僕らを救ってくださいませんか。
貴女しか僕らを救える人はいないんです」
僕は頭を下げ言葉を尽くす。
「いや」
にべにもなく断られた。
泣きそうになる。
だがめげ…めげない、めげるわけにわいかない。
ここでハイそうですかと諦めたら全てが終わりだ。
………そうして僕は何度も頭を下げ言葉を尽くした。
結局女性は頑として承諾することはなかった。
なので僕は考えを切り換えた。
正直今すぐにでもと言う思いはあるが承諾がない以上無理矢理つれていくわけにはいかない。
もしそれで女性の機嫌を損ね最悪戦闘になってしまったら僕なんて一瞬て終わってしまう。
なら多少時間がかかろうともまずは僕と言う人間が信用足る人間だと信頼してもらい妥協であろうとも来てもらうしかない。
そう考えた僕は体が回復しきってない事もあり女性に下働きでも何でもするからと住み込みを頼むことにした。
これもにべもなく断れるかなぁと言う思いは有ったものの以外にも女性は拒否しなかった。
といっても「いや」と言う否定の言葉はなく沈黙だったけれど。
ま、まぁ今までの事から否定の言葉は無いと言うことは大丈夫だろ。
そう解釈した僕は女性の家に住むことになった。
月日はたって僕の体もほぼ万全とまで回復をした。
回復の間はただで住まわせている身分なので下働きでもしようと色々してみたが結果として僕は完全に要らない子でしかなかった。
罪悪感や不甲斐なさで泣きたい気分だ。
しかし、しかしだ、言い訳ではないが仕方なくないか。
だって僕がクフェアの手伝いってなにするの?。
クフェアは翠の魔女さながら全てをその用途の植物で賄っている。
食事、掃除、洗濯。
僕が手を出すよりも完璧に出来てる。
というか逆に何かしようとして要る僕が邪魔に成っている。
完全に要らない子だ。
本当に申し訳なさをが僕の中を通り越し空の彼方まで飛んでいく。
そんな僕ではあるがは一切僕に出ていくようには言わなかった。
もしかしたらだがクフェアは僕の回復の邪魔をしないように気を遣ったのかな…………ど、どうだろうか?。
ハッキリとそうだとはいえないな、
ここ数日でクフェアの事を僅かだが知ることは出来たが今だによく分からない部分が多い。
分かったのは翠の魔女の名前がクフェアと言う事。
これはクフェアから僕への信頼のあかしとして教えてくれた、ってのが理想ではあったんだけど偶然にもクフェアの持っているものの中にこの名前が記されているのがあり可能性として聞いてみたら無言だったからだ。
クフェアは僕のお願いを断ったみたいに違うなら違うとハッキリ言うだろう。
なので無言と言うのは肯定の証だ。
他に分かっていることはクフェアが片付けが苦手ということを無頓着と言うことだ。
というのも読んだ本は直さずにそのまま脱いだ服は脱ぎ散らかしたままだからだ。
まぁその本や服もこの植物の家が自動的に蔦を伸ばし片付けたりしているとこを見ると案外ずぼら………片付けが出来ないと言うよりは自分がする必要が無いからなのかもしれないが………いや絶対めんどくさいからだろ。
無頓着と言うのはもうなんだろう、僕が異性だと微塵も思っていないのがハッキリと分かる。
平気で顔色を微塵も変えず僕の目の前で服を脱いだり着替えたり、下着も植物が片付けるまでそのまま。
僕も年頃の男だ。
女性が目の前であわれもない姿を晒して平気ではいられない。
それも見た目が素晴らしい女性なら尚更だ。
だがここで欲望を晒し行動した場合僕の辿る未来は暗闇しかない。
自制心を鋼のように堅くして抑えている。
そしたら今ではクフェアが全裸であろうとも脱ぎたての下着があろうとも慣れなものだ。
…………すいません見栄を張りました。
今でも欲望と戦っています。
頑張れ僕!負けるな僕!
しかし魔女と言うのは皆こうなのだろうか、超常的力を持つゆえの他者への関心が薄い或いはもう無関心までいっているのかそれともクフェアだけがそうなのか。
…………どっちもどっちだな。
夜僕はベッドに横になりながら思考を巡らせる。
どうするか…。
明日には完全に回復する。
これ以上は引き延ばすことは出来ない。
仲間の事を考えるともう猶予はない。
つまり明日が最後だ。
このままじゃあ幾ら頼んでもクフェアが僕の頼みを聞いてくれ一緒に来てくれる可能性はない。
なら……。
僕は最後の手段を使うことを決めた。
押してダメなら退いてみよだ。
朝になった。
僕は軽く体を動かし体が完全に回復しきった事を確認した。
うん、問題はない。
身支度を整え終えるとクフェアに向かい別れを告げる。
「ありがとうございました。
お陰で元気に成りました」
「そう」
「今まで無理を言ってすいません。
貴女は僕の命を救ってくれたのに、僕は自分の都合ばかりを……」
僕は手を握り締め申し訳なさと悔しさを交えた顔で言う。
「僕はほんと身勝手な人間です。
優しい貴女とは違って」
僕は首を横に降り今度は笑顔を浮かべ決意を言う。
「頑張ります。
どうなるかなんて分からない。
だけど僕は、僕達は生きてる限り精一杯頑張っていきます。
他人にすがるのではなく自分達の足で小さくても一歩一歩懸命に歩いていきます」
「………」
無言のクフェアが僕の言葉をどう思っているのか分からない、だけどもしも少し、ほんの少しでも何かを想ってくれたのなら……。
「改めてありがとうございました」
僕は頭を下げ感謝を伝える。
「じゃあこれ以上此処にいても迷惑ですのでもう行きますね」
僕は数日過ごしたクフェアの家を出ると
砂漠を歩き出す。
さてどうだ…。
「まちなさい」
!。
去り行く僕に家から出たクフェアが待ったを掛けた。
これはもしかして。
「これを」
クフェアは手に持っている植物の種を僕に見せる。
どうやら一緒に来てくれるというわけではないな。
クフェアが僕に見せる種が何の植物の種かは分からない。
だけどこの状況からきっと何か僕達を救う為のものだろう。
結局一緒には来てくれる事はないがクフェアからの選別に苦笑いしながらクフェアに近づいていく。
(あーあやっぱりこうなったか)
僕はクフェアの手の届く距離まで近づきながら……
グサグサグサグサ!!
「グッ!…な…なんで」
そんな僕を砂漠の中から出た幾つもの植物の蔓が貫いた。
体を貫く植物の蔓に血を吐きながら懐から出そうと掴んだナイフを落とす。
「………」
クフェアは痛みに呻く僕を無言で見ている。
「な…なんでこんな」
僕を貫いたのは植物の蔓、なら犯人はクフェアしかいない。
だからこそ問う。
「なんで…分かった」
僕がクフェアを殺そうとしていたことを。
僕の行動は完璧だったはずだ。
一滴の違和感も感じさせないほどに完璧だったはずだ。
今までの経験を成長に繋げ演技ではなく自分の命を死に晒してまで本当に弱りきり弱者になり助けを求めた。
なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになんでだ!
僕がお前を殺そうとしたのが分かった!
「………」
血を吐き苦悶に晒されている僕が問いをかけてもクフェア変わらず無言。
そんなクフェアに僕は増悪を晒す。
「クソガ…この化け物め…お前ら化け物は…生きていちゃあ…いけないんだ…全部…全部…お前ら…化け物のせいだ…この腐った世界も…僕達の不幸も…お前らが…お前ら化け物…がいるから」
何が終わりを迎えようとする世界を救う為だ、何が世界の救世主だ、何が奇跡の魔法だ、世界を終わらせたのは他でもない魔女だ。
救いは無く人間に絶望をもたらしたのは魔女だ。
全部全部お前ら魔女のせいだ。
両親が病で死んだのも妹が餓えで死んだのも全部全部他ならぬお前ら魔女のせいだ。
赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない。
お前ら魔女をこの世から根絶やしにする。
僕はその使命だけを糧に同じ志を持つ同志たちと共に苦しみに歯を食い縛り、悲しみに拳を握り、痛みを耐えぬき、怒りを胸に生きてきた。
そうやって今まで何人もの魔女を欺き騙し殺してきた。
奴らを殺した時は自分達が正義を成したという事実から何ともいえない悦楽があった。
僕達に欺き騙された魔女達の絶望の怯え哀しみ、滑稽で堪らない。
なんで?
と言う魔女もいた。
そんな魔女に僕は嗤いながら言ってやった。
お前が生きてはいけない化け物だからと。
そして今回もそうなるはずだった。
いや成らなければならなかった。
僕達がしているのは正義なのだから!
僕達がしているのは世界の浄化なのだから!
最初の計画では仲間の所に呼び込み一気に殺すはずだった。
何故ならこの魔女が強力な魔女だと聞いていたからだ。
だが今までの経験からそれがこの魔女には難しいと感じ僕自身が殺すことに切り換えた。
一見多数より一人に切り換える方が不利だと思われるが魔女とはいえ僅かな心が有ればその隙をついて殺す場合は逆に一人の方がタイミングを掴みやすかったりする。
そしてそれは上手く行きそうだった。
完全ではないが僅かな信頼を経て自身の領域足る家の外まで連れ出した。
あと一歩、ほんのあと一歩だったんだ。
なのにこの魔女は!大人しく殺されていればいいものの!。
「呪われろ…呪われろ…呪われろ…呪われろ」
今だに変わらない顔で僕を見ている魔女に呪詛を吐き続ける。
この魔女に絶望が訪れることを祈願し吐き続ける。
「呪われろ…呪われろ…呪われ…ろ…呪わ………」
「言われなくてももう呪われているわ」
僕の最後の意識が消えかける時そんな魔女の言葉が聞こえた。
そして僕は命を終えた。
「喰らいなさい」
クフェアは目の前の男の死を見届けると植物に命令を出した。
男から植物の蔓が離れると地面から大きな蔦が現れた。
蔦は先から裂けると口を露にし男を一口で喰らった。
男を栄養として喰らった蔦からは芽が羽吹やがて淡い赤い花を咲かせた。
クフェアはその花を優しく摘むと花を眺める。
「きれい」
花を摘まれた蔦はまた砂漠の下へと帰る。
暫く花を眺めていたクフェアは満足し身を翻しまた家の中へと戻っていった。
男が死んだのは間違い故だ。
クフェアの領域は植物の家だけではなくその植物の根が届く範囲迄だ。
その範囲内でクフェアに対し殺意を行った対象に対し植物がクフェアを守るために自動的に対象を攻撃するもの。
クフェアの意思とは関係が無い。
つまりクフェアが例え隙を見せて無防備で有ったとしても植物の家の外で有ったとしてもその領域内ではクフェアは鉄壁であった。
その領域を間違いだからこそ男は死んだ。
そして別にクフェアは男を最初から殺そうとはしていなかった。
死にそうな男を助けたのは紛れもなくクフェアがそうしたかったから。
植物の種も実れば枯れた大地を癒し整えるものだった。
かといってそこに善意が有るかと言われれば難しい。
クフェアはただそうしただけ。
つまり善意ではなくただそうしたいと思ったからしたまでだ。
だから男が自分を殺そうとした事などどうでもいい。
そんなの今までに何人も見てきた。
魔女を憎み蔑み恐れ怯え殺意を抱いた人間を。
人間の姿をしているが人間ではない力を持った者の宿命。
だからこそそんなのに相手がどうであれ構っていてはきりがないし無駄でしかない。
だけど別に自分の死を良しとしているわけでもない。
だから決めているだ。
殺意を抱いた者はどうでもよくても殺意を行った者は此方も行う。
クフェアは手に持つ赤い花を植物で出来た花瓶に入れると椅子に座りながら何時ものように本を読む。
まるで変わらず何事もなかったかのように。
クフェアの植物の家から離れた砂漠の先では男の仲間が男を待っていたが何時までも戻って来ないことに魔女にやられたのではないかと思い始める。
まさかという思いはある。
クフェアの所に行った男は仲間の中でも優秀であり今までに何人もの魔女を殺してきた経験と実績がある。
そんな男がと仲間達は口々に言うが相手は魔女だ。
今回は今までとは桁が違ったのかもしれない。
何せあの翠の魔女だ。
しびれを切らした仲間達は全員で話し合い全員で翠の魔女の元に武器を携え向かおうとした。
その会話を聞いていたものが居たのもしれずに。
「誰を殺すって」
死の風が吹いた。
そこにあるのは多くの亡骸と夥しい血と肉片。
在るものは細切れに。
在るものは押しつぶれ。
在るものは身体中を紫色に変え。
男の仲間達は一人残らず男の終わりを追うかの如く全滅した。