ラノベスロットの悲哀
俺はパチンコ、スロットが大好きな西山寛太。毎日のようにバイトの帰りにラノベパチンコ、ラノベスロットを打っている大学生だ。
「明日は新台入替!」
新しい台は寛太の唯一の楽しみだ。
大学の帰りに必死にコンビニのレジを打って稼いだ7万円。それを放出するときだ。
「明日は、きつつき茜先生のパチスロ『あの祝宴』を打つんだ。小説も全20巻読破の上、アニメも全部見た。最高の作品なんだよな」
寛太は興奮を抑えきれずにベッドへと飛び込む。
「大学は自主休校。おやすみ」
※※※
小鳥のさえずりとともに朝がやってきた。寛太の住む町は9時にパチンコ屋が始まる。朝の遅刻しないように、大急ぎで着替える。
パチンコ屋はチャリで15分の最寄り駅前だ。早速新台を打とうというのか10数人ばかりが列を作っていた。新台はたった1台の導入だ。寛太が祈るように抽選のくじを引くとをそこには見事に『1』の文字が。
「やったぜ! これで運を使い果たしたかもしれないが、一片の後悔なし!」
寒い風が吹き抜ける中、缶コーヒーを片手に開店を待つ。
「お待たせしました~。オープンで~す」
この店で紅一点のポニーテールお姉さんが入り口で会釈する。寛太もこれに笑顔で返し、新台めがけて、足早に歩く。
「やった、座れた! 尊敬するきつつき先生の台だ」
寛太は財布から1万円札を取り出し、サンドと呼ばれる機械にお金を投入した。
しかしながら、サンドはこの1万円札を受け入れない。ビービーとエラー音がなり、寛太はイライラしながら呼び出しボタンを押した。
すると、さっき会釈した、ポニーテールお姉さんが駆け寄って来た。
「すいません、大変失礼しました。サンドが壊れていまして、現在対応中でございます」
「えー。せっかくの新台なのに」
「申し訳ございません。大変不便ではありますが、隣の台にお金を投入していただき、そのコインを使ってくださるのでしたら、遊技可能です」
「めんどくさいな~。」
しかし、せっかくの新台。寛太は渋々、隣の台に1万円札を突っ込んだ。
ボタンを一押しすると、ジャラジャラと50枚のメダルが払い出された。それを両手でつかみ取り、自分の台の下皿へと放り込む。
一連の作業を1000円借りるたびに繰り返さなければ遊技できない。
寛太は早速メダルを投入し、意気揚々をレバーを叩く。
『ガクッ』とリールが1回転し、回し始めるとおなじみの『あの祝宴』が展開されていく。
「これこれ、この演出。アニメ1話のところだわ~」
※※※
しばらく寛太が回し続けると、なにやら違和感を感じる。このチープな筐体にではない、大股になって、メダルを貸し借りしていると、ズボンのファスナーがビリビリと音をたてているのがわかった。通称『パチンカス』には、衣服にお金をかける余裕はない。安物ズボンの股は壊れやすく作られているのだった。
「くそ~、このままでは破れるのも時間の問題だ」
寛太の後ろには、ポニーテールのお姉さんが新台にガン見とばかりに突っ立っている。
「やばい、このままでは失笑物の大恥野郎になってしまう」
こんな時に限って安っぽいスピーカーから『ボーナス確定』の音が。
「なんでこんなときに当たるんだ!」
ちょうどその時、メダルがなくなりボーナスをそろえるためにメダルを借りようとする寛太。アニメの主題歌が流れる中、股をゆっくりと隣の台に開いてくと。
『ビリっ』
やっちまった。安物ズボンの宿命か、見事にファスナーの端が破れていた。パチスロしている場合じゃない。寛太は股間を手で覆いながら、後ろのポニーテールのお姉さんに話しかけた。
「すいません! ちょっと緊急事態が発生しまして、この台解放します」
「あら、大丈夫ですか、もじもじしちゃって。私、このラノベ好きだったので早くボーナス中も見たかったのに残念」
「そ、そうだったんですか。同じファンとして嬉しいです。ですが、今日のところはここで終了してください」
「ホールの規定上、ボーナス中の台は電源を落とすことになります。よろしいですか?」
お姉さんが台を開け、電源を落とすと、周囲がざわつく。
「なんだよ、せっかくの新台打てないじゃねーか!」
「なんかあいつ、様子変だぞ。股間押さえてるし!」
ホール中の視線を浴びる中、大事な場所を押さえながら顔を真っ赤にして、ホールを走り去る寛太。
自転車に飛び乗ると、もうファスナーは全開となっていた。片手で押さえながら、半泣きで漕ぐ。
「そういえば、ラノベの主人公もヒロインに会うときチャックが空いていたわ……」
ふと、ラノベのシーンを回想しながら、自転車を片手で漕ぐ寛太だった。
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