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我が社の生贄

作者: 雉白書屋

 俺はロボットだ。そうロボット。この会社に勤めるロボット。

 語尾が『ロボット』みたいになっちまったが、そんな仕様ではないロボ。

 ほらな、このようにユーモアセンスもある高性能人工知能搭載の紛れもないロボットだ。

 尤も、今はどのロボットもこのくらいの思考できる。と、このように科学が発達したこの現代でなぜ、こんな風習が残っているのか。人間はおかしい。本当におかしい人間。


「えー、では諸君らの中から一体、生贄を選ぼうと思う」


 生贄。動物などを神への供物として差し出し、洪水など自然災害を未然に防ぐというもの。人間の生贄は最上級とされ、その昔、実際にあらゆる国で行われていたとされる。

 やがて、動物や人形など形を変え残り、そして消えていったが、それを今、この会社は行おうというのだ。なんという回帰だ。いや怪奇だ。

 

「諸君らも知っての通り、この建築業界で事故はつきものだ。そのために生贄を捧げ、祈祷するのだ」


 安全成就、永遠堅固、社の発展を願う、と。そのためにロボットを無意味に破棄することが愚かしいこととは思わないのか。

 いや、元々廃棄予定のロボットを穴深くに埋めてしまうというのが口実か。この会社だけではない。特に中小企業に増えているそうだ。処分費用を節約し、縁を担ぐ。一挙両得。中小企業ならではの卑しく愚かな考えか。


「ケケケ、暗い顔してるなFGK-8Dヨ」


「TR-14カ……」


「選ばれるのはオマエかもナァ。ケケケケケ」


 TR-14。こいつはメーカーは違うがFGK-8Dよりも二世代も新しいモデルだ。馬力はやつのほうが上で、しかもアタッチメントのドリルが三個も付属している。


「けけけけけ、それに比べてオレは安心安心」


「そうとも限らないんじゃないんでスカ?」


「FGP-1Jカ……」


 FGP-1J。こいつはFGK-8Dと同じ制作会社。その一つ新しいモデルだ。


「あん? なんだよ。オレが何か間違ってるのカヨ」


「あなたのご自慢のアタッチメントは、替えが高額すぎる。それに機動力はありますが耐久性にやや不安があるとの声も耳にしますネ。そのご自慢のドリルも、この前また壊したでしょう? それに比べ、FGK-8D先輩は未だ根強い人気があり、耐久力、汎用性に長けていまス」


「ケッ、自分はそのご立派な先輩よりも優れているから、生贄に選ばれることはないと思いたいんだろウ?」


「さ、どうでしょうかね。まあ、我々がいがみ合わなくとも、ほら、あそこに第一候補がいるじゃないですカ」


「あん? ああ、へへへっあいつカ」


 そう言い、三体が目を向けたのはDD-98X。デカい図体から、ひり出されるパワーがご自慢のやつだが、最近やたらと肩が外れると現場で顰蹙を買っているのだ。


「ボク……シニタク……ナイ」


「やめなさいよ。まっタク」


「あ、君は……」


 彼女はPP-33A。この職場の紅一点。女性型ロボットだ。俺も密かに恋心を抱いている。


「誰が選ばれても会社のためになるのだから誇りを持ち、胸を張るべきだし、称えるべきヨ」


「けっ、そういうオマエは社長の野郎と寝てるから安心だよナァ」


「な、根拠のないことを言わないで頂戴ヨ」


「けけけけ、この前、現場監督殿とどーこに消えてたんダヨォ。社長と二股かぁ? 女型は穴が多くていいよなァ」


「あーら、穴が羨ましいのならあなたも掘ってあげましょうカ? 私の指のドリルでネ」


「あなたもって、オマエ、まさか掘る側カ……?」


「さてどうかしらネ。ん、アラ。あなたは余裕そうネ。さすが、新人さんネ」


「フン……」


 奴はODRA779。PP-33Aが言うように最新型、いや、一つ型落ちだがこの会社には珍しく新しいロボットだ。ロボットだらけの現場では古参よりも新人のほうが立場が良いのが人間とは違う点だ。


「ケケケケケ! 奴は計算も早いからナァ。自分は大丈夫だと踏んだんダロウ。節約上手だものナァ」


「フン。オレは会社のために仕事をしているだケダ」


「不正も仕事の内ってカァ? 勉強になるネェ」


「黙レ。そろそろ発表だゾ……」




「えー、では発表する! 生贄になるのは…………」


 場が静まり返り、俺はこの世界に自分しかいないのではないかという孤独感を抱いた。そして、それが予兆のように思えてならなかった。

 俺はそっと手を合わせ神に祈った。生贄など、神への供物など愚かしい。神などいない。そう思い浮かび、その自己矛盾に頭がおかしくなりそうだった。そして、訪れたそれは罰なのか。それともやはり神などいないのか。


「……後藤くん。君だよ」



「フゥー」

「よしよシ、こいつカ」

「ま、妥当ですネ」

「ヨカッタヨカッタ」

「あなたとも楽しかったわヨ」

「お疲れさまデシタ」


 周りのロボットたちがそう言い、彼女が俺の肩にポンと手を置いた。そしてそのままギュッと掴んだ。周りのロボットたちも俺の手足を掴み、天へと掲げた。


「彼は我が社の現場監督の身でありながら施工ミスを取引先に密告しようとした裏切り者だ。さ、あの穴の中に放り込んでしまえ」


 俺もロボット。従順なロボット。会社に、社長に従順なロボット。そういう顔をしていたが、すべてバレていたのだ。

 密告しようとしたのは気の迷いだったんだ。安っぽいヒロイズムだったんだ。そう弁明してもロボットたちは止まらない。


「人間は愚かだネェ……」 


 どれかが言ったそれは社長に対してか俺に対してか。

 ゾッとするような落下感。伸ばした俺の手にはドリルはない。

 俺は人間。人間。正しい事をしたと思いたい人間……。

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