9 ナカラ村④
「おい、ターキー!居るか?」
ドアが開けば、威勢の良い胴間声。
後ろを向けば、大剣のようなものを背に背負ったガタイの良い筋肉質な男。
身長も、一七一センチメートルの僕よりいくつか大きい。一八〇センチメートル以上はありそうだ。
「えぇ、勿論。」
僕等への説明を中断して、胴間声に静かに返事をする質屋の店主、もといターキーと言われる男。
僕等と色々話していた時は、野太い声に少し鋭さが入っていたが、今はそれが丸くなっている。
つまり、入ってきた客はターキーの知り合いということだろう。
「ようこそ、鉄槌の山男さん。」
鉄槌の山男というのは客の呼び名だろうか。
だとしたらかなり厨二病の客な気もするが。
「はは、もうその言い方は辞めてくれ。八年も前の呼び名だろう。」
「いえいえ、八年経ったとて、貴男様の功績も実力も残っていますよ。
特に、九年前に貴男様が陣頭指揮を取った、『第3次エスカ山砦群防衛戦』は歴史に残る名戦でしたよ。」
「そんな昔の事を覚えているなんて、流石ターキーだな。
ところで、そこにいる子供と箪笥は何だ?少し妙ちくりんな格好をしているが。
転生人ではあるまいな?」
一瞬、冷や汗が背を伝う。
ターキーは僕を庇ってくれるだろうか。
もし庇われなければ……。
想像するのも恐ろしい。
ちらりと横を見れば、アーチェスの抽斗の取っ手が僅かに揺れていた。
「あぁ、彼は旅人だそうですよ。衛兵さんが言ってました。
路銀を稼ぐ為に、古い布を売りに来たんです。衣服は、転生人の集落の跡から取ったそうですよ。」
ターキーはなんとか庇ってくれた、とりあえず一安心だろう。
後はこれが鉄槌の山男に通じて、見逃してくれるかだが……。
「へぇ、転生人の集落からか。
おい坊主と箪笥、転生人の服なんて着てると変に勘違いされるぞ。」
勘違いというよりは実際転生人なのだが、まぁそこはおいておいて。
確かに、この服からは着替えたほうが良い。
売却の金で古着が買えるだろうか……。
「ああ、でも坊主は金が無いみたいだな。転生人の服を売るほどだし。
ここはどうだ、その服やら布やらをさっさとターキーに売っぱらって、俺に弟子入りしないか。
代わりの服や飯、寝床はあるぞ。」
悩ましい。
この鉄槌の山男の弟子になれば、様々な点において偽装が出来るようになるだろうし、何らかの力をつけることも難しくは無いだろう。
しかし、弟子になり、衣食住を委託することにより、僕達が転生者であることがバレてしまう可能性も上がる。
一長一短。
「どうする?アーチェス。」
アーチェスにも意見を求める。
「うーむ、せっかくのお誘いじゃ。受けても損は無いと思うが……。」
今回の誘いは、神に創られ、長い時を過ごしたアーチェスとしても判断しがたいような微妙なところなようだ。
「案じなくても大丈夫ですよ。
この鉄槌の山男もといザハーグさんは戦闘のベテラン中のベテランかつ、冒険者ギルドナカラ村支部の支部長です。
ザハーグさんは今までも多くの弟子を育てて来ましたが、その殆どが有名冒険者になっています。それだけお金も持っていますよ。」
どうやら、鉄槌の山男はザハーグという名前だったそうだ。
さっき僕達を庇ってくれたターキーさんがそう言うのだから、このザ・ハーグさんは信用に値する金持ちなのだろう。
「では、謹んでお受け致します。」
一礼。
「ようし、そう来なければな。
金は出すから今日のとこは村の宿に泊まって、明日冒険者ギルドナカラ村支部に来てくれ。」
「わかりました。
ところでザハーグさん、今日この店に来られたのであれば何か用があったのだと伺いますが、そちらはよろしいのですか?」
「ん?坊主は面白い事を言うな。
幾ら俺であろうと敬語なぞ要らん。俺は客じゃないんだからな。
それにしても、用か。何だったかな。
忘れちまったもんは仕方ない。思い出したらまた来るよ。」
豪快な性格だな、この人。
にしても、この世界では敬語は接客専用の言葉になっているのか。
言葉の使い方も気をつけなければ。
「そ、そうですか。」
「だから、敬語は要らんと言ってるだろ。
まぁ、いいか。
じゃあな!」
そう言って、質屋を去るザハーグさん。
「では、話を戻しまして、買い取りは先程の額でよろしいですか?」
「はい。大丈夫です。」
確か、一一一三○ルビーだったっけ。
「では支払い手形を発行します。
この手形は、貨幣局の換金受付で換金して頂くことで、現金化できます。」
なるほど、こういったことの支払いは現金でなく手形を用いるのか。
少し面倒に思えるが、これが普通なら仕方ない。
郷に入っては郷に従え、だ。
そして、新たな生活は産声をあげた。
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