8 ナカラ村➂
「なんですって?」
何故こいつは僕達が転生者ということが分かったのだろう。
「ほーう、はぐらかしますか。まぁ、恐らくなんで分かったのか分からないといったところでしょうねぇ。」
一旦落ち着こう、落ち着こう。
焦りはミスのもとだ。
「まぁ、折角来ていただいたんですし、種明かしを致しましょう。」
ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえる。
その音の紋が消え去って初めてそれが自分が出したものであると知った。
「その着物ですよ。
今まで、多くの転生者がこの世界に転生し、そのような布を広めていきました。
もっとも、今となっては転生者とその末裔、また技術は迫害の対象となってしまいましたが。」
男の言う通り、以前にも転生者が居るのであれば、着物から転生者だと知られてしまったことはまだ理解に容易い。
だが、転生者やその末裔が迫害されていることというのは意味がわからない。
「迫害というのは、どういうことじゃ?」
着物を渡してから口を開いていなかったアーチェスが、引き出しに不自然についた眉間にシワを寄せながら問う。
「少し長くなりますが、説明致しましょう。
まずは、この世界の政治等の情勢についてです。
この世界は、主に3つの大陸と4つの大洋で構成されています。
これは地図を見たほうが早いと思います。」
そう言って、何処からか地図が現れる。
「この地図の中央にある大陸、これが龍人大陸です。
この大陸には名の通り龍人と言われる人が住んでいて、他の大陸では殆ど取れないドラコーニウムが取れると言われています。
というのも、この大陸の多くの国家は他の大陸に対し閉鎖的で、あまり情報が入ってきていないのです。」
「そしてその南西に行くと、今私達が居る中人大陸があります。
先程申し上げた通り、転生者やその末裔、政府等には異端転生人と言われている人達が厳しく差別されている大陸です。
また、三大陸中もっとも面積が大きい大陸でもあり、12の国が在します。
87セクション、貴方達転生者の呼び方で言うと21年と3ヶ月前に転生者によって編纂された、『世界情報記』によると、『技術や生活水準は地球の中世欧州に酷似しているが、文化や実際の民草の生活等は、中世ヨーロッパのそれとは全く非なるものである。』とのこと。
もっとも、私には中世ヨーロッパなど分からないのですがね!」
つまり、この中人大陸を出ない限り、僕達はお尋ね者。
ところで、この『世界情報記』はかなり気になる。
男の話を聞くにこの本は地球と比較しながら世界の事を筆記してくれているように思えるからだ。
「そして最後が龍人大陸の北の北星大陸。
こちらも中人大陸には全く情報が入って来ていません。
ただ、噂によると北星大陸には転生者やその末裔が集う、『北星転生者連邦』があるそうです。
もし安息を求めるなら、ここを目指したほうが良さそうですよ。」
北星大陸。地図に穴が空いてしまいそうな程その文字を深く見る。
「さて、話を戻しまして。
こちらの着物二点ですが、ざっと四九六〇ルビーと六一五〇ルビーで計一一一三〇ルビーでどうでしょう。勿論、情報提供料は既に抜いてますよ。
あ、転生者でしたらルビーから説明が必要ですかな?」
少し皮肉が混じったような問い。
それはさておき、路銀が手に入るというのはかなり有り難い。姑息にも中抜きされてしまっが。
もっとも、ルビーからして分からないのだが。
「一〇〇〇ルビーで一ビッグルビー、一ルビーは一〇〇プチルビー。
こう言われてもわかりにくいと思いますが、まぁ正直個人なら殆どルビーしか使われませんし、ルビーとプチルビーを覚えて入れば大丈夫でしょう。
ちなみに、一般的な男性平民の一トップセクション、貴方がたの言い方だと一年の平均収入は一二〇万ルビー程ですね。この国での物価の指標となる、小麦価格が一フォンス五〇ルビーです。
一フォンスは貴方がたの世界だとオンスと言われるそうですね。」
一オンスは確かおおよそ三〇g。
つまり1kgが1700ルビーとなるわけか。
そして、収入の面も、日本のサラリーマンの平均収入の三分の一であるため、相対的にこの一一一三〇ルビーも相当の価値であるといったところだろう。
「収入だけを基準にして言うなら、約三七〇〇〇円程じゃろうな。」
「え?アーチェスって日本のこと分かるの?」
てっきり、知らないものかと思っていたが。
「えっ?あっ、ああ、そうじゃな。
ところで、店主よ。冒険ギルドなるものがあるようじゃが、あれはどういうものなのじゃ?」
露骨な話題転換な気もするが、まぁ詮索も良くないだろう。
僕も冒険者ギルドの事は気になるし。
「あぁ、それはですね……。」
店主が説明しようとしたその刹那、それを遮るようにして、店のドアが音を立てて開いた。
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