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7 ナカラ村➁

 床で寝ると身体の節々が痛くなる。

 これは前世から知っていたことだが、いざそれを感じてみると想像以上に辛い。


「起きてる? アーチェス。」


「ん? ああ、勿論じゃとも。」


「朝のうちに、今日の事について考えておきたいんだけど。」


 アーチェスが居るとはいえ僕達は殆ど何も持たずにこの世界に放り出された様なもの。

 生き残って行くためには、それなりに計画性を持って行くことが大切だろう。


「うむ。それは良いことじゃ。して、高木殿はどうする気じゃ?」


「とりあえず情報収集かな。何分僕達はこの世界の事が分からないからね。この村の人達に色々聞いてみようかなって。」


 僕等はこの世界を知らない。

 知らない中で生きていくことは不可に等しい、一文字、一言でも多く知らないと。


「聞き込みで情報収集……か。堅実で良い策じゃと思うぞ。じゃあ儂は……」


 グ〜

 アーチェスの言葉を遮るように、僕の腹の奥から気の抜けた音が響いた。


「……儂の中に袴や振袖があったじゃろう。あれを売ればいくつかの路銀にはなるじゃうて。とりあえずそれで飯を食べようではないか。」


「ごめんね、アーチェス。気を使わせちゃって。」


「気にするでない。腹が減っては戦はできぬからな!」


 アーチェス……。

 もう一度、彼について見直すこととしようか。


「旅人の人達、朝です。これからまた我々衛兵は出ますが、旅人さん達はどうされますか。」


 そういえば、ここは衛兵事務所だったなぁ。

 衛兵さん達もこれからここを使ってもおかしく無さそうだし、出ていったほうが良いのかな。

 一応アーチェスにも聞いておこう。


「どうする? アーチェス。」


「路銀が出来れば、安宿にも泊まれるようになるじゃろう。出ていいんじゃないかのう。」


「ということで、衛兵さん、僕等は出ていきます。」


 昨日は暗かったから良く見えなかったけれど、よく見ると衛兵さんはかなり重装備。

 金属製の甲冑、腰には剣が二本、背中には弓まである。

 そんなに物騒な世界なんだろうか。この世界は。


「分かりました。では、良い旅を。」


 衛兵事務所を出た。

 徴兵事務所の中は寒かったが、外は案外あまり寒く無く、心地よい程の温度だった。


「例の地図にナカラ村の地図ってあるのかな。」


 着物を売ろうにも、どこに売ったら良いのかわからない。


「じゃあ、あの地図を見てみるとしようかのう。」


 アーチェスが、『〜リアルタイム更新〜全世界7861個網羅地図』を取り出すと、

『ナカラ村の地図を表示しますか?』

と問われた。


「うむ。」


アーチェスがそう答えると同時に、頁が風によって飛ばされる羽のように捲れ、一つの頁を示す。


「ふむ、質屋は一軒、宿は二軒、飲食店は一軒あるようじゃな。」


「冒険者ギルドとか装備屋、魔法屋もあるね。異世界感がある。」


「そりゃ、異世界じゃからの。さて、質屋は近くじゃ、早いうちに行こう。」


「うん、そうだね。」


村の中心の方に向けて歩きだす。といっても地図を見た限りではナカラ村も決して広いわけではないのだが。


村といえば農業のイメージがあったが、道から見えるところで言えば畑や田は見当たらない。

ここは内陸で漁業はできないし、農業以外の事、即ち観光業や鉱業、工業で生計を立てているのだろうか。

観光業が基幹産業なのだとしたら、村という名前と規模の割に宿が多いのにも腑に落ちる。


アーチェスの言う近いというのは別に田舎の感覚ではなく、普通に近かったようで、そう考えているうちに質屋の前までやってきた。


看板には、

『高価買取 ギプノーザ ナカラ村店』

との文字が。


この看板や衛兵との会話から考えるに、この世界では日本語が通じるようだ。


随分と楽な異世界だと思う。お陰で高価買取とかいう胡散臭い文字を異世界で見ることになったけれど。


入口はガラス戸。一昔前の二本のような。

それを横に開き、店内へ入る。


「いらっしゃいませ。」


店の奥から、野太い声が響く。

僕等が店の中へ中へと歩むと同時に、のっそのっそと音がする。


薄暗い店の中は一本の通路のようになってい手、その両端に何かの書物が並んでいる。


僕等が薄く消えかかりつつも『買取場』と読み取れる張り紙まで進んだ時、一人の小太りの男が現れた。


「高価買取ギプノーザナカラ村店へようこそ。あら、お客さん見ない顔ですねぇ……。服装も変なもんだ。……まぁよろしい、品を見せてくださいな。」


なんだこのおじさん、かなり胡散臭い。

頭こそ禿げていないが、嫌悪感を催してしまうような笑い方や握られた太い指、手がそう思わせるのだろう。


「今回売りたいのはこれじゃ。衣類じゃな。」


そう言ってアーチェスは袴と振袖を取り出し、僕は男に手渡す。


男はそれらを一つずつ丁寧に捲ったり、広げたりしてそれをじっと見つめる。

僅かな間だけ見えた美しい花の柄は、すぐに男の手に隠れた。


2分ほど、経っただろうか。


男が顔を上げ、またあの気色の悪い笑みで僕等に言った。


「お客さん達、転生者ですね?」


入口のガラス戸に強い風が当たり、大きな音が静かな店に響いた。

読んでくださり、有難う御座います。

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