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6 ナカラ村①

「ねぇ、アーチェス。僕等が目指してる村ってあれじゃないかな。」


 そう言って指を指した先には、木の柵に囲われた家々。

 さらに奥の方には、周りの中世の西洋風の家より少し大きめの家もある。


「ふむ、おそらくそうじゃろうな。もう陽も傾きはじめておるのじゃから、急いで行くぞ。」


 森を抜けた時には南より少し東よりだった陽。

 でも今はもうあの丸い円から黄金が溢れ出てしまう程傾いてしまっている。


 陽が暮れて辺りが暗くなったらもう進むのは難しいだろう、この世界の夜が前世と同じなら。


 だからといって野営はできない。テント等の野営用の物が無いから。


 そして僕達はまだ歩む。村へ行くために、速さを速めて。


 不覚にも、近いと思っていた村は全く近くなく、一つ二つ小高い丘を登ってやっと到着する距離だった。


 木製の柵は思いの外高く、アーチェスの上に僕が乗っても越えられない。


 規模が小さいからだろうか、守衛の一人すら門にはおらず、門は閉じられてるから入ることもできない。


 少し考えたあとに

「すいませーん、どなたかいませんかー?」

 と声を上げると、

「はい、何用でしょうか」

 と低く野太い声が返ってきた。


「ちょっと寝床に困ってて、入れて欲しいんですけど。」


「なるほど、よくこんな遅くまでこんな辺境の地に歩いてこられましたね。そうだ、そういう事でしたら守衛事務所の休憩室をお使いになられますか?」


「それなら、ぜひ是非お言葉に甘えさせて頂きます。

 いいよね? アーチェス。」


 一応、アーチェスにも確認をとる。もうお願いした後だから事後承認になるけども。


「勿論。お言葉に甘えさせてもらおう。」


「では、門を開けますので、その後は中の守衛の指示に従ってください。」


 そう胴間声が返ってくると、重い音を立てながら門が開く。


 そして守衛が一人出てきた。


「ようこそ、我等がナカラ村へ。長い旅路をお疲れ様でした。

 本日の貴方がたの、宿泊場所の守衛事務所はあちらになります。」


 挨拶と共に指を指された先は、木製のちょっと小さな一軒家。


 案外距離は離れておらず、守衛が見守る中僕等はそこまで辿り着いた。


 トン、トン、トン。


 ドアを三回ノックする。


 向う側からの返答はない。


 なるほど、今回僕等は無人の部屋を使わせてもらえるようだ。


「失礼します。」


 萎んでしまいそうな声と共に恐る恐る入った一軒家の中は、机と本棚があるだけの事務所のような何か。

 いや、事務所なんだから“ような“は要らないよね。


「ベッドや布団は無さそう……じゃな。

 この部屋の広さなら、多分床に三人くらいは寝れるじゃろう。」


「床に寝るのかぁ……。」


 この世界に来て初めての部屋がこんな質素だと、ちょっと残念。


「貸してもらっておいてなんじゃが、確かにちょっとシンプルすぎるの。まぁ、でも、雨ざらしでいつ敵が襲ってくるかもわからんような野宿よりは随分マシじゃろうて。そうじゃ、儂の中に振袖と袴、風呂敷があったろう、あれを布団代わりにできんかのう。」


 そう提案するアーチェスだが、もう足と手を収めて壁に直立してしまっていた。


「いや、大丈夫だよ。服もあるし。……ところでアーチェス、その何処かの家にありそうな普通の箪笥みたいな格好何? 寝ないの?」


 僕以外だったら古いただの桐箪笥に見えるよ、これ。


「おお、この格好のことか? 儂はこうやって寝るんじゃよ。寝っ転がってたら微睡みの中に居る人に足の小指がぶつかるからの。創造に認められた程の小指スレイヤー故、無駄な小指スレイはしたくないからの。」


「そ、そうなんだ。

 じゃあ、おやすみ。アーチェス。」


 案外、この世界は前世のような金と僅かな人情が全ての世知辛い世界ではないようだ。


 夜は徐々に更けていく。

 星星は光り輝き、夜を歩むもの達を静かに見つめる。

 そして大きな白い月は、時偶浅葱鼠色のくぼみを見せつつ夜と眠りについた人を優しく包んでいた。

読んでくださり、有難う御座います。

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