5 抽斗の中
読んでくださり有難うございます。
てんやわんやの追いかけっこの後、暗い暗い森の中を歩む。
僅かに零れて落ちてくる陽の光は、今が昼前であることを静かに知らせる。
生い茂った枝を掻き分けるうちに、ふと、踏みしめた靴の裏にぬめりの様な不快感を感じて、思わず声を上げた。
「うぇ、今なにか踏んだ?」
「ん?どうした、高木殿。」
一歩先に行っていたアーチェスが歩みを止めてこちらを振り返る。
自分の履いていたスニーカーの裏を見ると、緑色の濁った粘液のような物が。
一旦靴を脱ぎ、靴の裏から爪を用いつつその粘液をひっぺがす。
靴を履き直したあと、剥がした粘液の一部を右手に乗せて、アーチェスに差し出して聞いてみた。
「ねぇアーチェス、これ何か分かる?」
老眼なのかと疑いたくなるほど目を近づけたり遠ざけたりして、最終的には
「分からん!」
と言った。
それを聞いて少しガッカリしたような僕の表情を見たからか、アーチェスは、
「この液体がなんなのかは分からぬが、一応儂の中に保管しておくのはどうじゃ?
一応儂が生きておったらそのままの状態を保存できるから、分かる者が見つかった時に聞けるしの。」
と代案を提出してくれた。
別にそれを断る訳もなく、お言葉に甘えて1番下の抽斗に入れさせてもらったのだが……。
「ねぇアーチェス、見た感じだと奥の方に中身あるけど、今アーチェスにはどんな物が保管されているの?」
そう、アーチェスの引き出しの中は案外狭く、奥の方に至ってはもう埋まっていたのである。
無限収納なんて嘘で、収容能力的にはただの箪笥じゃないか?という事も頭をよぎる。
「ちょっと待っておれ。……ふんぬ!」
そうアーチェスが力んだ刹那、一人と一棹の目の前にのホログラムの画面が現れる。
「これを読んでみるんじゃ。そしたら分かるじゃろう。」
『神力 無限収納
効果 無限に物を収納出来る。
保管物 謎の粘液(new!)
錆びた薬缶
高そうな袴
高そうな振袖
古びた風呂敷
古い玩具箱
折れた日本刀
普通のコンパス
女神からの手紙
苦い喉飴
全世界地図』
ガラクタばかりじゃないか、これ。
なんなら、やけに古いものが多いが、アーチェスの中では物は劣化しないんじゃないのか。
もしや能力で鯖を読んだのか?
「なぁアーチェス、見栄を貼りたいのは十二分に分かるんだが……」
そんなつもりじゃなかったとしても、僕が被害を被りかねない嘘は良くない。
「何を失敬な!
これは入れた時からその物が古かったからであって、別に抽斗の中で劣化した訳では断じて無い!
ほれ、着物やら喉飴やらは劣化した表示がないじゃろう?それが儂の言う証拠じゃ。
そもそも、喉飴は普通の箪笥の中に入れておったら、溶けたり腐ったりしておるじゃろうに。」
確かに、着物や喉飴は全く変化していない。
じゃあ、なんでわざわざ中身が劣化しない抽斗でこんなガラクタみたいな物を大切そうに保管しているんだ、この箪笥は。
ん?これは……。
「今気付いたんじゃが……、」
「僕もひとつ気付いたんだけど……、」
奇遇にも同じタイミングで何かに気付いたらしい。
「「地図持ってるじゃないか」」
「ちょっと出してみるぞ。」
そうして抽斗の奥からひとりでに出てきた地図は、地図らしからず、まるで前世で見た時刻表の本のようなもの。
だが表紙は革で、ひとつ捲って現れたページは羊皮紙のようだ。
『〜リアルタイム更新〜全世界7861個網羅地図 』
と記されたページをめくると、目がチカチカするような程の長さの目次。
題名の7861は世界の数のようで、それぞれに広域地図や詳細地図があり、星の一つ一つのことまで書いてある。
「流石にこの中から今いる世界線は分からんのぉ……。」
『今居る世界、地域の詳細地図の頁を開きますか?』
またもや現るホログラム。
流石に全てから探させる気は無かったようだ。
「頼んだ。」
そして現るこの近辺の地図。
ご丁寧に現在位置と今向いている方位まで記してある。
僕は決して地図を読むのが得意な人間ではないのだが、なんとか目をこらして読んでみると、北に進むと村に出られることが分かった。
……どうやら、僕達が暗い森の中を当てずっぽうに歩んできた道は無駄だったようだ。
それでも気を取り直して、アーチェスに声をかける。
「じゃあ、この地図に従って進んでいこうか、アーチェス。」
「そうじゃな。少し残念な気はするが。」
いつしか森を行く足は軽くなり、木漏れ日が僕らを照らしていた。
行き着く集落が平和で優しい人のあり触れる良い所であることを願う。
読んでくださり、有難う御座います。
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投稿遅れまして申し訳ございませんでした。
2月頃から再開します。