3 箪笥
見つけてくださり有難うございます。
「お〜い、お主、そろそろ目覚めんか?」
まだ眠気の覚めやらぬ中、寂声とその持ち主は僕を起こそうとしていた。
「んん、……。」
強い眩しさを抱えつつ開けた瞳に映ったその声の持ち主は、なんとも吃驚するものだった。
「ん?なんじゃ、そんなに驚いた顔をして。
何か変な事でもあったか?」
何でもないような顔と声をして、僕の目を覗いていたのは、声に見合った老人でもライトノベルでよくある少女でもなく、ただのそこら辺の家に置いてあるような普通の桐箪笥。
でも、よく見るとちょっと小さい気がするけれど。
「え、えぇぇぇぇぇ!?」
思わず、そんな叫び声を上げてしまった。
「おうおう、朝っぱらから元気がええのう。
儂にもその元気が欲しい位じゃわい。」
まるで元気な孫を見るお爺さんのようにそう言う眼の前の桐箪笥。いや、もしかしたら声などの点を考慮するにこの箪笥も年齢的にはお爺さんかもしれないが。
「い、いや、元気がええのう、じゃなくて、なんで箪笥が喋ってるの!?」
お爺さんと言える程年季の入った箪笥って言うの少し珍しいけど、それ以上に箪笥という木製の家具が喋る筈がない。
「ん?お主が支援物資選択で儂を選んだからに決まっとるじゃろ。」
支援物資?
あ、まさか……。
「お、ようやく分かったようじゃな。
そう、選択肢で一番下にあって選択順位ワースト1位である儂、その名も神箪笥『アーチェス』!」
えっ、いや、何言ってるかわかんないんだけど。
このお爺さん桐箪笥、もしかして厨二病引きずってるのか?
「ちゅ、厨二病とは失礼な!あとジト目で見るでない!
これでも創造神様から頂いた神力が儂にはあるんじゃぞ!」
「あー、はいはい、そう言う痛い人とはあんまり付き合わないようにしているので。
さようなら。」
そう言って立ち去ろうとすると、すぐに桐箪笥はあり得ないスピードで僕の前にやってきて、道を塞いだ。
「ほ、ほら、今の見たじゃろ?
こんな感じでスピード出せたりするから、どうか、どうか置いて行かないでくれぇ……。」
デクレシェンド気味に早口で発されたその弱々しい声は、僕の同情を誘う。
ここでさらに上目遣いをされ、さらに僕の同情はあの箪笥に近付けられる。
「あぁ、もう、分かったよ。
これから先連れて行くから、邪魔をしないでくれ!」
そう、一瞬の隙を遂に見せてしまった。
「おお、本当にありがとう……。
お主は儂の恩人じゃ。
改めて挨拶する、儂は神箪笥『アーチェス』、創造暦八六年、大体四二〇〇年位前に創造神様によって作られた神具の一つじゃ。
使える神力は二つ、無限収納と小指スレイヤーじゃ。」
急に態度が変わったな、上に見られるとなんだかむず痒い。
「なんとなくアーチェスがどんな存在かは分かった。
とにかく、かなり昔に作られた神力という力を持った箪笥なんだな。」
「お、物分かりが早いのう。
大体の転生者は普通かなり困惑して、理解に半日程掛かると言われておるが、何故そんなにも理解が早いんじゃ?」
「理解なんてしてないし、全く今の光景が信じられない。
ただ、目の前で起こってる事は本当なんだから、理解するしか無いでしょ?」
これは僕のモットー。
今回の事に限らず、世の中には正直信じられないような事が沢山あった。
その中、「意味がわからない」なんて言っていてもどうにもならない事だってあった。
だから僕は、眼前の事を真実と見て突き進んでいく。
「そういえばアーチェス、君の神力について質問なんだけど、良いかい?」
さっき軽く聞いてから、少し疑問に残っている事がある。
「無限収納は無限に物を収納できるっていうことなんだろうけど、この小指スレイヤーっていう神力、何?」
「ああ、それか。
それはのう、儂が四二〇〇年もの月日を過ごしていっている内に、儂は色んな人の手に渡ったんじゃがな、儂を手に入れた人は必ず儂の角に足の小指をぶつけるんじゃよ。
それによって創造神様が面白がって、小指スレイヤーという神力を授けてくださったんじゃ。」
えっ、ちょっと待て、だとしたら僕も足の小指をアーチェスにぶつけるのでは?
「流石に僕の足の小指はぶつからないよな?アーチェス。」
「大丈夫じゃ。流石に神力はコントロールできる。」
流石にそうだよね、暴走したりはしないよね。
「あ、言い忘れてた。僕は高木亮、まぁ、冴えない人間だよ。よろしく。」
冴えない、といったがそれは本当。
年齢=彼女居ない歴かつ万年金欠だった前世、今世位は是非とも青春させて欲しい。
「うむ、よろしくじゃ。
ところで高木殿、これからはどうするつもりだ?」
殿、か。
何だかおかしいけれど、この箪笥にとってはこれがデフォルトなのだろうし、指摘するわけには行かないよな。
「う〜ん、どうにかして街、じゃなくても良いから村位には行きたいなぁ。
アーチェス、地図とかない?」
そう、大絶賛今はだだっ広い平原の中。
家や街どころか道すら無く、まわりには草しか無い。
「生憎持ってないんじゃが、儂は一つ良い方法を知っておる。」
持ってないのは残念だが、良い方法か。
亀の甲より年の功、やはりここは四二〇〇年もの時を過ごした箪笥だからこそ知っている方法があるのだろうか。
「良い方法?なんだそれは。」
「それはのう……。」
少し間を置かれたので、思わず唾をゴクリと飲み込んでしまった。
「そう、とにかく見つかるまで歩き続けることじゃ!」
前言撤回、この箪笥には年の功どころか筋肉以外の脳すらなかったようだ。
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