10 ザンツウェルク①
「腕立て伏せ!一〇〇回!」
「はい!」
ぜぇぜぇ……、はぁはぁ……。
「一、二、三……、遅い!もっと速く!」
えぇ……?困惑しか湧き出ない。
とはいえ従うしかなく、スピードを速めつつ腕立て伏せを続ける。
「三一!三二!三三!」
カウントしなくて良いというのは楽であるが、そもそもとして運動自体が辛い。
地球に生きていた時にあまり運動していなかったのも響いているだろうか。
そもそも、なんで僕がどこかの国の軍隊の訓練みたいなことをしているのか。
そこでいくつか、思い出してみようと思う。
時は遡り、弟子の誘いを受けた翌日の朝。
僕はザハーグさんに言われた通り、冒険者ギルドナカラ村支部に来ていた。
冒険者ギルドには居酒屋も併設されているようで、朝っぱらから呑んでいる人も多い。
夜通し飲み続けていたのか、酔い潰れて寝ている人もいた。
やはり服装もあるのだろうか、数少ない素面の人には怪奇の目を向けられる。酔っ払った人には……気づかれていないようだった。
辺りを見回す、居酒屋の端も端にザハーグさんが一人座って何かを呑んでいた。
向こうも僕を見つけたのか、
「おい坊主!こっちだ!」
と呼んだ。
僕がザハーグさんの向かいの席に座った途端、港言われたのだ。
「弟子になるからには、とにかく鍛えてもらう。」
その時、僕の頭の中には、ただ一つの言葉が思い浮かんでいて、無意識のうちにそれを声に出してしまっていた。
「は?」
それからは僕の思考が追いつかぬうちに次々と物事が進んでいった。
馬車にのってザハーグさんの屋敷への移動、さらにその中で怪しい魔女のようなおばさんに魔法適性の鑑定をしてもらい、また体力テストや学力テスト等が行われた。
体力テストは当然落ちたが、学力テストはそこそこの成績であった。
出題される問題としては小学校の範囲内だったのだが、高校を卒業しているのに満点を取れなかったのには理由がある。
どうやら、この世界の標準的な初等教育の教科は、国語、算数(数学)、社会(公民、地理、歴史)、外国語、体術、一般常識であるらしく、そのうち今回出題されたのは国語、算数、一般常識の三科目だった。
言語は不思議と分かるので国語と算数は勿論解くことができたのだが、一般常識だけが本当に分からなかったからだ。
その分からなさは解答用紙を提出した際、ザハーグさんに、
「ほぉ、坊主、あんた常識ねぇんだな」
と言われる程であった。
おかげで僕は一般常識等の学習面にも力を注がなければならなくなったのである。
それはさておき、屋敷に入り、正式にザハーグさんの弟子になった。
一日の鍛錬も、学習も、一つでもサボれば懲罰対象であり、どれだけキツくてもこなさなければならない。
そして僕は、今腕立て伏せ一〇〇回のうち六五回目を行っているのである。
ちなみに、事前に通達されたトレーニングメニューによると、このあとは腹筋一〇〇回、倒れるまでトラック走り込みの二つだそうだ。
倒れるまでと前世で指示を出したらパワハラやらやり過ぎやら言われるが、ここは異世界。
パワハラなんて無い上、そもそもこういった僕等からしたらハードなトレーニングがこの世界の普通のトレーニングなのだ。
それから二時間程。
「はい!一旦休憩!」
そう言って疲れ果てて地に伏した僕をザハーグさんが持ち上げ、休憩所へとつれていく。
「一周目で倒れたか……。
体力テストの時点で殆ど体力が無いのは知っていたが、ここまでとは思わなんだ。
一度トレーニングメニューを軽くして、徐々に上げていくほうが良いのかもしれないな。」
遠く聞こえる声に僕は歓喜する。
少しだけであろうと、運動量が減ってくれるなら万々歳だ。
そう、ふと思ってしまったのが迂闊だった。
「あれ、坊主まだ意識あるのか。
ならまだ行けるな。明日からも同じメニューだ。頑張れよ。」
後悔の言葉を、機関銃の如く止まず叫びたかった。
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遅れた+薄くなってしまって申し訳ないです。




