森の魔獣と聖剣 3
「待て。」
森を数十分進んだところで、ファルシは進行を止めた。
ファルシは草むらの陰から少し先の開けた場所を見る。
「やはり居るな。」
その鋭い視線の先には数匹の魔獣の影があった。
グレイウルフは一見普通の狼のようだが、その灰色の毛に覆われた体は鎧のように固く、よく見ると狼の額に紋様のようなものがある。
この紋様は魔紋と呼ばれ魔獣の体に共通して刻まれており、おそらく魔素の影響だと言われている。
そしてそのグレイウルフの中に、一回り体の大きな個体がいる。これがグレイターウルフだ。
グレイウルフと比べて体が一回り大きくなっただけではなく、刃物のように鋭く発達した爪を持ち、針のように鋭利な毛に覆われている。
「グレイターウルフを含めて数は四体か。」
調査団に緊張が走る。
「作戦はさっき言った通りだ。グレイターウルフは俺とラストが相手をする。他は取り巻き達を頼んだ。倒すのが難しそうならせめてこっちに近づかせない様にしてくれ。」
みんな静かにうなずき、ファルシの合図を待つ。
「それじゃ行くぞ!」
その声を合図に飛び出し、それぞれが自分の持ち場に着く。
ラストとファルシもグレイターウルフの正面に立つ。
「グルルゥ・・・」
こちらを睨み、唸り声を上げるグレイターウルフ。
「っ⁈」
「怯むな!」
グレイターウルフはラストが威嚇に気圧されたのを見ると、その体躯に見合わないスピードで近づき、鋭い爪で一撃を放つ。
とっさに腕を前に出してそれを防ごうとするラスト。
ガキンッ
ラストの腕を引き裂くと思われたその攻撃は、ラストの前で何か透明な板で阻まれたように止まっていた。
ファルシの方を見るとその手に指揮棒のような物を持って、ラストの方に向けている。
この障壁はファルシの仕業だ。
これは、魔法障壁と呼ばれる魔法使いの基礎的な技術だ
。仕組みは単純で、魔力を物質化し対象の周りを覆うだけだが、その強度は魔術師の熟練度に左右される。
グレイターウルフの攻撃を防げるほどの強度でこれを使えるファルシは、相当な腕前をもつ魔法使いと言えるだろう。
ファルシは叱咤を飛ばす。
「防御は俺に任せてお前はあいつを倒すことに集中しろ!」
攻撃を阻まれたグレイターウルフは一度距離を取り、ファルシを脅威と捉えそちらに標的を変える。
体をファルシの方へ向け口を大きく開いたと思うと、口から風の弾丸が放たれる。
しかし、その攻撃もファルシは難なく防いだ。
(すごい!グレイターウルフの攻撃をあんなに簡単に防ぐなんて。いや、感心してる場合じゃない。僕は僕の役目を果たさないと!)
ラストはファルシにグレイターウルフの相手を任せて、自分の魔力に集中する。
ラストの魔力の高まりを感じたのかグレイターウルフはそちらを伺うが、それを阻むように、礫が飛んでくる。
「悪いが、そっちを狙わせるわけにはいかないんでね。」
これはストーンバレットという魔法であり、これを連射してファルシは立て続けに攻撃をしかける。
グレイターウルフはそのスピードをもって弾丸のように飛んでくる礫を簡単に避けられてはいるものの、ラストに近づけないでいた。
ファルシに思い通りに動かされている事に苛立ちを覚えたのか、狙いを完全にファルシに変え、突っ込んでゆく。
「っ⁈アクセル!」
今までと同じように魔法障壁で防ごうとしたが、危険を感じて即座に加速の魔法でその場を離れる。
グレイターウルフの攻撃は魔法障壁を割り、ファルシの居た地面に深い爪痕を残した。
「・・・今のは危なかったな。」
(攻撃の瞬間、奴は爪に風の魔法を纏わらせていた。もし避けなかったらと思うとゾッとするな。)
グレイターウルフはその爪や尻尾に風の魔法を纏い、追撃を仕掛ける。
「だが、さっきのを当たられなかった時点で、お前の負けだ。」
部分強化で脚力を上げたラストが飛び出し、グレイターウルフの横腹を切り裂く。
「キャゥン!」
グレイターウルフは血を出しながら吹き飛び、生えていた木の幹にぶつかった。
「やった!うまく出来た。」
ラストの剣には魔力による膜のようなものが見える。
「気を緩めるな!まだ終わってない。」
グレイターウルフは少しふらつきながらも立ち上がっていた。
まだまだ戦う気のようだ。二人を鋭く睨んでいる。
「ラスト。次の攻撃で倒すぞ。あの傷ならさっきのようなスピードは出せないはずだ。臆さずいけ。奴の攻撃は俺が防ぐ。」
「はい!」
「行くぞ!」
ラストを前衛に二人はグレイターウルフに詰め寄る。
対して、グレイターウルフもそれを迎え撃つように二人に向かっていく。
彼らはこれで決着になると思っていたが、戦いは二人の予想をしていなかった終わりを迎える。




